メディアグランプリ

500円の20%オフのワンピースに込められた思い


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記事:九條心華(ライティング・ゼミNEO)
 
 
結婚していたとき、お金がなかった。いや、ないというか使えなかった。自分の稼いだお金だったが、どういうわけか自分で自分の銀行からお金を引き落とせないことになっていた。夫が管理していたからだ。世間の旦那さんでお小遣い制というのがあるのなら、そういう感じなのだろうか。でも、お小遣いをもらっていたわけでもない。ただ、クレジットカードだけは使えた。ただし、使うと夜中に2~3時間説教される。仕事から帰って疲れていて早く寝たいのに、ランチ代が高いと言って怒られ、深夜に説教が延々と続く。私が稼いだお金なのに、と心の底では思っていても、こわくて言い返せなかった。
 
ランチ代でさえそんなふうだから、洋服が買えなかった。でも、もちろん服も欲しい。結婚前は洋服をいつも百貨店で買うことが多かったけれど、到底買えない。実家の母からもらった商品券を足しにして買うにしても、その商品券は、やはり食品につかったほうがいいのかなどと考えたり、非常に悩ましかった。
 
 
そんなとき、錦市場を歩いていたら、若者向けの洋服屋さんがあった。店先に、なんと500円のワンピースが掛けられていた。
え? 500円!?
なんともチープなぺらっぺらの縫製も大雑把なワンピースだったけれど、私好みの柄だった。即買いだ。それを持ってレジに行くと、全品20%オフだそうで、500円から20%引きしてくれた。え―!? ほんまにさらに引いてくれるのん? 衝撃的だ。訝しく思って尋ねた。
「あの、これは古着なんでしょうか?」
古着も置いてはいるが、これは古着ではないという。どうなっているのかわからないが、とにかくこれで私は服が買えると思った。
 
ただ、ペラペラすぎて、会社には着て行けない。その衝撃的ワンピースを見つけてから、私は古着を見るようになった。それまで古着に興味がなかったし、買う気も起らなかったけれど、背に腹はかえられない。京都では新京極あたりに古着屋さんがいくつかあった。比較的きれいな洋服でそれこそ500円のものもあるし、当然のことながら新品よりかなり安かった。
 
ただ、古着屋さんのお店には独特の匂いがあって、空気が重苦しかった。それでも、新品で1度も袖を通していない値札つきの服もリサイクルで売られていたりして、自分の気に入ったものがあれば、随分お買い得だ。
 
 
古着にはそんな思い出があって、離婚して東京に来て生活が落ち着いてからは、新しい服が着たいという思いがあった。1年ぐらい経ったころだろうか。スタイリストさんにみていただいて、伊勢丹にショッピングに出かけたことがあった。そのスタイリストさんから、伊勢丹のイベントスペースで売られていた古着のおしゃれなシャツを提案された。金額的な面からか、それともただ単にほかにない個性的なデザインだったからかもしれないけれど、私はそれを受け入れることができなかった。自分のなかに湧き起こった悲しさを説明すると、スタイリストさんは別のフロアに連れて行ってくれた。そこには美しいピンクの総レースのトップスがあった。スタイリストさんに予算オーバーですが、と提案していただき、靴を買うのをやめて、その美しいレースの服を購入した。
 
物理的な物体としての洋服は、誰かが着たことがあろうとなかろうと、変わらないはずだけれど、やっぱりお下がりよりは、新品がいいという思いがあった。そして、私のためにジャケットを誂えてもらった。私の身体のサイズをはかって、私にあうデザインでつくってもらう。私だけのためのジャケット。それがとっても嬉しかった。
 
 
新しい服がなかなか買えなかったから、服を捨てられず、古い服がいっぱい家にあった。着ていない服やもう似合わない服は、潔く捨てたほうがいいとスタイリストさんに言われて、
段ボール箱3箱以上処分した。古着屋さんに売ろうと思って持っていったとき、1キロいくらで買い取るお店で、1点1点をあまり大切に扱われていなかった。そのお店の中に入ったとき、なんだか息苦しくなった。見捨てられた服がたくさん積まれていたからだと思う。でも、どこかでその服たちが活かされたならいいなと思った。
 
あるとき、こんな質問をされた。
「もし、彼氏が1週間連絡なかったら、どう思いますか?」
「心配するけど、いそがしいのかなと思います」
「では、1ヶ月連絡なかったら?」
「どうしたのかなと心配します」
「では、1年音沙汰なかったら?」
「振られたと思います」
「それが、ものも同じなんですよ」
え? と思った。
自分の服は、私に使ってもらうのを待ってくれている。でも、なかなか使ってくれない。使わないまま1年放置していたら、私への思いがなくなる。私が好きな服を喜んで着ていれば、服も使ってもらえて喜んで輝いてくれる。
 
 
奈良国立博物館の学芸員だった先生が、こんなことを仰っていた。美術館におさめられたものは、昔から大事に大事にされてきたものなので、人の思いがこもっている。だから、いいものになる。
 
 
冒頭の500円の20%オフのワンピースをいまだに着て出かけて、褒められたので、値段を言ったら驚かれた。昔の男と過ごした服は捨てなさいと言われた。それを買わざるをえなかった状況や、それを着ていたときの自分が消えないから、幸せになりたいなら捨てなさいと。
ものには記憶がある。
 
未来のもっと幸せな自分にふさわしい服を買いに出かけよう。その服を着て、楽しい時間を過ごしいい思い出の服にしてあげようと思った。
 
 
 
 
***
 
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2022-07-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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