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五感で感じるアート体験~大地の芸術祭~


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記事:添田咲子(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
大地の芸術祭。
 
新潟県でも雪深い山間地を含む十日町地域全体を使って行われている、2000年からもう20年以上続いている現代アートの祭典だ。
 
「現代アートなんてよくわからない」
そういう人が大半だと思う。私もその一人。自分自身新潟出身ということもあり、ずっと気になっていたくせに、面白くなかったらどうしようとか二の足を踏んでいるうちに10年くらい経ってしまった。しかし昨年延期になった開催を今年2022年に行っていると知り、今行こうと思った。何事も、タイミングというものがある。行こうと心に決まった今が私にとってのベストなタイミングだったのだ。
 
大地の芸術祭は、〝過疎地の・農業をやってきた・お年寄り〟と〝都市で・何をしているかわからない・若者〟の世代・地域・ジャンルを超えた交流を大切にしている。現地で製作・展開される国内外アーティストの作品は大掛かりで作業に手数を要するものも多い。アーティストだけでなく地域住民や〝こへび隊〟と呼ばれる地域外からボランティアとして応援に入る人も一緒に作業をし作品を完成させていくプロセスを踏んでいる点が非常にユニークだ。制作を協働で進める中で過疎地域に人々の交流が生まれ、活力が湧く。その現地に行って自分が何を感じられるのか、体験したいと思った。
 
今回私は小1の息子と二人、こへび隊として作品鑑賞に訪れる方たちを現地で受け入れる活動を希望した。夕方18時に代官山集合、専用バスに乗り込み十日町を目指す。一緒になったのはこへび隊常連参加という男性二人と、中国出身の若い女性。車内は自然と自己紹介やお菓子の交換などで修学旅行のような不思議な連帯感に包まれる。話を聞いていると、こへび隊活動に参加する人は常連が多く、ライフワークのようにこの芸術祭を支えているようだ。
 
関越道を塩沢石打インターで降り22時、〝三省ハウス〟という、廃校をオシャレにリノベーションした宿泊施設に到着した。懐かしい木造校舎。キュッキュと軋む音を立てる階段、清潔な二段ベッド。壁には、かつてこの校舎に通っていた子どもたちの版画や作文が展示されている。かつてこの場所に子どもたちの声が響き、生活があった。そこからの時間の流れがあり今に繋がっているリアリティを感じる。翌朝の朝食は魚沼産コシヒカリと地物野菜をたっぷり使った純・和食。まさに、おばあちゃん家の朝食を思い出させる素朴な美味しさにからだが喜ぶ。
 
食事を済ませるとスタッフミーティングののち、現地へ車で送ってもらう。
今回担当した作品は、〝里山アート動物園〟だ。遠くに越後の山並みを望むのんびりとした広い芝生の公園内に、動物をモチーフにした20以上の造形作品が展示されている。公園だけあって、訪れるのは小さな子ども連れが多い。カエルやトンボ、バッタなど虫もたくさんいるので虫取り網片手に来る子の姿も。アート作品は公園に溶け込むように配置されており、直接触ったり乗ったりすることができ観る人との距離感がとても近い。〝作品〟として何か偉そうに飾られているのではなく、まず公園という場所があり、人々が心地よさを求めて集まってくる。その場をともにする存在として作品が在ると言った感覚だ。思い思いに走り回る子どもたちと、作品の動物たちのユニークな姿が重なる。この〝動物園〟は人が訪れて初めて完成するアート作品ということなのかもしれない。
 
芸術祭を支える大きな力となっているのが、地元に住む方々の存在だ。
私が担当した会場には〝おもてなし〟と言って地元のお母さんたちが交代交代に麦茶をもってきて無料休憩所を開いてくれた。近くの畑で今朝採ってきたという新鮮そのものの茄子、じゃがいも、ピーマン、ゴーヤをたくさん入れた袋詰めを「どれでも100円」と大盤振る舞い。「売れても売れなくてもいいんだけど、一応ね」なんて朗らかに笑っているので、「いやいや! こういうのが良いんですよ!」と目立つように並べなおした。まったく商業的でない、〝豊かさのおすそ分け〟の姿勢にこの土地の持つ豊かさがより一層感じ取られる。こういうところに訪れる人の心は掴まれる。
 
このお母さんたち、芸術祭の運営事務局のようなところから頼まれて休憩所を開いているのかと尋ねてみたら、自主的に集落で希望者を募って行っているのだという。自分たち自身楽しんでやっているからなのだろう、訪れる人たちとの関わり方がとっても自然で絶妙な距離感なのだ。やんちゃな小1息子が、お母さんたちの用意してくださった麦茶を飲んだ後の紙コップを蹴とばして遊び始めた。用意してくださった物を……と私が一言苦言を呈そうとするより先に、それを見ていたお母さん「あんた(息子)、そんなとこから蹴っ飛ばしても転がらないでしょ~、もっと坂の上から蹴りなさい」と、さも当然のように言ってくださった。自分の母なら、そんな風に言ってくれたと思う。でも今日初めて会った私たちに、十日町のお母さんはさも当然のことのようにそんな対応をしてくれた。そんな懐の深さは、十日町で触れ合った人たちから何度となく感じた。それは、現地に住む人たちからはもちろん、この芸術祭を通してこの地に集ってくる人たちからも。
 
「新潟は閉鎖的な県民性」と言われることが多い。しかしここにきて明らかに感じたのは、全国各地あるいは世界各国から、自分たちの地域に興味を持ちわざわざ足を運んでくる人たちを、まるで家族や親せきのように迎え入れてくれる人たちがここにはいるということ。
こんな第二の故郷のような場所を、都会に暮らす人たちは潜在的に求めているのではないか。こへび隊のようにこの地に足繫く通う人たちの存在は、この過疎地域がだれもが受け入れられる故郷として多くの人に求められ続ける可能性を感じさせた。
 
これは、この地域だからこそできる芸術祭だ。先祖代々受け継いできた、豊かな実りを生み出す土地と、それを支える人たちの暮らしの中にあった喜怒哀楽。その、土の匂いの濃い、地に足のついた、命や暮らしと直結した人間の根っこの深い部分を感じられる芸術祭。まさに、大地の芸術祭なのだ。
 
アートの何たるかがよくわからなくてもいい。大地の芸術祭は、美術館のような整ったハコの中でお行儀よく観賞するものではない。一面に広がる田んぼの穂が実りをつけ、やがて黄金色に変わっていくさまに豊かさと美しさを感じたり、その土地で採れた食材を知っていて美味しく食べさせてくれる人と場所が在ることに喜びを感じられるなら、きっと行って損はないはずだ。実際に現地へ足を運び、何に目を留め、何を感じ、何を得るかはぜひ行ってみて体験してほしい。
 
 
 
 
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2022-09-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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