メディアグランプリ

着物男子パラダイスと白馬に乗ったお殿様


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記事:笹尾和代子(ライティング・ゼミ8月コース)
 
 
中学生だったある日、わたしはテスト期間中でいつもより早く帰宅した。両親は共働きで、一つ上の兄もまだ学校から帰ってきていなかった。自分ひとりしかいない家で物音がないのは淋しい……。すぐにテレビをつけた。
「何か面白そうな番組ないかなぁ」
リモコンのボタンをポチポチ押しながらチャンネルを変えるが、ちょうどお昼の番組が終わったタイミングで、興味をそそるような番組は見つからない。かといって、テレビを消すのは嫌だ。
「まぁ、これでいいかな」
妥協して選んだ番組は時代劇だった。
大した期待もなくぼんやりと画面を眺めていると、白い馬に乗ったお殿様が砂浜を颯爽と駆けていく。演じている俳優さんは、切れ長の目がキリリとして鼻筋が通った凛々しい顔立ちをしている。
「あっ! かっこいいかも」
そのお殿様は剣の腕も強く、まっ直ぐに真実を見つめる強さをもっていた。そして、家臣や民にはとても優しい。着物をピシッと着こなす凛々しいお殿様は、着物と和の文化が大好きなわたしの心を瞬く間につかんでしまった。
「かっこよかったぁ~! 素敵なお殿様!」
それからは、テスト期間中は早めに帰り、その時代劇を見ることが楽しみになった。
そして、いつの間にか、白馬に乗った凛々しいお殿様は、わたしにとっての白馬の王子様的な存在になっていた。
 
その後も恋愛らしい恋愛をすることもなく、白馬のお殿様への憧れを抱いたまま、就職の時期を迎えた。
「福岡を離れて、京都に行ってみたい!」
京都、そこは和の文化が色濃く残された歴史ある街。京都ならば、着物や平安時代からの和の文化を身近に感じられるかもしれない。
わたしは、無事に就職試験に合格し、京都での社会人生活を開始した。
何気なく歩く道の傍らに教科書で見た歴史的な建物や寺院などが建ち、日常に溶け込んでいる様子は見ていて楽しい。そして、念願の着物の着付けを習い、着物で街中を散策する楽しみも覚えた。
そんな着物や和の文化との相思相愛の日々の中、わたしは、京都に来る前は気づいていなかった嬉しい誤算に気づく。
それは、着物を着ている男性が非常に多いということ!
 
京都は、着物男子パラダイスだったのだ!
 
もちろん、着物を着ている女性もほかの都市に比べて格段に多く、素敵な着こなしをされている。が、同じくらい着物を着ている男性も多いのだ! そして、女性以上に着こなしに個性があり、正統派の着こなしもあれば、和洋折衷な着こなしなど、おしゃれの一環として楽しんでいる。
 
「ここならば、わたしの白馬のお殿様に出会えるかもしれない!」
わたしは早速、白馬に乗った凛々しいお殿様を、より現実的な理想の男性像に変換した。そして、導き出した理想の男性像は、芯が通っていて、着物が似合う男性。
ただ、一言に着物が似合う男性といっても、わたしの中ではいくつかのこだわりがあった。その一つが、帯の位置と締めかただ。
男性の着物は帯だけで止められている。だから、帯の位置と締めかたで印象が大きく変わる。帯が上すぎると子供っぽい見た目になり、ちょっと残念な見た目になってしてしまうのだ。
私の理想は、白馬に乗ったお殿様のように、下腹で支えるように帯を締め、かつ襟元は乱れることなく清潔感を保っている着こなしだった。さらに欲をいえば、お殿様のようにがっしりとした体格であってほしい。
こうして、わたしの白馬のお殿様探しが始まった。
 
5年ほど経った頃、わたしは「なかなか難易度高めの理想の男性像を確立してしまったような気がする……」と気づいた。
着物を素敵に着こなしている男性は多いが、わたしの理想とする胸の厚さと下腹具合を兼ね備える男性は少ない。兼ね備える男性はいても、大体は40代以降で結婚されていた。
 
「わたしもそろそろ結婚を考えたい。けど、理想を追い求めるとそれは叶わない気がする」
30歳を過ぎて結婚願望が芽生えたわたしは、自分の理想に妥協をし、条件がいいと言われる同世代の独身男性と会い、好きになれるように努めてみた。けれど、ときめかない!
理想の着こなしの40~60代の男性を見かけたときのほうが、心がときめいてしまうのだ。
 
「やっぱり、わたしの白馬のお殿様はいなかったのかな……」
わたしは、着物や和の文化を十分に満喫できた京都での生活に満足感と、少しの落胆の気持ちを抱えながら、福岡に戻ってきた。
それでも白馬のお殿様への未練と結婚への未練を振り切れず、福岡で婚活を再開した。
 
そして、一度婚活を中断してみようかと思ったとき、わたしは出会った! 同じ歳で性格・体格、何もかもが理想通りの男性に!
最初は気づかなかったけれど、少しずつその人のことを知るほど、わたしの理想通りの人だと感じた。何よりも、一緒にいると幸せで満たされる。こんな気持ちははじめてだ。自分の軸がしっかりしていて、厳しいけど優しい、そして着物が似合いそうな彼。
「自慢じゃないけど、着物は似合うよ」と少し得意げに話す姿に、わたしは心の中でガッツポーズをした。
 
初めて白馬のお殿様を見たときのその俳優さんは、おそらく今のその人と同じぐらいの歳だった。わたしの心をつかんだ時のまま、白馬のお殿様はわたしを待っていてくれたのだろうか。
 
今、わたしは、素敵なお殿様の隣で綿帽子をかぶり、お殿様と微笑みあっている。
 
 
 
 
***
 
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2022-09-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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