メディアグランプリ

自分史上、最低で最高の先生がくれたもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:さかまきK(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「みんな〜! 先生から一つ提案なんだけど、二学期の学級委員長は、サカマキさんにお願いしたいと思います! いいかな~?」
 
忘れもしない。小学校三年9月1日。
担任の先生は突然、クラスメイトに向かってそう言ったのだ。
 
「ええ!? ちょっと待って。聞いてない。よりによって私? 絶対イヤ!!」
 
というのは心の声だ。私が声を上げられるはずもない。青天の霹靂だった。
 
一瞬にして静まり返る教室……
みんなの頭上には「!」よりも「?」が浮かんでいた。
それもそのはず。私といえば、筋金入りの引っ込み思案なのだから。
授業中に自ら発言することなどありえない。休み時間も一人で謎の読み書きをしている。
大人しくて、影が薄い。それはみんなの共通認識だった。
それに、何を隠そう、いじめられっ子。
 
その夜は眠れなかった。
最悪の新学期がスタートしてしまったのだ。
明日、みんなの係活動を決めるって言ってたよね。
ってことは、私が司会をするってこと?
あ~無理。一夜にして学校が消えないかな?
もはや先生のことを恨み始めていた。
 
自己主張を知らない私は翌朝、学校を休むことすらできず、重たい心を引きずって登校した。
いつも以上にみんなの騒がしさが耳につく中、一限目から教壇に立たされる。
 
「……こ、これから、みな、皆さんの、係を、決め、ていきたい、と思、います」
 
クラス中の視線が突き刺さる。
いくら私が自分の殻に閉じこもっているからって、こんな荒療治があるだろうか?
夜の海に突き落とされたような心地だった。カナヅチの人間にとってそれが何を意味するか?
 
結局その日は、ほとんど筆談によって進行した。
突如、未知の役割を担わされた私には、黒板に文字を書き、それを指さすことで、みんなを導くのが関の山。
泳ぎ方など教わったことがない。それどころか水が怖くてたまらない。
先生はニコニコしながら、みんなに私を助けるよう促すだけ。方位磁石も浮き輪も与えてはくれなかった。
もちろん一限で足りるわけもなく、当日すべての時間を使って私はもがき続けた。
 
それからは、みんなの前に立ち続ける毎日だった。
朝礼、帰りのホームルーム、毎週の学級会……
回を重ねるごとに、なぜだか話せるようになっていく。
いつしか苦痛どころか、自分の居場所のように感じられていった。
時には全校生徒の前で話すこともあったが、それも25mプールが50mになったようなもの。
私は、慣れという最大の味方を手に入れていた。
 
それ以降はクラスをまとめるべく、一人ひとりがどんなことを考えているのか探ろうとした。
今までの自分のように、意見を言えない子の小さな声にも耳を傾けたい、そんな一心で。
すると、みな、それぞれに得意分野のようなものがあることに気づいた。
静かなあの子も、本の話になると饒舌になった。
ぼーっとしている男子も、絵を描くことに関しては情熱的だ。
そうやって、みんなが自分の「好き」に触れたとき、途端に輝きだすのが楽しくて、教室中をきょろきょろ観察するようになった。
 
それは、あの9月1日、先生が私にしてくれたことでもあった。
生徒それぞれの適正を見抜き、私の場合は、人前に立つことによって、自分自身、そして周りの見る目も変わるはず……そんな未来を予測しての、多少強引にも思える決断だったのではないだろうか?
思えば、今までの私は、ぼっちであるがゆえにクラスの様子を客観的に眺めていた。
そこから得たイメージで相関図を描き、勝手な物語を作ったりして遊んでいた。
なので、人間模様や人物像を把握するのは難しいことではなかったように思う。
 
気づけば、優しく話しかけられることが増え、友達ができていた。
休み時間もみんなと校庭で遊ぶようになった。
なぜか成績まで上がっていった。
自分に自信が持てたおかげなのかもしれない。
このクラスは、夜の海ではなく、幼い頃に夢中で遊んだビニールプールだったのだ。
恐れることはない。泳げなくても大丈夫。みんなが仲間となって楽しめたらいい。
 
ある日、先生に聞いたことがある。
「ねぇ先生、なんで私を委員長にしたの? どうして私だったの?」
 
すると先生は、
「できると思ったからだよ」
そう言ってニコニコするだけだった。
 
あんなにも苦手だと思っていたこと。
元々の性格だからどうしようもないと思っていたこと。
それはいつしか、日常の当たり前としてこなせるようになっていた。
もちろん、恥をかいたり悩んだりすることはあったけれど、克服できたのは事実だ。
さらには、以前の孤独で苦しい毎日を抜け出すことにも繋がった。
 
それからというもの、当時の自分がタイムマシーンに乗って、現在の自分を助けに来てくれるのである。
というのも、今でも新しいことを始めようとするたび、心のどこかで躊躇してしまうのだが、そんな時は決まって、「怖がることはないよ」と小3の自分がそっと背中を押すのだ。
おかげで、今日までたくさんの挑戦と失敗を繰り返している。
 
ライティング・ゼミを受講したのもその一つである。
ブログすら書いたことのなかった私は、文章を人に読まれるなんて……と戸惑った。
けれども踏み出したことで、文章を書くのは自転車に乗るくらい簡単なものだと教わり、それを徐々に実感しつつある。これまでは水中で華麗にダンスをするくらいに考えていた。
成果はこれからの自分にもかかっているとしても、苦手意識から脱却できたこの4ヶ月はかけがえのないもの。
新しいことにチャレンジできた喜びを胸に、これからも書き続けたい。
そして、くじけそうになった時は、「できると思ったからだよ」と言った、恩師の笑顔を思い出すのだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-09-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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