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熊本空港流血事件~到着までの危機を越えて~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:阿部真巳(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「お客様……」
航空会社のグランドスタッフが言葉少なにポケットティッシュを差し出す。
「??」
私は何が何だかわからず、とりあえずポケットティッシュを受け取り、不思議そうな顔をしている。
「え! 血が……」
隣にいた友人は私の顔を見て絶句する。
 
前日、東京から福岡入りし、夕方に熊本市へ到着。熊本城と馬肉を堪能した私たちは、現地の友人の運転で天草へ移動を開始する。途中、天草五橋を渡るころには無数の島が見えてきて、海なし県で生活している身としては、否応なく気分が上がってくる。
 
熊本県天草市にある世界遺産「天草の﨑津集落」
公式HPの説明では「熊本県天草市河浦町に位置し、禁教期において仏教、神道、キリスト教が共存し、漁村特有の信仰形態を育んだ集落です」とある。
海沿いにある「﨑津教会」それを見下ろせる位置にある「﨑津諏訪神社」岬に佇む「海上のマリア像」どれもが素晴らしく、歴史に思いをはせることができる素晴らしい場所であった。
 
世界遺産訪問の後に目指すのは「倉岳神社」
日中でも薄暗い細く狭い山道を30分ほど車で登り、さらに山頂まで徒歩でのぼる。別名「天空神社」とも呼ばれ、山頂にある神社から360度を見渡すことができ、八代海や有明海、さらには御所浦の島々、九州本島まで見渡すことができる絶景が広がり、まさに最高の映えポイントだ。
 
この後は熊本空港まで車で移動となるが、さきほどまで晴れていた空から大粒の雨が降り始め、土砂降りとなる。
車の移動なので、雨が降ったところで問題はないと思っていたのだが、スマホのマップからはじき出される到達予想時刻は18時40分。
当初の予定より30分以上遅れることになる。
「何でこんなに時間がかるの?」
友人がルートの詳細を確認すると、行きに使用した有料道路を使用していない。
さらに調べると悪天候から島原半島から九州本土に抜ける有料道路の橋が通行止めになっている。これにより一般道に車が集中し、九州本土に抜ける唯一の橋で渋滞が発生している。
「まずい。帰りの飛行機は19時フライトだ。遅くとも18時30分にはチェックインを済ませていなければならない……」
今日は日曜日。リモートワークのない会社に勤務する身としては、今日中に自宅に戻り、明日は出社しなければならない。
考えていてもしかたない、とにかく出発しよう。
土砂降りの中、海沿いの一般道を走行し、到達予定時刻が1分、また1分と短縮され、ついに18時30分となった。
 
そんな矢先、今度は別の大問題が発生する。
「ト、トイレ……」
助手席に乗っている友人が申し訳なさそうにつぶやく。
「この一分一秒を争っている時になんてことを!」とは言えない。
なぜなら私の貯蔵タンクも限界を迎えようとしていたからだ。
運転手を務めてくれている現地の友人にコンビニに寄ってもらうように依頼したが、先ほどまで道沿いに多数あったコンビニが全く姿を現さなくなってしまった。
山越えの曲がりくねった道を曲がる際にかかるGがお腹に響く。普段ならなんとも思わない些細な揺れでも大きなダメージを受ける。
ようやく山道を下り終え、コンビニがありそうな道に出たが、そこに現れた光景に絶望する。
九州本土に抜ける橋に向かう一般道で渋滞が発生して、車が動かなくなる。
「いっそのこと、ここで車を降りて……」
「いや待て! 周りの車からまる見えじゃないか!」
「しかし、このままでは最悪の事態が!」
自分の中の何かが戦いを始める。
永遠と思われる時を過ごしていたが、道路を曲がった瞬間、希望の光が見えた。
白と青の見慣れた看板が、これほど頼もしく見えたことは無い。
なんとか人間としての尊厳は守ることができた。
 
再スタート時点での空港到着予定時刻は18時35分。
何とか渋滞していた橋を抜け、ここから怒涛の追い上げが始まる。
普段は冗談ばかり言っている友人の運転技術は、悪天候による足元の悪さをものともせず慎重かつスピーディーに空港までの道を突き進む。
ようやく、空港の明かりが見えてきた。熊本空港は、入口付近まで車で近づくことが出来る。車内のデジタル時計が18時25分を示した時点で入り口前に停車できた。
急いで荷物トランクから取り出そうとした、その瞬間。
「ゴン!」
鈍い音が響き、一瞬目の前が真っ白になる。
焦りから車のトランクが開ききる前に荷物を取り出そうとしたため、扉に頭をぶつけてしまった。時間がないため、運転手を務めてくれた友人への感謝もそこそこに、痛みを感じながらも空港の入り口へと走る。
しかし、空港の保安検査場を通過しようとしたところ止められてしまう。
なんと、旅慣れている友人が座席指定をしていなかったのだ。
やむを得ずグランドスタッフのいるチェックインカウンターへ向かう。
そこでグランドスタッフに話しかけられたのは、座席指定をすべき友人ではなく、なぜか私。話しかけられると共にポケットティッシュを大量に渡される。
急いで移動したため、前しか見ていなかった友人が私を見て驚く。
「頭から流血してるぞ!」
その言葉を受けて、私は頭を触ると、べったりと手に血がついてきた。
そして、スマホの自撮りカメラで顔を見ると、真っすぐ1本の血の跡がつき、大槻ケンヂの顔のようになっていた。
驚いている時間もないため、もらったポケットティッシュを使い、左手で頭部の圧迫止血を試み、右手で顔の血をふき取り、その間に友人が座席指定を済ませ、保安検査場に向かう。
ここにきて気づいたのだが、登場予定の飛行機で15分の遅延が発生しており、何とか間に合わせることができた。
アクシデントを乗り越え搭乗することができ、乗客が全て搭乗し終わった段階でキャビンアテンダントが私の座席までポケットティッシュを持ってくる。
「お客様、こちらをお使いください」
私は驚きを隠せなかった。
グランドスタッフからキャビンアテンダントに私の状況が共有されていたのだ。
そして、飛行機から降りる際も「お客様、大丈夫でしょうか」と声をかけてくれるきめ細やかさ。
普段、飛行機を利用する際は、特に何も意識していないが、何かあると、顧客視点でのサービスがあることがわかる。
これは何かあった時だけでなく、普段から意識しているという事であり、このような意識があるからこそ、私たちが空の旅を快適に過ごせるのだ。
何もないに越したことはないが、このような経験をすると、また同じ航空会社を使用することだろう。それが、航空会社の戦略であったとしても、私の感動は変わらない。
それと、旅先でのトイレは行ける時に行っておきましょう。
人としての尊厳を守るために。
 
 
 
 
***
 
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2022-08-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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