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月がとても綺麗な夜に


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:松尾麻里子(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
映画監督ジェームズ・キャメロン氏の代表作でもある映画「タイタニック」を観終わったあと、子供が私に問うたのは、タイタニック号の悲劇で助かった命と、失われた命のその差は何だったのか、という問いだった。
 
そもそも、今から25年も前の映画をDVDまで購入して観ることになったのは、動画サイトでたまたま流れてきたタイタニック沈没事故の検証動画を見たことがきっかけだった。以前から、大型船の進水式など、迫力ある映像が大好きな息子の目には、あんなにも大きな船が真っ二つに割れて、ずぶずぶと海に沈んでいく様子は、かなり衝撃的だったに違いない。その日を境に、タイタニック沈没の原因究明のため、彼なりの研究が始まった。絵で描いてみたり、レゴで船を作り、湯船で実験をしたりと、湧き上がる探究心をエネルギーに変えて、毎日飽きずに研究を続けていたのだった。その一つの参考として、映画「タイタニック」を観てみようと、それが鑑賞に至った経緯だった。
 
この映画は、とても長いので、沈没の原因となる氷山への衝突シーンから観せることにした。私自身は、25年前に映画館で鑑賞をしたのだが、改めて観てみると、船が傾きはじめたぐらいから、クライマックスまで、かれこれ1時間くらい乗客の悲鳴が轟いているので、ひどく疲れるし、心底辛い映画だなと思った。それでも、息子にとっては、まさに、自分が知りたいと思っていた沈没までの道程を、当時としては、圧倒的な再現力で映像化された作品を通し、知的好奇心を満たすことができて、大満足の様子だった。
 
「この映画、どうだった?」
「面白かった! 船が割れて、海に食べられているみたいだったね」
まるで、お煎餅を食べているみたいな感想だなと思った。
「人がたくさん死んで、悲しい映画じゃない?」
そう言ってから、そうだよな、作品をかいつまんで観せているもの、乗客の悲しみや、乗務員の無念さは伝わらないよなと思い、反省した。
 
「最初から最後まで観てみる?」
「え、いいよ。沈没しているところが観られたから」
「そう」
いくら子供に対してとはいえ、映画の一部分だけを切り取ってしまったことは、間違いだったなと後悔し、次は通して観せてみようと密かにそのチャンスを窺っていた。
 
それから、一週間後、車で遠くまで出かける用事があったので、「タイタニック」を流してみることした。意外にも、途中で飽きることなく、最後まで鑑賞してくれたのだった。ところどころで、解説を加えながらではあったが、子供の理解力は私が想像していたよりも遥かに高く、しっかりと、この映画の制作者たちが伝えたかったメッセージを受け取ったようだった。
 
観終わった後、息子から、
「何で、お金持ちの人ばかり助かったの?」と聞かれた。
 
映画の中で、緊急脱出用のボートの数が明らかに足りておらず、女性や子供、階級の高い乗客から優先的に乗船するよう、乗務員が手配をしているシーンがあった。その様子を見ていて、それまでは沈没の原因だけに興味を持っていた彼の中で、人が勝手に決めた身分や性別という条件で、命の選別がなされることの不条理に自然と疑問が湧いたのであろう。
 
「それはね、お金持ちだからだよ」
私が、こう答えると、意外な答えが返ってきた。
 
「でもさ、この船には、アメリカに行って、仕事を見つけて、今度こそお金持ちになろうと思っている人がたくさん乗っていたんだよね。だったら、今は貧乏な人の方がたくさん、生きていた方が良かったんじゃないの? そういう人の方が、いっぱいがんばるんじゃないの?」
 
彼は、これから人生を開拓しようと夢や目標を持っている人たちの方が、既に成功を掴んでいる人たちより、強く逞しくあり、そして大きな可能性を秘めている、そういう人が生かされるべきだったのではと考えたようだった。
 
すごい考え方だな。ちょっと圧倒されてしまった。
 
それでも、やっぱり命に差などはなくて、階級の高い人でも、そうではない人でも、女性でも男性でも、子供でも老人でも、誰もが守られるべき尊い命の持ち主であることには変わりはないよ、と話し、彼も納得したようだが、5歳の子供から反骨精神が語られるとは全く想像していなかったので、自分の子供であっても、心の中って、本当にわからないものだな、とつくづく思った。
 
息子から、もうひとつ質問があった。
 
「お母さんは、タイタニックに乗ってみたい?」
「うーん、そうだなあ、今は乗らなくてもいいかな」
「君は?」
「僕は、乗ってみたいよ。いろんなところに行ってみたい」
 
そうだね、きっと、君はいつか、世界のいろんなことを知りたくなって、
握ったままの私の手を優しく離して、たくさんの旅に出るんだろうね。
 
大きく、立派になった息子の背中を、いつか見送る日がきたら、その時は笑顔で送り出してあげたいな、そんなことを思いながら、小さな息子の手をギュッと握り返した。月がとても綺麗な夜だった。
 
 
 
 
***
 
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2022-09-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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