圧倒的成長に必要な3つの存在
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:服部真子(はっとりなおこ)(ライティング・ゼミ集中コース)
「圧倒的な成長に必要なのは、なにか分かるかね?」
先生は私に聞いた。「努力……とかですか」と私が答えると先生は失笑した。
2010年の春、私は大学の成績が悪すぎて留年した。リーマンショックもあって、就職困難だったし、やりたいことも良くわからなかった。社会に出るまでの時間を1年延長しちゃえ、くらいの気持ちで留年した。
ただ、その時間に意味を見出したかった私は、「先生」に弟子入りして修行をしていた。当時70歳のこのお方は150冊以上も著書がある英語教育の巨匠だった。弟子というのは無給のアシスタントのようなものだ。大学で椅子に座って勉強するのが苦手だった私にはうってつけだった。
このカリスマ先生は、とにかく強引だった。パソコンもメールも使えないため、用事があれば、授業中でもお構いなしに電話がかかってくる。丁寧に対応しないと臍を曲げてしまう。留守電に残っているのはこんなメッセージ。「服部君、今どこにいる?この後3時から大事な人に会うから君も来なさい」とか「服部君、君はいつも電話に出ないね。原稿急いでいるのでよろしく頼むよ」とかだ。
私の主な仕事は、先生が出版用に書いている手書きの原稿をパソコンで打ち直すことだった。先生は達筆で最初は全く読めなかったが、だんだんと解読できるようになった。それでもわからない部分は黒い四角で置いておく。その原稿を先生に手渡しすると、今度はそこにまた手書きで直しがF A Xで送られてくる。F A X? それは一体何だ? という人ももしかしたらいるかもしれない。固定電話の番号で紙の情報をやりとりできるのだ。
「今どきパソコンが使えないなんて、ありえないよ」
私と老人との格闘を見た友人が言う。本当にその通りだと思う。そもそも、今どき原稿手書きって時代錯誤も良いところである。それでも私が辞めなかったのは、先生の手書きの原稿を起こせば起こすほどに、自分の語学力が向上していたからだ。先生の思考回路が濃縮された原稿を書き起こす作業をすることで、自分の中に先生がダウンロードされていった。どんなに頑張っても、この人には一生追いつけない、そんな気持ちになったものだった。
先生は、やたらと人と人を比べた。同じ弟子たちの中でも間を引き裂くようなことを平気で言うのだ。「服部君は●●君に比べて、気遣いが足りないよ。もっと勉強しなさい」そんな程度のことなら毎日でも言われていた気がする。弟子同士を喧嘩させてしまうこともしばしばあった。ほぼゆとり世代の私は、クソジジイと思っていたけど、あれは先生の思惑だったのだなと今は理解している。弟子同士で馴れ合うのではなく、絶対に負けたくないと言う闘志を燃やさせたかったのだろう。
先生はとにかく人たらしなのだ。70歳の先生は、20代の私にポンと仕事を任せてくれた。「君みたいな優秀な若い人に会ったのは初めてだよ。どう、僕のアシスタントやってみない?」そんな口説き文句で常に様々な年齢の人たちが弟子入りしてきた。私が弟子入りした次の年には別の学生が先生のアシスタントに入ってきたりした。若い人に大事な原稿を任せると言うのは、凄いことだと今ならわかる。ジェネレーションギャップもあるし、いちいち説明するのも本当に大変だっただろう。
「圧倒的な成長に必要なこと、分かったかね?」
また先生は私に聞いた。
「叶わない師匠、絶対に負けたくないライバル、追い抜かれそうな後輩この3人です」
私は答えた。先生はニヤリと笑った。
先生は私に言いたいことをちょくちょく原稿の内容にしてくれていたのだ。パソコンも使えないクソジジイ! 字が汚すぎる! と発狂しそうになりながら取り組んでいたが、今思うと本当に貴重なことだったのだと分かる。
大学を留年して就職もできなかった私が、今はテレビで英語のレポーターをするまでになった。それは、この言葉と、先生がそういう状況を作ってくれたおかげだ。
全く追いつくことが出来ない師匠の背中を無謀にも追いかけ、あの人にだけは絶対負けたくないと言うライバルがいて、私の下にもどんどん若い人が入ってきていた。
何より、この教えは先生が生涯に渡り実践していることでもあったのだ。
その後7年間お世話になり、先生とは喧嘩別れをしてしまった。
今年の春、先生は亡くなった。だけど私の心に先生の教えは残っている。
図々しく先生の言葉を記事にする無礼を許してください。
先生の新盆に。
***
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