「婚約破棄」が私に教えてくれたこと
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:杉本 陽子(ライティング・ライブ東京会場)
「君とは一緒に暮らせない。結婚できない」
福岡から奈良への引っ越し準備を終えて、新しい生活への期待に胸を膨らませている私に向かって、彼は少し声を震わせながらそう言った。
23歳年上の考古学専門の大学教授だった。
マッチングサイトで出会ったバツイチの男性。
とても若見えする人で、出会った当初はなんと10歳もサバを読まれていたのに、
全く気付かなかった。
その彼に出会った当時、私は33歳だった。
真面目に結婚を考えるべき年齢でもあるにも関わらず、
私はその頃メンタルが消耗しきっており、真剣に将来を考える余裕がなかった。
ただただ、甘えさせてくれる誰かを必要としていた。
そんな時に、彼に出会った。
年齢的なこともあり、とても包容力のある男性だった。
知的で話し上手で、一緒にいてとても楽しかった。
彼も私を必要としてくれた。
ただ、彼には結婚願望がなかった。
私も最初はそれでよかったのだ。
だが、彼と出会って1年たった頃、私は年に数回も入院しなければならないような大きな病気をした。
その頃私は高齢の母と二人暮らし。
彼は母の代わりにいろいろと身の回りの世話をしてくれた。
だが、彼ができないことが一つあった。
それは「家族の同意書」にサインすること。
とても親密な彼との間に、何か薄くて透明で、でも絶対に割れることのない防弾ガラスのような固い壁があるように感じ、置き去りにされた子供のような孤独感を感じた。
「そうだ、彼と結婚してしまえばいいんだ」
私はその孤独からなんとか逃れようと、ふと降りてきたような答えに私はしがみついた。
彼は依然として、結婚には前向きではなかったが、じわじわと外堀を埋めていった。
「私どうしても、ウェディングドレスを着て写真が撮りたいの。
もう年齢も年齢だし、早く撮っておきたいな」
私は彼におねだりをし、退院してしばらくして療養もかねてバリ島に旅をした。
そこでウェディングフォトを撮影して、フェイスブックに挙げた。
「まだ入籍はしていないけれど」
という注釈がついているにせよ、それを見た友人たちはみな、「結婚おめでとう!」と祝福のメッセージを沢山寄せてくれた。
すると、ちょうどその頃、彼に移動の話がやってきた。
福岡から奈良へ。
当然のごとく、私は奈良についていくことにした。
母は高齢でとても心配だったが、この人を逃したら後がないと思った。
母親に合わせ、相手の母親にも挨拶した。
家具を選び、家を下見に行き、引っ越しの荷物も全て段ボールにまとめて、さあ3日後に引っ越しとなった時、突然彼は言い放った。
「君とは一緒に暮らせない。結婚できない」
全身からさーっと血の気が引いて、体が凍り付いた。
「ちょっと待ってよ。どういうこと?!」
「娘に話したんだけど、結婚を許してくれなかった」
彼には28歳になる娘さんがいた。
「娘さんが許してくれないからって……おかしいでしょ。ちゃんともう一度話しあって。そんなの嫌よ」
私はがんとして引き下がらず、彼にもう一度娘さんと話して説得してもらうことにした。
翌日、彼は言った。
「やっぱり娘を説得できなかった。ごめん」
昨日とは違う答えを期待していた私は裏切られた。
どうやら、前の奥さんが彼との復縁を望んでいて、彼と前の奥さんとの間で娘さんは板挟みとなっているとのことだった。
きっとこれ以上粘っても答えは変わらないのだろうと私は悟った。
「そう、わかった……。でも、私はあなたと結婚できると思って引っ越しの準備も終らせていたのよ。それを急に無しだなんてひど過ぎるよ。それなりの償いをしてもらおうと思うけどいい?」
私は意外なほど冷静に、ダメだった場合のために準備していた慰謝料の額を提示した。
その時、受講しようと思っていたコーチングスクールの受講料120万円ほどだ。
彼は関西出身のせいかお金にはシビアで、しっかり値切られてしまい、慰謝料は80万円に落ち着いた。
それでも、それでも大きな額だ。
世の中には、お金でしか償えないことがあるということを、身をもって知った。
それからの半年間は、まるでもぬけの殻だった。
すぐにコーチングのスクールに通うだけのエネルギーはなく、
全く無意味となってしまった引っ越しのための段ボールを片付けるのに1か月かかった。
彼と付き合っていたころは、彼のために美味しい料理を作ろうと、毎日キッチンに立っていたが、別れてからの半年間は包丁を持てなかった。
崩れ落ちそうな心をなんとか立て直そうと、身の回りの信頼できる知人や友人に話を聞いてもらった。
その中でも、今でも忘れられない言葉がある。
「そういう状況を作ったあなたにも原因があるのよ」
急所にナイフを刺されるかのような鋭い言葉だった。
(いま、満身創痍の私にそれをいう?)
と思った。
でも、彼女がいうことが正しいのも、深いところで分かっていた。
自分が選んだ相手だ。
相手は、そもそも結婚を望んでいないことを知っていたのに、目の前にいた彼にしがみつこうとしていた。
「娘がだめだと言ったから」というのは本当かもしれないけれど、彼自身が本当に私との結婚を望んでいれば、結果は違ったはずである。
私は現実を直視せず、真実の相手を見つけるための時間と労力を割くことを最初から放棄していたのだ。
そのことを痛感した私は、半年の休養期間ののち婚活に全力を捧げることとなり、3年の婚活期間を経て今の主人と出会い、今はとても幸せに暮らしている。
とても手痛い経験ではあったが、あの時の気づきがなければ辛い3年間の婚活期間は乗り切れなかったと思う。
婚活では、時に辛い現実に直面する。
私のようにアラフォーになって婚活を始める女性は特に。
言うなれば、自分という人間を「婚活市場」に売りに出し、どんな値段が付くかを直視しなければならない。
自分が望むような相手からは見向きもされず、10歳以上も年上の「おじさん」からばかりお申込みがくる。(振り返れば自分も「おばさん」なのだが)
それでも、めげずに諦めずに続けた人だけが「幸せ」を掴むのが婚活市場だ。
今では、自分自身がお世話になった結婚相談所に「仲人」として登録し、スクールで学んだコーチング技術を生かしながら、昔の私のように迷える婚活女性たちのサポートをさせていただいている。
現実を直視しつつ、希望をもって相手を探し続けることの大切さを伝えながら、婚活者をこれからも応援し続けたいと思っている。
***
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