fbpx
メディアグランプリ

休日に何もしないという罪悪感が、消えた日


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:香月祐美(ライティング・ゼミ書塾)
 
 
何一つ悪いことしなんてしてない。
なのに。
こんなに罪悪感を抱かされる質問があるだろうかと、いつも思う。
 
「休みの日って、何してるの?」
ここは、仕事終わりに夕食を食べるために立ち寄ったご飯屋さんだ。
久しぶりにやってきた私に、顔見知りの店員さんがなんとなしに聞いてきた。
お見合いで初対面の男女が、相手のことを知るための一歩として聞くみたいな話題だと思った。
 
特に深い意図なんてないことは分かってるのに。
「えーっと……」
私は、いつもの様に目を泳がせながら何かを探し始めていた。
 
ジムで体を動かすとか、休みの日だからできるルーティーンみたいもの……ないわ。
あ、何か話題の映画を観に行った、みたいな楽しい思い出とか……いや、これもないわ。
内心、大騒ぎで記憶をひっくり返しながら、思い知らされていた。
何かも何も、ないものはないということを。
 
この日も、答えに詰まってしまった私。
ああ、事前に聞かれるって分かっていれば、何か「答え」を用意する準備ができるのに。
でも忘れた頃に唐突に聞かれるのが現実だ。
 
何してるって聞かれて、こんなに困った気持ちになるのは私だけだろうか。
悪いことなんて何もしてないのに。
これが平日なら「仕事してます」と堂々と言えるのだけど。
 
しょうがない。
正直なところ、休みの日なんて寝てるかぼんやりしてるか……とても人様に見せてもいい姿ではないのだから。
 
ご飯屋さんでモゴモゴし始めた私の頭に、2ヶ月前の映像が浮かんできた。
コロナに感染し、部屋から一歩も外に出なかった、あの10日間が。
「DVDでもゆっくり観ながら休んだらいいですよ」
隔離期間の間、心優しい方からそんな言葉をもらったりしたけど、DVDだけでなく肝心なテレビも無い家。
物だけでなく可愛さすら見当たらない部屋で一人きり、熱が下がった後の時間を持て余してしまうのは当然だった。
自分は病人で、寝ることだけが仕事なのだと、自分に言い聞かせて過ごすしかなかった。
 
隔離最終日。
その日は、天狼院書店のライティング・ゼミの課題提出日でもあった。
「よし、明日から仕事復帰だし、ゼミの課題を書いてリハビリだ!」
そう思って、机にノートPCを広げた。
 
1時間ほどが過ぎ、静かにPCのカバーを閉じた。
課題が終わったため、ではない。
だめ、だったのである。
 
コロナ闘病のことでも書こうと思っていたのに、何も感情が浮かんでこなかった。
自分の心が、まるでツルツルの石になった様な、不思議な感覚だった。
寝て起きるという「仕事」を繰り返していたのだから、ある意味当然だったのかもしれない。
つるんとした心を撫でながら、自分がこの10日、何もしていないことを改めて感じさせられた。
 
なのに、どうしてだろう。
感情が無いのに、不安な気持ちが起きないのは。
 
ああ、そっか。
今、心がすごく軽いんだ。
課題を書こうとするまで、心の軽さに気がつかなかった。
体を使い過ぎると筋肉痛になる様に、心も使えば疲れるものなんだと初めて気がついた。
……これまでの休日、私はひょっとして、ちゃんと休めていなかったのかもしれない。
 
思い返すと、これまで、休みの日にダラダラ寝て過ごすことに、なんとなく罪悪感を抱いていた。
ダラダラするって、なんだか悪いイメージしかなかない。
休みの日に「何もしない」たび、休日を無駄に過ごしてしまったのではないかと、心のどこかでずっと思っていた。
 
だから、たまに「休みの日って何してるの?」と聞かれると、痛いところを突かれたみたいに言葉に詰まっていた。
 
いつからだろう。
休みの日だからこそ、何かを楽しむとか、仕事をしている時にはできないことをしないといけないと思う様になっていたのは。
貴重な休みなんだから、充実させないといけなくて、何もしないのは敵! みたいに考えていなかっただろうか。
休日に何もしないと、どこからともなくやってきた罪悪感が心の隅に居座り始めるけれど、いつも見て見ぬふりをしていた。
だから、ダラダラしているつもりでも、心は休めていなかったのかもしれない。
この10日間がなければ、気づけなかっただろう。
 
何もしないくても「それで良い」のだ。
きっかけは、コロナだから仕方がない、という半ば諦めの様なヤケクソだったけど、結果、心の休め方を知ることができた。
「何もしない」ことも、休日だからこそできる過ごし方の一つだ、軽くなった心を眺めながら思った。
 
 
ただ。
誰かにそれを言うのはちょっと勇気がいることだったけど、ご飯屋さんで、モゴついていた私は思い切った。
「何もしてませんよ」
趣味の一つもない、つまらない女だと思われたか、とかドキドキしたのも一瞬で。
「いや、そう言われてみたら俺も、何もしてないな」
あっけない答えに、なんだ、私だけじゃなかったと思いながら、「私の心のドキドキ返してよ」と内心突っ込んだ。
 
仕事に復帰した後も、格段に心が軽いのが分かる。
何もしない休日も悪くないなと、改めて思ったのだった。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-08-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事