メディアグランプリ

精神と時の部屋は私のヒーローアカデミア


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:阿部真巳(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「おら、怒ったぞ!」
このセリフの後、ピンチに陥った主人公の隠れた力が開放されて大逆転。
国民的な認知度があるマンガのストーリーだ。
ヒーローズジャーニーという表現手法を用いている。
古今東西の作品を分析した結果、みんな同じような構成で、後半のピークに向かって盛り上がっていき、その過程で、主人公がピンチになり、大逆転するストーリーだ。
まさに、ヒーローは最後に勝つのである。
どこかのゼミでは、マンガやハリウッド映画は大体この構図で書かれていると教えていた。
私自身は幼いころよりマンガを読んで育っているので、どこか自分がヒーローでありたいという願望がある。
果たして現実世界ではありえるのだろうか?
 
水曜日の18時過ぎ。
オフィスに電話の着信音が鳴り響き、2コールの時点で電話に出る。
経理部門直通の電話なので、定時を過ぎても回線を開けて対応している。
「はい、もしもし……」
「おたくの会社の商品が壊れて、床が水浸しなのよ! どうしてくれるの!」
出た瞬間怒鳴りつけられる。
一瞬何が起こったのか理解できなかったが、クレームの電話であることはわかった。
自分は経理職であるため、クレーム対応研修は受けていない。
クレーム対応には独特のノウハウがあり、その対応責任者は数メートル先にいるが、今まさに帰ろうとしている。
手を上げて助けを求めるが見えないふりをしている。
受話器を手で押さえ「すみません、クレームなので電話を代わっていただけますか?」
と言ったが、無視して出て行ってしまう。ありえない!目の前で責任者が逃亡したのだ。
追いかけて引きずり戻したいが、電話対応しているために、それもできない。
「ねえ! 人の話を聞いてるの!」
「はい。ちゃんと聞いています」
まだ、顧客の怒りは収まらない。
私では埒が明かないので、「他のものに代わりますので少々お待ちください」と言い、何とか保留にする。
別の部屋にいる品質管理の責任者もクレーム対応研修を受けており、クレームが発生した場合には対応するように会社から指示を受けている。
内線で助けを求めるが、「忙しいから」の一言で内線を切られてしまう。
ふざけるな!
何で責任者が2人も逃げてしまうんだ!
私は激怒した!
が、電話を保留にしたままにするわけにもいかず、再び受話器を上げる。
「もしもし……」
「何であんたがまた出るのよ。他のものに代わると言ったでしょ!」
「申し訳ありません……」
ここからどれくらいの時間が経過しただろうか。
辛い時間は時が経つのが遅い。体感としては何時間も経過したように思える。
もしかしたら数分だったのかもしれない。
ようやく顧客の怒りが収まり、残った気力で言葉を絞り出す。
「大変申し訳ございませんでした。明日、担当者から連絡させ、ご自宅に訪問させていただきます。」
受話器の向こうで、電話が切れる音を確認してから、左手に持っていた受話器を電話機本体に力任せにたたきつけると、プラスチック片が飛び散る。
右手のこぶしで机を殴りつけ、足元にあったゴミ箱を蹴り上げる。
「ふざけるな! なんで対応すべき人間が逃げてしまうんだよ!」
 
翌朝、朝食を食べようとすると箸が握れない。
右手が大きく腫れている。
整形外科に寄ってから出社したため、会社に着くころには午後になっていた。
昨日のことで、始末書の何枚かは覚悟していたが、上司から何の咎めもなく、通常の仕事に入る。責任者2名が自分の責任を全うせずに逃げ出したことが影響しているようだ。
 
結局ピンチになって髪の毛が金色になるわけでも、自分の力が数倍になるわけでもなかった。
残ったのは骨折した右手と、自分の力の無さにたいする無力感や、会社に対する敗北感である。
こんな時ヒーローはどうしたのだろうか。
再起をかけて「精神と時の部屋」に入り修行をしたような気がする。
一度敗れたヒーローは、そこで力をつけて復帰し、最終的には強大な敵を打ち倒している。
そうだ、負けたわけではない。
ヒーローズジャーニーでいうところのピンチに陥っただけだ。
諦めない心を持ち、常に成長しようと努力することが本当の意味でヒーローなのだから、自分も修行し直し力をつけよう。
でも現実世界の「精神と時の部屋」とは何だろう。
少し遠くに行って勉強してみるのもいいかもしれない。
そして、ビジネスの基礎を学べ、力がつけられる場所。
何気なくPCでWEBブラウザを眺めていると広告が目に入る「経営学修士=MBA」を取得するためのビジネススクール。
ここなら、現実世界(会社や家庭)と隔離され修行(ビジネスの勉強)ができるかもしれない。
私はギブスで固められた右手でマウスをぎこちなく動かしながら申し込みボタンをクリックした。
ヒーローズジャーニーのように大逆転で勝利を得るために。
 
 
 
 
***
 
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2022-08-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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