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上海ロックダウンで学んだ大切なこと


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記事:John Ishii(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「三日後の4月1日からロックダウンします」
 
上海市からの通知は突然だった。仕事の合間を見て近所のスーパーに駆け込んだが、もうめぼしい食料品や生活用品は売り切れていた。
 
私は上海に駐在している普通のサラリーマンだ。今まで中国には合計14年駐在したが、ロックダウンは私も初めてだった。
 
当初は4日間のロックダウンというアナウンスだったが、すぐ延期された。それもいつまでという期限なしの延期だ。最初の延期のときは、合計14日くらいで解除されるかなと、勝手に解釈していた。ところが、2週間経とうが、1ヶ月経とうが解除はされず、結局は2ヶ月続いた。
 
ロックダウンは、わかりやすく言うと、高校生が喫煙や万引きを学校に見つかって自宅謹慎させられるようなものだ。つまり人為的な行動規制が突然始まってしまう。
 
人為的な規制なので、社会インフラは基本的には整っている。電気、ガス、水道、インターネット、携帯電話はすべて通常通り。ただ、市民が一切外出できないため、宅配や出前というデリバリー系のインフラは止まってしまった。この、デリバリー以外のインフラが残っているのがロックダウンの特徴だ。
 
つまりロックダウンでも、部屋の中で生活することはできる。水も電気もあり通信も可能だ。衣食住のうち、最初に困ったのは食だった。あまり食糧備蓄のない家は食糧ストックがすぐ底をついた。しかしデリバリーが止まってしまったため外から食料を運んでもらうことができない。
 
すぐ自然発生したのが、マンションの1階にテーブルを設置して自宅の不要な食料をテーブルに置き、必要な人が持って帰る、物々交換だ。私も余っていたお米を拠出して、ラーメンやトイレットペーパーを入手した。貨幣を通じない原始的な現物取引だ。これはしばらくの間かなり有効に活用された。
 
次に食料の問題解決に取り組んだのが団体購入だ。デリバリーのネットワークは利用できないが、一部の運送会社が特別運転許可を得た車両を手配し、そこに食料を販売する業者がネットで団体購入を受付けはじめた。すぐ各地の団地やマンションの住人がボランティアで団体購入組織を結成、団長を選んで団体購入の注文をまとめ始めた。
 
最初は野菜や米、パン、卵、油といった基本食料が中心だったが、団体購入に供給する業者が増えると、ピザやケーキ、鍋の具材まで購入できるようになった。
 
団長の仕事は大変で、業者選定から受注、そして頻繁に発生する注文数量変更に対応し、最後はボランティアを管理して各家まで届ける。ほぼ無償で骨の折れる仕事だ。しかし、多くの住民が必要な食料を届ける重要な役割となり、団体購入は流行語となった。
 
ロックダウンでとても節約できたのは衣類だ。外出できないので何を着ていても誰にも見られない。私はTシャツ短パンだけでロックダウンを過ごした。ただ、たまにはジーンズやジャケットをあえて着てみた。あまりに変化のない生活なので、ちょっと着るものを変えるだけでも気分転換になった。
 
あと、室内での運動は大切だ。ずっと部屋にいるから運動不足しかない。体操したり筋トレしたり、時間を決めて体を動かすことでこれも大きな気分転換となった。
 
私はサービスアパートメントに住んでいるので、普段は週に2回部屋掃除をしてくれていた。しかしロックダウンで掃除のおばちゃんは来てくれない。何もしないのでホコリがたまっていく。まるでダースベーダー率いる帝国軍が毎日ヒタヒタと前進してくるようなものだ。3-4日掃除しないとかなりのホコリが積もってくる。
 
掃除は環境をきれいにするだけでなく、掃除をする人間の心を磨いてくれる作業だと感じた。汚れを観察してきれいにするのは気持ちいいものだ。今までおばちゃん任せだったなと反省した。
 
アルコールはあえて飲まないようにした。運動不足の上に置いてあるビールを飲んでいたら間違いなく、まずいことになる。それに誰も監視していないから、昼からプシュっと開けても怒られない。やはり自主規制が必要だと感じた。
 
唯一外出というか外に出られるのは、PCR検査の時だけだ。各団地やマンションごとに時間が割り当てられ、門のあたりに臨時のテントが設置され検査を行う。このわずかな門までの空間が唯一の外出場所だ。
 
団地で何百人もPCR検査すると長い列ができる。何日かに一回のPCR検査の時だけわずかに外にでられるので、列もあまり苦にはならなかった。列の前後に並ぶ団地の人たちと世間話をしながら検査を待つのは楽しかった。
 
私が知り合った団体購入の団長が言っていた。
 
「今まで、上海はビジネスや金儲けばかりで団地住民との交流がほぼなかった。しかしロックダウンの団体購入などを通じて、多くの人とコミュニケーションを取る必要が出てきた。自分が団長をやっていてきついときもあるけど、住民との交流を通じてつながりを持てたことが貴重な体験だ」
 
ロックダウンは人為的な行動制限で、とても窮屈な負担を上海市民に強いた。2ヶ月も自宅に閉じ込められ、誰もが辛い思いを重ねた。しかし、生きるために必要な団体購入などの活動を通じ、人と人のコミュニケーションやつながりの大切さ、心地よさを改めて感じることができた。
 
上海のロックダウンを通じて、多くの人が困っている人を思いやり相互に助け合う大切さを再認識した。上海という大都会でも、まだまだ人情が残っていた。
 
 
 
 
***
 
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2022-09-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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