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大丈夫ですかぁーー!!

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:原田甲子郎 (ライティング・ゼミ 2022年8月コース)
 
 
「大丈夫ですかぁーー!!」
 
泳いでいるとき、何度そう声をかけられたことだろう。覚えていない。
大丈夫ですか、だと?
全く大丈夫ではなかった。
 
ぼくは人生初となるトライアスロンの大会に出ていた。
 
トライアスロンとは、水泳・自転車・長距離走の3種目を、この順番で連続して行う耐久競技である。ぼくが参加したレースは水泳1.5km、自転車40km、長距離走10kmというオリンピック種目のトライアスロンと同じ距離のレースだ。
 
レースの2年前、ぼくはカナヅチだった。泳げなかった。完走を目指すぼくにとって、水泳は鬼門だった。
 
水泳は、一般的にクロールで泳ぐ。休憩または前方確認のために、一時的に平泳ぎをする人もいるだろう。
 
そんな中、ぼくは背泳ぎをしていた。
いや、違う。
 
”仰向けになって浮いていた”、という表現のほうが正しい。
 
大会出場者は1000人いた。全員がクロールしているなか、一人仰向けになって浮いているわけである。さぞかし異常な光景であったに違いない。ライフガードの人が声をかけるのも無理ない。
 
出場選手1000人のなかでも、ぼくが最も多くの「大丈夫ですかぁーー!」の声を獲得した選手であることは間違いないと思う。
 
走ることも嫌いだった。5km以上走った記憶はない。
 
カナヅチで、走ることが嫌いなぼくがなぜトライアスロンの大会に出たのか。そんな話をしたいと思う。
 

 
小学校の頃、夏の水泳大会は苦痛だった。水泳大会では、クラス全員が見ているなか、ビート板を持ってバタ足する部門に出ていた。水泳の授業が始まる夏はきらいだった。
 
「趣味は走ることです。マラソンレースに毎年出場しています」そういう人に会うたびに、何が楽しいのだろう。といつも思っていた。全く興味がなかった。
 
日本の高校を卒業後アメリカの大学に進学した。筋トレにハマった。でかいヤツがえらい、というアメリカ文化にどっぷり浸かっていた。Skinny Asian (痩せっぽちのアジア人)とバカにされないためにも、身体をデカくしようと鍛えていた。マラソン選手のような細い身体は、ぼくのありたい姿とは対極の存在だった。
 
大学時代から一気に2020年まで時を進める。
2020年4月緊急事態宣言が出た。在宅勤務が始まった。全く歩かなくなった。このままじゃまずいと思いながらも、何もアクションは起こさなかった。
 
同年夏、子供が、通っているスイミングスクールのチラシを持って帰ってきた。大人の水泳教室の案内だった。ふとひらめいた。
 
「そうだ。水泳を習おう」
 
コロナ禍のストレスで思考回路がおかしくなっていたのか、刺激がない田舎生活に飽きていたためなのかわからない。何か新しいことがしたい、と思っていた。
 
10月、子供が通っているスイミングスクールに通い始めた。もちろん初心者クラスだ。クラスメイトは引退したと思われるご年配の方々が大半だった。
 
最初はとにかく苦しかった。たくさん水を飲んだ。鼻が痛かった。
「では次、25mを8本いきましょう!」と言われ、6本目を泳いだあと帰った。水泳って何なんだ、と思っていた。
 
継続は力なり、とはよく言ったもので、半年経つとクロールはなんとか泳げるようになった。
 
2021年夏。
コロナになった。
 
高熱は1週間ほどで収まった。しかし、その後も身体がとにかくだるかった。朝が辛い。動けない。このままだと社会復帰できないのでは、という恐怖感がすごかった。
 
朝起きたら、どんなにだるくても、絶対に外に出て歩こう。できることなら走ろうと決めた。
 
朝走る、という人生で一度もしたことを続けているうちに、少しづつ走れるようになった。夜も走るようになった。
 
「あれ?もしかして、トライアスロンに出れるんじゃないか?」
 
ふと思った。
 
その時点では、10km走ったことも、1.5km泳いだこともなかった。
とりあえずレースに申し込んでしまおう、と決めた。
目標は完走すること。
 
絶対的な練習量は足りないが、1年間コツコツとスイムとランニングを続けた。
 
レース当日になった。
天気予報は雨だったが、雲一つない秋晴れだった。
レース前日に泊まったホテルの人も、富士山は2週間ぶりに見るよ、と言っていた。朝からいい予感がした。
 
水泳は河口湖に設置された1周750メートルのコースを2周する。
年齢別にグループが分けられ、若いグループから順番にスタートする。
 
1周目は苦しかった。レースの緊張、慣れないウェットスーツ、後ろから足をつかまれる、前の人に蹴られる、波で呼吸がしにくい、など原因はたくさんある。
 
苦しくなると、仰向けになった。
 
「大丈夫ですかぁーー!!」
 
何度も心配されながらも何とか1周目が終わった。
 
ものすごい安堵感だった。あと750mで鬼門のスイムが終わる。そう思って始まった2周目、少し落ち着いた。ただひたすら腕を回した。もう仰向けにはならなかった。
 
無事スイムが終わった。
 
次は自転車だ。自転車の置き場所は年齢別に分かれている。ぼくの自転車の周りはガラガラだった。ぼくと同じタイミングでスタートを切った人は、とっくの前に水泳を終えていた。
 
着替えが終わり、そのまま自転車を押しながらトイレに向かった。泳いでいる間に湖の中で用を足せばよかったのだろうが、そんな余裕はなかった。
 
水泳、自転車、長距離走のなかでは、自転車が断トツで好きだ。河口湖を抜け、西湖を3周する40km。対向車線の車を気にすることなく走ることができるので、安心して走れる。自転車は気持ちよく走れた。
 
あとはランニング10kmだけだ。
足は重かったが、1つだけルールを決めた。絶対に歩かないこと。
 
ゴールした。最後まで走りきった。
 
腕を回せば、水泳は前に進む。
自転車は、漕げば前に進む。
ランニングは、足を一歩前に出せば、前に進む。
レースが進むにつれて、そんなことに気付いている自分がいた。
 
「大丈夫ですかぁーー!!」
と声をかけてくれたライフガードの方々(おそらくほぼ全員)にお礼を言いたい。
 
仰向けだったぼくは、無事完走することができました、と。
 
 
 
 
***
 
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2022-09-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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