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メディアグランプリ

飛べない僕は地べたを這った。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鈴木喜勝(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「お前にいわれなくても、勝手に輝くから」
 
大学の親友と、最後に飲んだ時。ほとんどケンカ別れのように、彼にそう吐き捨てられた。
もう、試合は出来ない。だから、俺の代わりに輝いてくれと、言った時の答え。
 
彼が電車に乗って、姿を消した時に、ふと涙が零れたのを今でも覚えている。
 
大学時代。マイナーな格闘技に精を出していた。
プロに負けない試合をと、それなりに頑張っていた。社会人になっても、お互いにライバルとして切磋琢磨していた。それはそれは、楽しい時間だった。
 
私らを引き裂いたのは、社会的地位だった。
私は新卒で入社した求人広告の会社に入社。しかし、あまりにも体育会系のノリに耐え切れず、早々に会社を辞めて無職に。一方、彼はどこの誰が聞いても知っている超大手企業に勤めていた。
 
どこに行く時も、彼は話題を独占していた。
いい会社に入ったね。凄いですね。仕事はどんな感じなの? と。
どこに行っても、話題の中心は彼。私はただ、彼の隣に立ってニコニコしているだけだった。超大手企業に勤める彼の横にいる、ただの男に誰も興味を示さない。一緒に遊ぶ時も、一緒に練習する時も、私はただの陰だった。
 
ファイトスタイルもそうだった。華やかな技で観客を魅了し、多くの人が彼を称賛した。試合後に女の子に囲まれて、写真をせがまれる。私は、彼とファンの写真を撮る係と化していた。一方、私の試合は玄人好みとは聞こえのいい言い方で、写真をせがまれるのはコアな格闘技ファンの“オジサマ”ばかりだった。
 
それでも良かったのだ。彼は友人であり、友人が輝くのは嬉しいことだった。自分はこれからだ。彼に負けないようにと、就職活動をしていた。格闘技だって、負けないと意気込んでいた。
 
地方の新聞社は最終面接まで行った。けれど、ダメだった。消防士になるために一念発起して勉強だ! と意気込んだが、こちらは一次試験も受からない。
焦りのせいか試合もだんだんと迷走していく。試合に勝てることも少なくなり、ついに格闘技の試合中に首をケガしてしまう。しばらく、試合が出来なくなってしまった。いや、怖くて出来なくなってしまっていた。
 
「もうお前と一緒にいるの、しんどいよ」
LINEでそんなことを送った。所属していた格闘技サークルも、彼に何も言わずもうやめるといった。そうすると、彼は憤怒したのだった。友人が私と彼を誘って、飲み会の席を設けてくれたのだが、やはりうまく物事は進まない。彼の怒りは収まらず、結局ケンカ別れのようになってしまった。それが、彼との最後だった。
 
格闘技を辞め、医師からは「鬱病」と診断された。仕事も、やめた。
同じ夢を追いかけて来た者同士、なぜこれほどまでに天地の差がついたのか。たかだか、同じ格闘技が好きな者同士なだけだったじゃないか。お互いに、夢を語り合う、ただの青年だったじゃないか。なのに、どうしてこうも差が出てしまったのか。
 
朝、目が覚めると身体が動かず、涙だけが延々と出る生活を、数か月過ごした。大切な趣味も、仕事も、友人も、未来も、全てを失った。
 
それからの日々は大変だったとしか言いようがない。
けれど、何とか少しずつ回復していき、仕事も何とか復帰することが出来た。
とてもしんどい時期だったが、何とか生きている。それなりに回復のためにいろいろ努力し、身体も少しずつ回復していく。今では、昔のように身体を動かすことも出来るようになった。
 
今、振り返ると、あの時の自分はどうするべきだったのか、未だにわからない。
若かった。友人に負けたくなかった。言い訳はなんとでも言える。しかし、ふと思うのだ。
あらゆる物を手にした友人と、一緒に居続けることは出来なかったのか。あの頃のまま、2人で戦い続けることは、出来なかったのか。
 
劣等感や、羨ましいと思う気持ち、どうして自分はと比べてしまう気持ち。あの時、自分はどうすることが正解だったのだろう。今では、もうわからない。
 
今でも彼は超大手企業で働いている。
噂によると信じられないほど激務のようだが、それを彼はなんとかこなしているようだ。彼は、やはりすごい。
そもそも、彼と自分との間には、そういう人間としての“差”みたいなものがあったのだろう。
たまたま、本当にたまたま、格闘技という物が二人を繋いだだけで、本来は交わることのない者同士だったのだ。
今でも、彼はリングに上がり続けている。華やかなファイトスタイルの彼は、縦横無尽に、リングの上を飛び回っている。
 
一方、私はブラジリアン柔術を習った。理由は、身体が動けるうちは格闘技に身を委ねていたかったから、そして、心の拠り所が欲しかったから。
以前のように機敏に動けるかと言ったら、嘘になる。毎回吐きそうになりながら、マットで戦う。少しずつ、少しずつ、戦い方が身についてくる。その中で、私が得意とする守りの構えが見つかった。
 
クォーターガード。
やり方は簡単。相手の片足にだっこちゃん人形のようにしがみつくこと。
いじめられっこが、大きな相手に抵抗するように、ただ相手の足にしがみつくポジションだ。
これまた、地味なポジションだ。しかし、この構えが自分にはしっくりくるのだ。地味な人間には、地味な戦い方がある。格闘技にも、人生にも。
 
格闘技が繋ぎとめた友情だった。
本来、繋がることのない友情だった。
 
華やかに飛ぶことの出来ない自分は、地べたを這って社会という相手にしがみついて戦うしかない。
自分の心が招いたことは、自分の心でけじめをつけなくてはいけない。もう彼には会えないだろうけど、それでいい。
 
僕も、勝手に輝くことにするよ。地べたを這いながらも、輝く星を見上げるんだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-08-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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