メディアグランプリ

好きじゃないものでも、継続が好きに変えることもある


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Pauleかおり(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
彼氏ができるたびにお菓子や、お弁当などちょっとづつ料理をするようになった。
とはいえ、チョコレートや、クッキー、サンドイッチ、おにぎりなど、まあ今の私からするとおままごと程度。
そもそも女子っぽいことを、わざわざするタイプではなかった。
ただ、彼に好かれるには女子っぽくならないといけないと思い込んでいる節はあった。
ちなみ女子っぽいとは、一つには料理ができること。
 
そんな私が、本格的に「料理」 と言えるものを作ったのは、19歳の春だった。
その当時の彼は、少し上の大学生、一人暮らしをしていた。
あまり覚えていないが、多分私なんかより家事のことはわかっていただろうと思う。
 
「ねえ、彼女なんだからなんか作ってよ」
それを言われて、さあ困った。
「作れない」 とは死んでも言いたくない、と妙な女子プライドが顔を覗かせた。
そうだ! 先日、母親の手伝いをして作ったミネストローネならなんとかなるかも?
その当時の彼は、ありがたいことにそんなメニュー名ご存じなかった。
 
生まれて初めての彼との買い物からスタート。
そもそも、塩、胡椒、醤油、くらいしかないアパート。やばいな。
知ってる風な様子で、あれこれハーブ類まで買い物カゴに入れた。
「ほんと大丈夫? 買い物とかしたことないんじゃない?」
「こんな高いバター使わなくてもできるんじゃないの?」
値段も気にせずどんどんカゴに入れる様子に、彼は唖然としたようだ。
私からしたら、えー、そこ?
 
でも、よく考えたらそうだよね。
確かに決まった仕送りの金額の中で、毎日の食生活のことを考えたら、少しでも節約を考えないとだよね。
主婦ってこんなこと考えながら食材買っているんだよねと、振り返った時、日常的に料理作ってない感満載だったかも。
 
買い物も終わり、母の料理を手伝った記憶だけを頼りに、再現に取り組んだ。
初めて自分1人で作るミネストローネ。
なんか足りない、なんか足りない、時間と共にどんどんあれこれ追加。
何人前? なんか量増えてない?
まあとりあえず、食べられる味にはなった。
私的にはイマイチだなと感じてちょっと不安だったけど、彼は「美味しいじゃん! すごいな」 と言ってくれた。
とにかく食材が無駄にならずに済んで、正直ホッとした。
捨てる羽目になることが、一番の落第点と感じていたから。
 
それからと言うもの、彼からのリクエストはミネストローネになった。
美味しかったからリクエストされたんじゃなくて、買い込んだ無数のハーブなどを消費するためだったかもしれないが……。
それでも、あの日から、私は自宅でも、彼のアパートでも、何度もミネストローネを作るようになった。
おかげで、「得意料理は?」 の質問には、ドヤ顔でミネストローネをあげる女子大生になれた。
 
しかし、その彼と別れ、次の彼になった時には、料理をしない女に戻ったのだった。
もともと料理は好きじゃなかったからだ。
それと、女子っぽくあるために頑張る自分に疲れていたからだ。
最初の誕生日だけ手作り料理を振る舞っただけで、あとは一切キッチンには立たない主義になった。
 
でも彼は「彼女だから作って」 とは一度も言わなかった。
それに甘んじていたが、それから約5年交際して、結婚をすることになった。
嬉しいような、第二次「やばい!」 に遭遇。
元彼のように、たまに作るならノープロブレム。
 
しかしさ、結婚だよ。毎日一緒だよ。
結婚したら、料理をしませんというわけにもいかない。
結婚したら、毎日、死ぬまで作り続けなきゃいけないんだー、どうするよ!
自信無いし、おいおい、こんな私で大丈夫なんだろうか……。
 
しかしありがたいことに? 結婚前に亡くなってしまった母の肩身でもある料理本が、こんな私を助けてくれたのだった。
くたくたになって、表紙もボロボロ、今にもページが取れてしまいそうになった、有名料理人の本。
そこには、手書きメモがたくさん挟まれていた。
その辺のチラシの裏に書かれているものであったり、ケーキについてくる紙だったり、決して綺麗な紙ではなかった。
でもそこには、調味料の変更したものや、違う食材が書かれていたりもした。
そしてその紙は、メモだけではなく、しおりの役割を果たしてもいたのだった。
頻繁に作っていたレシピのページがそれを物語っていた。
色が褪せて、醤油のようなシミがついて……。
 
私は、母が亡くなる前に料理のイロハをほとんど聞けずだった。
だから、この残された本を見た時には、母の生きていた証を感じるようで本当に嬉しかった。
声こそ聞こえなくても、どこかから声が聞こえてくるようだった。
一緒にキッチンに並んで立って話した、父のこと、兄のこと、彼のこと、お友達のこと、おしゃれのこと、いろんな日々が浮かんできていた。
「何も教えてあげられずごめんね。でもこうしていつでも見ているから大丈夫だよ」
そんな声に励まされているようで、その本を参考にしながら、食べた味を思い出し、夫のお昼のお弁当、晩御飯と頑張った。
料理は好きじゃなかったけど、頑張れたのは、母の思い出の字に合えたから。
 
しかし、根性なしの私は、正直、「今日は外食したいな」 と思う日は多かった。
そんな日ほど、主婦の凄さを思い知らされたことなはい。
 
あれから32年。
毎日毎日、育児とご飯と、掃除と、仕事に追われながらも放棄することなく、気づいたらやれていた。
そこには、同じような仲間がたくさんいて、私1人だけがそう思っていたんじゃなかったんだと知ったから。
一緒に愚痴ってみたり、時にそうゆう方法もあったのかと教えられたから、続いたのだ。
そして気づくと、あんなに好きではなかった料理が大好きになっていた。
 
今では、料理が大好きで、家族が美味しいと言ってリクエストしてもらえることや、新しい料理法を発見できることが楽しくて仕方ない。
 
好きこそ物の上手なれという言葉があるが、嫌いだって、毎日頑張ってやるしかない状況だったら、うまくもなるし、好きにもなるんだ。
そこには、元彼の「作って」 の一言あったからだし、贅沢ができなかった結婚生活だったからだし、母のあの残してくれた本のおかげだし、同じような悩みを抱えた友人がいたから、と感謝している。
 
人生は思ったようにならないところからが楽しいのかもしれない。
きっと、32年前の夫は、こんなに料理ができるようになるなんて思ってなかったに違いない。

 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-08-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事