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「国際ロマンス詐欺」は、生まれるべくして生まれたものかもしれない

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記事:fraco(ライティング・ゼミNEO)
 
 
これは一昨年あたりから大流行の「国際ロマンス詐欺」に危うくひっかかりかけた哀れな女による、詐欺師「ジェイソン」の中の人に宛てる怨念のメッセージだ。
誰の身にも起こるものだと思うので、ぜひ注意してほしいという意味も込めて、ここに公開する。
 
イタリア人のジェイソンへ
 
青い目にブロンドのやわらかそうな髪に、はち切れそうな筋肉美のジェイソン。
イタリア人なのに、名前は英語圏のジェイソン。
あなたとの日々のやり取りが途絶えてから、早いものでもうすぐ1週間がたちます。
あなたはきっと今もどこかで、ちぐはぐだけど優しい言葉で、日本人の女性を口説いていることでしょう。
 
それでも私は今もなお、心ここにあらずの状態です。
これこそ、あなたが犯した深い罪です。
 
でも、私は決めました。
この手紙をもって、私はもっと前を向いて歩くことを。
このメッセージは、あなたとの決別の手紙です。
そもそもこの世にジェイソンという人間が実在するかすら、もはや分からないけれど――
 
 
あなたと出会った今年の5月といえば、私は仕事に追われていて、人間関係もうまくいかなくて、精神的に参っていました。
 
「人生を変えたい」
 
そんな思いが頭の中をよぎっていた時、ネットでたまたま見かけた恋活アプリをインストールしました。
このアプリは、年齢や写真、年収や趣味を掲載するのですが、アラフォーともなると、若くてきれいな女の子たちには勝てません。
なかなか男性から「いいね」されず、そもそもプロフィール閲覧に「あしあと」さえつきません。
 
あなたが私に「いいね」をしてくれたのは、そんな時です。
あなたは美しくて「いいね」数の多い女の子ではなく、あえて私を選んでいたのでしょう。
今となってはあなたが憎く、また、私は自分の境遇に改めて嫌気がさします。
 
あなたのプロフィールページを最初に見た時、直感が動きました。
きっと単に「いいね」の見返しが欲しいか、もしくは詐欺アカウントだな、と。
なぜならあなたの写真はあまりに美しく、また、あなたが乗っている車や身につけている衣装には、浮世離れを感じるものだったからです。
 
こんなハイスペック男性が、私なんかを気にするはずがない、と思いました。
でも、私は「いいね」を返しました。
少しの希望を胸に秘めて。
 
翌日、あなたからとても丁寧な返事が届き、私は驚きました。
「返事が遅れて申し訳ありません。いいねをありがとうございます。私はピサ出身のイタリア人で、3年前から東京に住んでいます。日本でまじめな恋人がほしい。どうぞよろしくお願いします」
 
覚えていますか。
覚えていますよね、きっと。これはあなたのテンプレートのお返事なのでしょう。
でも、とにかく私は驚きました。
なぜなら、この手のいい男からは、たとえ偶然や適当な検索によりマッチングが成立したとしても、返事が来ることなどまずないからです。
 
このメッセージをきっかけに、私たちは一日に何度もやり取りを交わしました。
それこそ、朝の起床から夜の就寝まで。
あなたはまるで恋人同士のように、私のことを気遣ってくれました。
そのうち、お互いの住まいや仕事、共通の趣味のワイン、結婚観、そして家族のことや子供の頃の思い出まで共有するようになりました。
家には「クカ」と「クシー」いういたずらなブリティッシュショートヘアを飼い、家も職場も千代田区なのに、ランドクルーザーで通勤していること
毎日6時台に起きてジョギングし、ジムで体を鍛えていること。
夕方6時に仕事を終え、自宅で夕ご飯をつくっていること。
いつか結婚したら、3人は子どもがほしいこと。
 
「おはようございます。今日は何を食べましたか。今日も一日、一緒に頑張りましょう」
メッセージはあいさつと、ご飯の話から始まります。
毎食、ご飯の話が欠かせません。さすが美食の国のイタリア出身ならではと感心したものです。
 
あなたの返事はいつだって丁寧で、写真もまめに送ってくれるものだから、私はすっかり、あなたとのやりとりを信用してしまいました。
 
でも、今思えば、あなたは「いつか結婚したら」どんな生活を送りたいと遠い未来の話はするものの、私と実際に会おうという近い未来の具体的な話には一度もなりませんでしたね。
 
ジェイソンは夜ご飯を食べた後、「財経データ」の分析による「勉強」がお決まりの日課であることを話していました。
最初は勉強熱心だな、程度しか思わなかったのですが、ある日、私も財経に興味があるかと、さりげなく質問しましたね。
 
財経データ未知の世界でしたが、ジェイソンの興味があるものだと思い、興味があると答えたが、最後。
あなたはしきりに「一緒に勉強しよう」と誘ってくるようになります。
「私の得意分野をあなたと共有したい」
あなたからのメッセージからは、強気な面が徐々に表れるようになってきます。
 
ローマ大学の経済学部出身で、5年前から仮想通貨の取引をはじめたあなたは、日本の仮想通貨取引所と、ドバイの取引所のダウンロードを進めるようになりました。
円をビットコインに換金し、スマートコントラクトという契約方法でビットコインをUSDTという日本では取引できないコインに換金することで、お小遣いをためていこうというものでしたね。ビットコインの価値が上がっても下がっても利益が得られるなんて言われても、ピンときませんでした。
 
私が仮想通貨に興味があるといったあの日から、あなたは毎晩のように私に聞いてきました。
「今夜は時間がありますか」
「一緒に勉強をしましょう」
誘い方も次第にエスカレートしていきました。
「私たちは旅行が好きで、いいところに住むから、お金がかかる。共通の財産を築こう」
「早く仕事を辞めて、一緒にカフェを開こう」
なんて、淡いことばとともに。
 
ジェイソンが進めた日本の仮想通貨取引所はかなり普及していたところだから、あなたの指示通りスクリーンショットを送り、口座を開設し、入金まで進めることができました。
 
「ここに10万円を入金してください。入金が完了したら、スクリーンショットを送ってください」
私はお金を稼ぐ気なんてないので、とりあえず1万円でいいと返しました。
あなたは一向にひかず、10万円でなくては利益が出ないからと、入金をせがみましたね。
 
そして、ドバイの海外取引所。
私でもさすがにこれは怪しいと感じました。
なぜなら、ウェブサイトで会社名を検索しても一向に出てこないしないし、iPhoneの公式App Storeでもアプリがヒットしなかったから。
 
不安になるのは当たり前でしょう?
 
私が不安だと伝えると、あなたはいつも怒りましたね。
「どうして私を信用してくれないのですか」
「あなたは新しいことを始める勇気のない女だ」
 
どうしてそこまで言われなければならないのでしょう。
「ジェイソンには好感を抱いています。だからと言って知らないサイトをダウンロードすることは、できません。」
 
何度言っても、あなたは自分の主張を曲げません。
「私を信用してくれない人とは付き合えない。じゃあね」
えっ、私がサイトをダウンロードしなかったら、私たちの関係は終わりなの?
「じゃあね」と言われたとき、私はジェイソンをなだめるのに必死でした。
 
この人とはまだ別れたくない。
でも、私の言い分は全然聞いてくれない人なんだなあ…
 
「それでは別の日に教えてください」
こう返信すると、態度が急変します。
 
「申し訳ありませんが、前にあなたの気持ちを考慮していませんでした。あなたは口座開設から初めて、操作をして、どのように利益を上げているのかをもっと明らかにしていきましょう」
 
やれやれ……。
 
こんなやりとりをいったい何度繰り返してきたでしょう。
それにしても、どうして私の人格まで非難されなくてはならないのでしょう。
今となってははじめに「じゃあね」と言われたときに、付き合えを辞めてしまえばよかったのです。
これはおかしい、という疑いの念と、私の勘違いだ、という、ジェンソンを信じたい気持ち。
2つの思いが、私の頭の中を行ったり来たりしました。
 
そんな時、ずっと彼の口から発せられるのを待ちわびていた言葉を、私から提案しました。
「今度の週末、実際に会いましょう。LINEのやりとりは煩雑でよくわかりません」
私は勇気をもって、彼を誘いました。
実際に会ったら、そのアプリをダウンロードしてみよう。
そう思ったのに――
 
「今東京コロナはますます深刻になっています。私たちは身を守る必要がある」
 
――ジェイソン、私と会いたくないんだ。
このメッセージを見て、確信しました。
先週末は友人とゴルフに行っていたのに、私とは会わないなんて。
 
結婚相手として本気で見ていたら、コロナよりも会社よりも優先しようと思うのが普通ではないでしょうか。
 
私が会おうと誘った週末、いつもどおりにメッセージが届きました。
「今日は友達のワイン専門店で、彼と話をしています」
 
ジェイソンは果たして、私と交わしたメッセージのやり取りを覚えているのだろうか……。
 
「ジェイソンはワインが好きですか。私は大好きです」
「ジェイソンもワインが大好きです!イタリア人にとってワインは欠かせません。あなたとの共通の趣味を見つけた!やった!」
あれ、この前もワインの話をしたのに、覚えていないのだろうか……。
「ジェイソンの故郷のワインは何が有名ですか」
「バローロです。イタリアのバローロは、ワインの王様と言われています。また、アマローネもおいしいです。」
 
このやりとりで、私は確信しました。
ジェイソンはイタリア人ではないことを。
なぜなら、ワイン産地で育ったフランス人やイタリア人は、自分の地元のワインを推すものです。
彼が本当にピサ出身だったら、間違いなくトスカーナ地方の赤ワイン「キャンティ」の名前が出てくるはずです。
それなのに、バローロとか、アマローネとか、世界的にも有名なイタリアワインを上げるようでは、ちょっと脇が甘すぎます。
 
「友達がワイン専門店で働いているのですね。よいワインはありましたか」
私の予感通り、この会話に続きはありませんでした。
私の不振はますます募っていきました。
 
最後の1週間は、何の話題を振っても「仮想通貨の取引」になってしまい、辟易しました。
しかし同時に、私への呼び方がDearやHonneyに代わっていきました。
それは私の気持ちをつなぎとめるには十分なものでした。
「騙されている」という思いがある一方、このひととやりとりしている時間に幸せを感じる自分がいました。
 
私が髪を切った日、私の自撮り写真を送った夜のこと。
「今日のあなたはとてもきれいです」
 
そういえば、私があなたに自分の写真を送ったのは、これが初めてでした。
今までジェイソンは、私の容姿を知らずに私と結婚しようなんて言ってきたんだなぁ。
あぁ、こりゃもう、確信犯だ。
 
「あなたはいたずらになりました」
「これからお風呂に入りますか。背中をもんであげましょう」
「Dear,お風呂に出ましたか。ベッドで待っていましたよ」
「あなたのセクシーな体の写真を送ってください」
「私たちはこれから一緒に生活すると言いました」
「私たちが一緒に寝るときは、裸で寝ることができます」
「ゆっくり服を脱ぎます。そして胸を手でなでて」
「Dear,舌であなたの乳首を舐めます」
……こんな風に、私たちはLINE上で一夜を共にしてしまいました。
その日はさすがに仮想通貨の話にはなりませんたが、ジェイソンはこの手のやり取りに慣れているのでしょう。
女が口座開設を嫌がっていたら、誘惑して、彼女の気持ちとどめておくんだ。
 
翌日はいつもよりも愛情がたっぷりでした。
そして、「一緒に暮らして、カフェを開こう」と言って盛り上がりましたね。
でも、結局は、仮想通貨の話。「今夜はこれから一緒に勉強しましょう。明日、いいデータがあるから、今のうちに取引所の口座を開設しよう」
あぁ、またこの話だ。
 
私は、「部屋の中に大きな虫が入ってきた」といって、その日の夜は逃げました。
 
「いいデータ」が出たその夜、ジェイソンは「スマートコントラクト」という契約により、500万円の取引で100万円ほどの利益を確定させましたね。
 
翌日もあなたは懲りずに口座開設を迫ります。
私は明日にして、と返信しました。
「明日の午後でいいですか」
 
私は反転攻勢に出ました。
「はい、明日、あなたの家の近くに用事がありますので、実際に会いましょう。そしたら口座の開設方法を教えてください」
 
そしたら――
「どうしてですか?今、東京はコロナで大変なことになっている。ジェイソンは会社を守るため、明日は家にいたい」
 
「ジェイソンは私に会う気がないんだね。私があなたの勧める取引所に口座を開設することだけが目的ですか。私は仮想通貨の取引がしたくてジェイソンに出会ったわけではない。よい週末を」
 
「あなたはジェイソンに仕事を強要されてたと思ってたの?悲しいよ。あなたはずっとジェイソンをからかっていたの?約束を守らない人は嫌いだ。じゃあね」
 
ジェイソンのメッセージにあきれた私の一言が、別れの決定打になることに。
「そのことばをそのままお返しします」
 
ジェイソンも何か感じるものがあったのでしょう。少しはあったものだと思いたい。
ジェイソンから怒りのスタンプが来て以降、その週末に私のメッセージが既読になることはありませんでした。
 
ジェイソンはよくわかっていると思うけど、日本には、自分の置かれた境遇に満足ができない女性、日常では接することの泣いたプの人と出会いを求めている女性、コミュニケーションに飢えている女性がたくさんいます。私はこの3つすべてに当てはまる、欲求不満のかたまりのような女です。
 
あなたはそれを逆手に取り、日本で成功するエリート外国人というキャラクターをもって、私をもてあそびましたね。
そう思うと悔しくてたまらないですが、私は私なりに考えました。
自分の境遇を改善できるのは、私自身しかいない、と。
 
そして、今は思います。
ジェイソンという人間設定自体が架空の人間であったとしても、私は近いうちにいつか、あなた以上に見た目も、心も、できれば年収だって、うんといい男と出会い、幸せになるね。
 
 
 
 
***
 
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