メディアグランプリ

自分の存在価値に気づかなければ変われない


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:布施 京(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
私の身体の中で、いじけ虫が巣食っている。
 
何匹いるのかはわからないが、何度殺しても生き返る。
いや、殺したつもりでも、本当は、抹殺できてはいなかったのかもしれない。
瀕死の状態に陥っても生き返る。そんなしぶとい虫なのだ。
 
今でも鮮明に覚えている。
 
あれは、小学一年生のときだった。
2歳のいとこが一人で泊まりに来ていた。母親のおばが二人目を出産することになっていたからだ。
朝、私が目覚めると、横に寝ているはずの姉がいなかった。
そして、隣の部屋から、楽しい声が聞こえてきた。
私の母と姉。そして、いとこの遊んでいる声だった。
ドアを開けて、遊びに行けばいいだけなのに、私にはそれができなかった。
できないどころか、「仲間外れにされている」と思い込み、涙がぽろぽろ溢れるのだった。
 
あれから何十年と経ち、今は一児の母となった私。
 
先日、車の中で夫の運転が荒すぎると注意してしまったことで夫と口論になった。
マンションの駐車場に到着し、夫と息子はエレベーターでうちに戻り、
私は、車にあった空き瓶をゴミ置き場に寄って、階段で戻った。
 
階段を上りながら、どうして口論になってしまったのか、思い返していた。
 
息子が「早く左折ラインに入らないといけない」としきりに夫に伝えていたが、
夫は左折する直前まで左折ラインに入らなかった。
息子の声にイライラを募らせていたのかもしれないが、そのライン変更するときの夫の急なハンドルの切り方と、割り込んでこようとしていた車とギリギリにすれ違ったことに対して私は穏やかに注意した。
そして、息子も加勢をすると、夫は「うるさい!」と一喝。
助手席の、夫に似て車好きの息子はシュンとしてしまった。
 
「どうすればよかったのだろう」
そんなことを考えながらうちに着くと、開いているドアから二人のボール遊びをしている楽しい声が聞こえてきた。
 
「なに? 自分が家族の雰囲気を壊したくせに、息子とは仲直り?」
 
私の中のいじけ虫が動き出した。
ただいま、と声をかけることもできず、じっと玄関に立っていた。
私は、自分の存在が二人の間には必要ないのではないか、とさえ感じていた。
 
私は、ゴミを捨てに行ったことを後悔しながら、プリプリして台所に行き、たまっていた食器を洗い始めた。
 
そして、気づく。
いつものパターンが始まったことに……。
 
このままでいくと、私の身体はいじけ虫に乗っ取られ、感情を抑えきれなくなる。
わざと食器をガチャガチャとぶつけ音をさせ、食器棚をバタンバタンと開けては閉める。
そして、それでも気が収まらず、夫のところへツカツカと歩み寄り、自分の思いを口にし、詰め寄り、大きな喧嘩へと発展する。
 
趣味で心理学を勉強し始めて6年。
さすがに、これが自分の思考パターンであることに気づくようになった。
 
心理学的にいうと、これは「歪曲」というものだ。
「歪曲」にはいろいろあるが、この場合は、他人の気持ちや考え方を憶測で決めつけてしまうことだ。
 
夫は、ひょっとしたら、エレベーターの中で自分の言動を反省して、息子と遊ぶことを選択したのかもしれない。息子と仲良くして、その流れで私とも何事もなかったように、普通の日常に戻していきたいと思っていたのかもしれない。
 
だが、私は決めつけてしまっていた。
「私は必要のない人間だ」と。
 
先日、心理学を一緒に学ぶ友人がカウンセリングをしてくれた。
私は、このいじけ虫をどうにかしたいと相談した。
 
話しているうちに、小さい頃のいろいろなできごとが浮かび上がってきた。
 
その中でも、映像がくっきりと残っているシーンがいくつかある。
帰宅すると、家には誰もいない。つまらないテレビ番組しかなく、時間を持て余している私が、一人こたつに入っているシーンだ。
 
あるときは、こたつの中にケンタッキーが入っているシーン。
「夕食に食べてください」という母の置手紙を見つめている私。
 
私がケンタッキーを好きでない理由は、寂しい自分を思い出してしまうからかもしれない。
 
私には2歳上の姉がいる。
一人ぼっちのシーンに姉の影はない。小学生の時なら家にいるはずだ。
だが、見当たらないのは、私の記憶が書き換えられている可能性を示している。
数時間は一人だったかもしれないが、その後は姉が帰宅していたはずである。
それを、私は、あたかもずっと一人ぼっちで寂しかった、という記憶として蓄積していた。
 
「仲間外れにされている」と思い込み、涙がぽろぽろ溢れてきた幼い頃の記憶を辿ると、
私は泣き声を上げ、隣の部屋からやってきた母親が抱きかかえてくれたことを思い出した。
 
人は記憶を切り取って覚えている。
そして、なおかつ書き換えていることもある。
だが、それには気づかず、過去に囚われ、未来をおそれ、今を生きることができないでいる。そんな私のような人が、世の中には多いのではないだろうか。
 
友人のカウンセリングの中で「必要とされている」というキーワードが出てきた。
そのキーワードをいつも目につくところに貼っておくとよい、とアドバイスをもらい、洗面所の鏡と、化粧をするときに見る鏡に貼った。
 
台所の洗い物が終わると、洗面所に行った。
「必要とされている」という言葉を口ずさみ、鏡の中の自分を見る。
 
「ママにもやらせて」
ボール遊びをしている二人に声をかけた。
 
いつものパターンから初めて脱した瞬間だった。
 
いつまでも過去に囚われていては、前には進めない。
今を生きる。そして、この時を楽しむ。

そのためには、自分の存在価値に気づかなければならない。
まずは、気づくこと、
気づかなければ本当の意味で自分を変えることはできないから。

 
 
 
 
***
 
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2022-08-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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