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禁煙は界王拳10倍。しかし……


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:阿部真巳(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「はい! パス!」
味方からのパスを受け、その瞬間ボールを左足インサイドで右方向へ蹴り、右足インサイドで前に前に蹴りだし相手選手を抜き去る。「ダブルダッチ」というテクニックだ。
すぐに2人の選手が立ちはだかるが、2人の間にボールを蹴り、自身は左から半月を描くように走り相手の裏へ回る「メイア・ルア(裏街道)」という瞬足選手が使う技で抜きゴール前に迫る。
「え、マジ?」
味方選手から信じられないという声が聞こえたが、気に留めず前を向く。
相手キーパーも驚いた様子で前に出るタイミングが遅れる。ガラガラのゴール右側へインサイドで軽くシュートを放ち、ボールがネットに吸い込まれる。
禁煙をして1カ月。とにかく体が軽い。そして、息が上がらない。
界王拳2倍、いや10倍くらいのイメージだ。
しかし、この後、大変なことが起こるという事を、この時の私は知らない。
 
 
「ありがとうございました」
相手が電話を切るのを確認してから、受話器をたたきつけタバコに火をつける。
手元にある灰皿には、火のついたタバコがあるにも関わらず。
喫煙が体に悪いのは知っている。
というか、身をもって感じている。
体力の低下、抵抗力の低下により風邪をひきやすい。口に含む煙で歯茎の血流が悪くなり歯周病も進行している。
自分だけへの影響であれば自己責任だが、幼い娘の健康を副流煙で害することになるのは、親としてやってはいけないことだと思いつつ何年も禁煙ができていない。
ストレス解消になるから、ストレスを貯めたままだと余計体に悪い、という言い訳でタバコを吸い続け、長い間、禁煙のきっかけがつかめないでいた。
 
梅雨も明け、日中は外で運動することが危険とされる時期。
仕事中、体に違和感を覚え、帰るころには寒気で震えが出るほどになっていた。
翌朝、起きると喉が痛み、体温計も38度を示している。
どうやら夏風邪を引いたようだ。
何とか起き上がり、朝の一服を吸うためにベランダに向かいながら考える。
「こんな状態でもタバコを吸いに行くなんて、もはや病気だな……」
一口吸った瞬間のどに痛みがはしり、味もおかしい。
こんなに不味いのは、初めてタバコを吸った時以来だ。
一口しか吸っていないタバコを灰皿に押し付けながら閃く。
「これはタバコを止めるきっかけになるかもしれない」
そこから回復まで3日かかり、その間タバコを吸わずにすんだ。
回復した直後が危ないのだが、今回は何とか乗り越えることができ、その後はタバコを吸いたくなることは無く、20年間……(だと未成年になってしまうので)18年間吸い続けたタバコを止めることができた。
子供への影響を考えたこともあるが、10月に控えた値上げの影響が大きい。私の吸っていたマイルドセブン(現:メビウス)は、1箱110円も値上げとなり、年間換算すると4万円程度の負担増だ。
家族が増えて、財布が厳しくなっていたこもと影響しているが、一番の要因は、新しいデジタル一眼レフを買うための予算が欲しかったからだ。
 
 
自分でも信じられない位のゴールを決めてからも試合は優勢に進み、味方キックインの場面。
「はい! こっち!」
味方にパスを求めるが、意図が伝わっていない。
「早く!」
少しいら立ちを見せて催促するが、パスは要求した場所よりだいぶ前、ちょうど相手との中間点にボールが出される。
「何やってんだよ!」
心の中でつぶやき、急いでボールを取りに行くが、相手も同じタイミングでボールを奪いに来る。
お互いに足を振り上げボールを蹴りあい、どこかのアニメで見たワンシーンと同じ光景となり……。
「ドン!」
鈍い音と共に、自分の右足が後ろにはじき返され、膝に感じたことのない痛みが走り横に倒れこむ。
相手は何事もなかったようにドリブルを始めるが、すぐに味方に囲まれボールが外に出されプレーが止まる。
立ち上がろうとして右足をつくと激痛で立ちあがれない。
それに気づいた味方が肩を貸してくれフィールドの外に出される。
最初のうちは、足を突かなければ痛みはなかったが、次第に座っているだけで痛みを感じるようになり、膝が紫色に腫れてきた。
 
「あ~、これは靭帯損傷してるかもね。ここにはMRIがないから紹介状を書くよ」
大会終了後、日曜に診療している形成外科に行きレントゲンを撮ると、治療もされないまま紹介状を書かれ帰宅することになった。
翌日訪れた地域中核病院での診断結果は「右足内側側副靭帯損傷」で全治6ヶ月。
 
靭帯は血流が乏しく、一度損傷してしまうと自然治癒の可能性はほぼない。
そのため、プロスポーツ選手であれば手術で再建するのだが、私のような趣味でフットサルを行っている程度では保存療法(=何もしない)で治療を行うらしい。
足をギブシーネという取り外し可能なギブスで固め、松葉杖を使用する。
この時、取り外しのできないギブスを選択していれば、最初の通院から完治までの全期間分の保険料が下りたのだが、取り外しの出来るギブシーネを選択したことで、保険金が通院回数分しか下りなかった。
額にして10万円以上開きがあり、デジタル一眼レフを欲しかった身として悔しい想いをしたというのは、少し後の話である。
 
その日から不自由な生活が始まる。
思い通りに動けない。
松葉杖を使うので脇が痛い。
お風呂やトイレも大変。
そして、買ったばかりのデジタル一眼レフで撮影に行けない。
とはいえ、悪いことばかりだったとは言えない。
移動が不自由になったことで、タバコが吸いたくなっても喫煙所に行けないため、禁煙を維持することができ、それは今でも続いている。
何よりも家族の大切さを感じることができた。
私は自転車通勤なのだが、足を固めていては自転車に乗ることができず、妻に送迎をお願いすることになる。
少し面倒くさそうな顔をされたが、子供の幼稚園への送迎があるにも関わらず、文句ひとつ言わずに送迎をしてくれた。
 
禁煙をしたことで、靭帯を損傷してしまったが、総じて良い影響をもたらしている。
界王拳10倍が使えるほどに体力が回復し、風邪もひきにくくなり、歯周病の進行も止まった。何と言っても自由に使えるお金が増えたのは精神的にゆとりがでる。
もっとも、「タバコを止めたから年間10万円以上節約になる。だからデジタル一眼レフを買う!」という理由で禁煙2ヶ月目にデジタル一眼レフを買ったのだが、それを見て何も言わない妻からの視線は、精神的な圧迫となっているが。
 
 
 
 
***
 
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2022-08-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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