メディアグランプリ

「お義母さんのタオル、ちゃんと乾いている事件」


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記事:村田さと美(ライティング・ライブ大坂会場)
 
 
「なんや、このタオルの干し方?」「ズボン、こんな干し方する?」
お正月に夫の実家に帰省し、朝ベランダで義母と洗濯を干していたら何度も心が「もやっ」とした。私の干し方と全く違うのだ。でも「郷に入れば、郷に従え」その度に自分に言い聞かせ、義母のマネをしながら洗濯ものを干し終えた。
夕方になり「洗濯物、取り込んできます」と、1人ベランダに出て、タオルを触って気がついた。「ちゃんと全部、乾いてるやん!」「ズボンも大丈夫、乾いてる!」
 
当時の私は自分の「正しい方法」にこだわっていた。結婚後、全ての家事をするようになり、母から学んだ洗濯の干し方を自分なりに改良し、それがベストだと思い込んでいた。夫がたまーに洗濯ものを干してくれても「ありがとう」とも言わず、「変わった干しかたするな」とブツブツ言いながら、干しなおしたりしていた。ほんとイヤなやつ(笑)。
子育てにおいても同じ。育児書を次々と読みあさり、自分が正しいと思う方法にこだわり続けた。おっぱいは子どもがほしがるまで何歳でもあげればいい、布おむつがいい、テレビは見せない方がいい、本をたくさんよんであげるのがいい、童謡を歌ってあげるのがいい……それらにこだわり続け、夫が息子とダラダラテレビを見ていると「そんなにテレビ見せんといて!」と怒りをあらわにしていた。「私は完璧に正しい育児をしている」と自負しないと自分が支えられなかったんだと思う。なんて疲れるやつ(笑)。
 
ところが、「タオル、ちゃんと乾いてる事件」をきっかけに、モノの見方がふっと軽くなった。義母も私も「洗濯物を乾かす」というゴール設定は同じ。タオルもズボンも乾けばその工程はいろいろあっていいのだ。タオルの干しかた一つで「もやっ」としていた自分がバカらしくなった。
 
そうすると、日常のいろんなことが面白いぐらいにこの法則にあてはまってきた。特に子育てにおいてはあげればキリがない。1歳の息子が、晴れの日に長靴をはいて散歩にいくこと、シャツのボタンを上から留めるか下から留めるか、靴を座ってはくか立ってはくかなど、いちいち「この方がいいんじゃない」「この方が速いんじゃない」などと口を出し、時には怒っていた。子どもが速さを追求しているかどうかの確認もせず、賢い母親のふりをして、実態は口うるさい監視員にすぎなかった。しかし、この事件のおかげで口うるさい指導が必要ないことに気がついたのだ。息子は自分のやり方でちゃんとボタンを留めている、靴をはいて散歩している。何も問題なんてない。指導も怒りも必要なかった。
これはソファでテレビを見ながら寝落ちする夫にも当てはまった。それまでは「ベッドで寝た方がいいのに」とイライラしながら彼をたたき起こしてベッドに引っ張っていたけれど、「気持ちいいからソファで寝てるんだよね」とナチュラルにソファの上の夫にふとんをかけるようになった。夫も何一つ文句を言わなかった。
 
「ゴールを達成できているなら、その工程はみんなちがってみんないい」それに気づいたのは、当時の私にとって大きな発見だった。
心地よさを重視する人、効率を重視する人、楽しさを重視する人、それぞれ大切にしたいものは違う。さらには、同じゴールを設定しても、100%達成してこそ満足する人、80%できれば満足する人、あるいはその過程を楽しむことで満足する人、これまた人それぞれ。
「タオル、ちゃんと乾いてる事件」以来、その違いを興味をもって観察できるようになると毎日が楽しくなった。
子育てでの困りごと、例えばどうやってにんじんを食べさせるか悩んでいた時も、育児書を読みあさって正しい方法を血眼になって探すより、ママ友や先輩ママに聞いたほうが意外な答えをもらえたりした。「にんじんを子どもに洗ってもらうだけで、食べてくれたよ」「ママが美味しそうに食べていれば、そのうち食べるようになるよ」とか、「にんじんくらい食べられなくても、死なへんよ!」と笑い飛ばしてくれるママもいた。「そんな考えかたもあるんや、そんな方法もあるんや!」と発見が楽しく、いろんな人の話を素直に聞けるようになった。すると友達が増えた。それぞれの違いをリスペクトできるようになると、自分だけの一つの正しさにこだわることがなくなった。そして生きるのが断然楽になった。
 
当時の自分をふりかえると「自分が正しい」と思っていることを人に押し付けようとしていた傲慢さ、たとえ口に出さなくても「自分の方が正しい」と思い込んでいる、どす黒いオーラ、そして自分で自分の首をしめていた私、今思い出すだけで恥ずかしくてたまらない。
とはいえ、そんな若かりし自分も、自分のゴールに向かって必死でがんばっていたんだよなぁと思う。「まあいいか、あの頃があるから今がある。洗濯物のおかげで気づけてよかったね」と抱きしめてあげたくもなる(笑)。
 
あれから20年近く経った今、私に靴のはき方やボタンの留め方まで指示されていた息子は19歳になり、調理師の卵として修行中。一緒に料理をしていると、野菜の切り方、下ごしらえの仕方など逆にいろいろ指導されることが増えた。けれど、その度に「もやっ」とするのではなく「あっ、そんなやり方もあるのね」と素直に受け入れられる自分がいる。息子の成長を素直に喜んでいる自分がいる。「別に私のやり方も悪くはないけどね〜」とちょっと思いながら(笑)。
そしてふとあの場面を思い出して心の中でつぶやいてみる、「お義母さん、そのタオルの干し方もいいですね」と。
 
 
 
 
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2022-10-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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