元自衛官が撃ったのではない、元総理が撃たれたのだ
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記事:佐藤 透(ライティング・ライブ東京会場)
最近、マスコミの報道の仕方に対して、疑問が多く出されていないだろうか。報道しない自由を駆使しているという批判もあるようだ。また、見出しと内容が伴わないものや、記事に対する読者コメントを煽っているのではないかと思われるものもある。
よい報道とはどのようなものか。
先の選挙期間中、元総理が撃たれた。
その時、私はスマホを使っていた。
ピコっ! 文字が目の前に現れてくる。今の速報は速い。
まさに即時に事件が伝えられた。
元自衛官が元総理大臣を撃ったという報道だった。
内容はこの程度の短いものでもあった。
最初の衝撃がすぎると、「元自衛官」という言葉に目がいく。
最近まで自衛隊にいて何か思いがあって辞めたのか、それとも辞めさせれられたのか?
憲法9条を改正しようという元総理を何で?
人によって様々な思いや疑問が出てくるだろう。
この言葉は注目を引く。記事は注目してもらえなければ読んでもらえないのも事実だ。
だが、注目されればそれでよいのだろうか。
注釈なくただ元自衛官によるものであるとしている記事に疑問が起きた。元自衛官であることは事実である。だが、速報としても適切なのだろうか。何かが間違ってるんじゃないかと私は感じた。
その後わかったのは、「元」と言っても17年も前に3年間だけだったようだ。
同じ思いが書かれている読者コメントがあった。
だが、そのコメントに対して、次のようなコメントが書き込まれていた。
自衛隊に3年もいれば銃の作り方を教わったはずだ。記事の書き方は間違っていない。
3年自衛隊にいたけど、銃の作り方は教わらないよ。
作り方を教わっていなくても仕組みは知っているはずだ。
銃の作り方はネットで調べれば誰でも学べる。
17年前とはいえ、落ち着いて撃てたのは3年間で身につけたものだろう。
などの否定や肯定、疑問といった膨大な量の書き込みが重なってくる。
そもそも、「元自衛官が撃った」という言葉から何が連想されるかをこの記事を書いた記者やデスクがわからないはずがない。「自衛隊」は、きわめて政治的なテーマでもある。
動機や背景がわからないので「事実」を記事にしたという言い訳は成り立たない。意図があって切り出した言葉に思えた。
撃たれたのは、元総理大臣だが、今でも最大派閥の長であり、政界に大きな影響力を持っている人物だ。誰が撃ったのかということと、誰が撃たれたのかということのどちらが重要なのだろう。
ミスリードを誘発させると読者は気づいているよと、最初のコメントでは伝えたかったと思うが、コメントに対する様々なコメントの連鎖により、主語が、「元総理」ではなく「自衛隊」になってしまった。
記者の思う壺である。
人は言葉に反応するものだ。
世の中に文章を晒せば、それを読んだ人は区別なく反応する。
時にコメントのやりとりが繰り返される中で、反応的、反射的なものとなり、元々の趣旨・疑問から離れていってしまうことが残念なのである。
一方で、こうしたコメントが気軽に発信できることは、失ってはいけない大切な権利だと、私は思っている。自由に表現できることを批判してはいけない。
むしろ、読み手の問題だと私は思う。
何で記事や人の意見を読むために、神経を使わなければならないのだ。
私のコメントに、このような反論コメントが積み重なってしまいそうだ。
だが、書き手が自由に書くのであれば、何を読み取るのかについて、読み手として一人ひとり感じ、考えることが大切なのだと思う。
また、文章は、全てを書き切ることができない。書いてあることと、書いていないことがある。書き手が何を表現し、表現しなかったか、何を選び、何を選ばなかったか意図が必ずあるはずだ。
そうやって読み取っても様々な解釈があり得る。人によって、同じ文章でも真逆に受け止めることだってある。
私は、自分自身のクセを知っていることも大事だと思っている。
例えば、つい書き手を信じて読んでしまうとか、逆に、常に疑って読んでしまう、過去に思いを寄せることがあれば、未来を見て受け止めることもあるなど、人により様々なものがあるのではないか。
書くことと同じように読むことも難しい。
よい報道とはどのようなものか。
私には、残念ながらわからない。求めても得られないのかもしれない。
だからこそ、記事の書き方に惑わされることなく、備えられるように私はなりたい。
こういう事件が起きるような世の中になってしまったからこそ、読み手として、冷静にものを受け止めること、そして、考えることが大事なのではないかと思う。
***
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