メディアグランプリ

カタールW杯での「解説」が日本サッカーの未来を決める


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:籔田聡(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
どの分野でも、的確な批評・解説というのは中々お目にかかることはない。
「良い文章だ」という批評は、「良い」か「悪い」かの2等分にして「良い」に入ると言ったに過ぎない。「良い文章」だという批評で、良い文章を見分けるヒントを得られるだろうか?
「良い文章を書きたい」と思うなら、より具体的な確認ポイントと評価基準を示しながら、具体的に改善ができるレベルの批評や解説を受ける必要がある。
ただ、「良い文章だ」レベルの曖昧な批評をすることは日常的な行為だ。私もそのレベルの曖昧な批評や・解説を自分でもよく使っている。「仕事ができる人だ」、「腕が良い職人だ」、「センスの良い着こなしだ」など。雑談はもちろん、仕事の会話でもこの程度の表現で充分なことが多い。ただ、何かを本気で上達させたい場合は、そのレベルの批評や解説で留まることは危険だ。日本のサッカーがそれだ。「世界との差が大きい」、日本サッカーへのこの手の批評は1994年からずっとされてきた。しかし、その具体的な中身が、サッカーファンに示されることはほぼなかった。
 
私は1994年のドーハの悲劇でW杯を初めて知り、2002年の日韓W杯はお祭り騒ぎをしていたファンの一人に過ぎない。その後も日本代表の試合は欠かさずに見ていたが、2010年、2014年と段々と熱は冷めていった。
これは私の仮説だが、日本サッカーが世界に向けて成り上がっていくストーリーをファンは楽しんでいた。その象徴的なイベントとして、日本代表の試合があり、海外で活躍する中田英寿のような選手達を応援するために海外サッカーを観た。
「世界との差」は時間が解決してくれると多くのファンは信じていた。ところが、2014年にマスコミが史上最強と持ち上げ、日本代表の一部の選手が「優勝」を目標に掲げたにも関わらず、1分2敗と全く良いところなく敗退した。世界との差が埋まるどころか、むしろ広がっている現実を突きつけられた。日本サッカーのストーリーは完全に停滞してしまった。そうした結果、私と同じようにサッカーを観ることから離れた人が増えたのだ。実際に日本代表戦の視聴率は下がり続けている。
 
既存のサッカー解説や批評では、世界との差を埋めるヒントは得られないことにサッカーファンも気づいてしまったのだ。いつも「決定力不足だ」、「世界との差を見せられた」、「戦う気持ちが足りない」などだ。誰も「決定力不足」の正体を明らかにしてくれない。解決策はいつもストライカーの育成ぐらいだ。
人気のある解説者は、ファンの気持ちの代弁者のような発言が多く、それが視聴者にも受けていた。「1点欲しいねー」、「PK!PK!」など、どのファンよりも熱くなる解説者は人気だった。日本代表の成長ストーリーを追うことがテレビでは重要で、サッカーのディティールを解説するよりも一緒に盛り上げることが大事だったからだ。
 
2018年ロシアW杯、その潮流の始まりを私はたまたま見つけた。ドワンゴのサービスである「ニコ生」を使った、サッカーの同時解説だ。参加者はテレビで放送されているサッカーの中継を見ながら音声をOFFにして、同時に「ニコ生」側の音声で詳しい解説を聴くのである。テレビの放送での解説が「表」であり、「ニコ生」のような別のメディア側での解説が「裏」と呼ばれ、それらは総称して「裏解説」と呼ばれるようになった。
「ニコ生」で解説していた、五百蔵容さんはサッカー分析家(本業はゲームプロデューサー)としてサッカーメディアに寄稿していた。その記事はかなり具体的かつわかりやすく記載されており、一部のサッカーファンに有名だった。そして、私のようなサッカーを具体的に理解したいファンが、詳しく具体的な批評や解説を目的に「ニコ生」に集まった。
 
「裏解説」の特徴はいくつかあるが、一番の違いは具体的かつ詳細で時には専門的な内容も含めて解説されるところにある。例えば、対戦相手のここ数試合を分析し、基本的な戦術から選手の特徴に始まり、時間帯ごとにどのような展開やシーンが多く発生するかが予想され、何が勝負を分けるのかまでが話される。試合後には得点・失点シーンはその要因を深堀りを行う。「決定力」があったというような曖昧なものではなく、得点に至るまでの流れでどこに要因があったか、試合全体の流れから同じようなシーンが再現されていたかなども解説する。そのため、試合前の時間に1時間ほどのプレビューがあり、試合後も1時間から2時間のレビューがなされる。
サッカーの試合は、90分間で同じようなシーンが実際に何度も繰り返され、私も時にそれには退屈さを感じていた。しかし、その一つ一つを分析的に解釈できるようになると、同じ状況が再現されることがチャンスなのかピンチなのかを読み取ることができ、90分はあっと言う間に終わるのだ。
 
私が調べた限りでは、裏解説は2018年のW杯で「ニコ生」で五百蔵容さんと中村慎太郎さんが始めた「【ロシアW杯】地上波では絶対流せない実況」が最初だった。
その後、裏解説はLINEだったりFacebook中継を利用して、元日本代表の戸田和幸さんや岩政大樹さんをはじめ、戦術解説をするYoutuberなどが出てきた。
ロシアW杯後に裏解説を始めた戸田さんは、毎月ごとに会員を募集し、限定されたメンバーだけが聴けるクローズドな環境で解説を行った。「SHIN KAISETSU」と称されたそのグループは、どんどん会員は増えていき最大500人の会員枠は募集するとすぐに完売するようになった。私は特に戸田さんの解説を好んで追った。最初から会員を続けて、一度は配信している現地に赴いて目の前で解説を聴かせていただいたほど感銘を受けた。
 
ロシアW杯後、サッカー人気が低迷したことで民放でのサッカー放映が減った。その結果、海外サッカー、Jリーグ、日本代表の試合を有料チャンネルであるDAZNが放送することが多くなった。有料チャンネルでわざわざサッカーを観るようなファンからは、より具体的で分析的な解説が歓迎され、戸田さんはそちらに主戦場を移して行った。そして、DAZNなどの有料チャンネルでのサッカーには、こうした詳細な解説をすることが当然のように定着していった。こうしたサッカー解説が急激に変化したのがこの4年の流れである。
 
最後に、3ヶ月後に迫るカタールW杯を前にこの記事を書きたかった理由だ。おそらく、いろんな人が「裏解説」の配信を行い、有料チャンネルでも同レベルの解説が行われるはずだ。そのようなニーズが高まっており、環境が整っていることは間違いない。是非、サッカー観戦から離れてしまった方も、お気に入りの解説者を見つけてW杯で「世界との差」を具体的に知ることを楽しんでもらいたいと思う。絶対に面白くサッカーが観戦できるはずだ。
そして、サッカーを具体的に批評・解説する文化が根付くことが、「世界とのサッカーレベルの差」を埋める一歩になると私は考えている。

 
 
 
 
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2022-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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