メディアグランプリ

本が私をダメにするので読書したくないけど、しないと死ぬのでやめられない


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:青梅博子(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
人間は、快楽に弱い生き物である。中でも私は快楽への自制が効きづらい人種だ。
快楽に弱い人種は、得てして堕落闇落ち直行便系の娯楽を好む。
ギャンブル、麻薬、飲酒、淫蕩などは、キモチよすぎるので、節度を越えてハマりすぎちゃうと健全な社会生活を失い、健康を損ない、ついには命を危うくする。
 
私はこれら危険な娯楽に「読書」を加えたい。
 
というか、世間の方々はどうやって、読書をしながら、まともな社会活動をこなしているのだろう。本屋で幸せそうに買い物をする人々の襟首をひっつかんで、がくがく揺さぶりながら問いただしたい。無理でしょ、ねえどうして普通にしてられるんですかと。
 
私は、定期的に「読書」に没入しすぎて、人としてポンコツ以下になる。
なので、できるかぎり「ものすごく面白い」「長編小説」「分厚い本」に手を出さないように心がけるようにしているが、ものすごく心が弱ったときや、生活に疲れているときに「やらかしてしまう」ことがある。
 
先日も、動きすぎて身体の限界がきて倒れてしまい、身体を起こすことは苦痛だったが頭は動くので「ちょっとだけ」と既刊14冊ほどある長編小説に手を付けてしまったが最後、三日間、本を読む以外のことを放棄してしまった。
 
14冊は一日半で読み終わったのだが、そのあと、同作品のコミカライズ作品と同じ作者の別作品と、同じ掲載誌の関連作品と、と延々読み続けてしまったのだ。
かなり脳を稼働させているので、時折空腹に耐えられず、手あたり次第、加工せずにすむ食品を口にし、それすらなくなると、仕方なく台所に行って、生命活動が保てる最低限の食事をこしらえて食べ、すぐに布団に戻り寝転がって、iPadで続きを読む。
このような超絶集中読書状態に入ってしまうと、外部からの働きかけに全く反応しなくなる。身体から活字と一緒に意識が切り離されて、ページの向こうの異世界に旅立ってしまっているのだ。
もはやそこに理性はなく、電話は無視(というか、集中しすぎて聞こえない)、仕事もメールもぜんぶそっちのけで、脳と精神が満腹するまで読み尽くすか、いいかげん腕が痛くなってiPadを支えられなくなる、画面の見過ぎで目が開けられなくなる、脳の使い過ぎで偏頭痛にみまわれるなど、なんらかの身体的苦痛か、食材の枯渇、もしくは電話や玄関のチャイムなどの外部刺激(集中の切れ目に鳴れば、かろうじて気が付く)で我に返るまでは止まらない。
 
ネット環境のない昔であれば、続き物があるときは、図書館で全巻借りてこないとか、本屋で1・2巻までしか買わないなどの対処をとれば、連続して読みふけることができず、こんな酷いことにはならなかった。(まあ、続きが気になって、深夜2時まで開いている本屋にわざわざ買いに行ったり、図書館の閉館間際に閉まるシャッターに身体を突っ込んで、無理やり再オープンさせて続きを借りてきちゃったりはしたが)
しかし、最近は電子書籍なるもののせいで、続刊がその場でぽちっとすぐ購入できてしまうので、寝転がったまま、延々と読書を続けられてしまうのだ。恐ろしい時代になったものである。
 
そして、睡眠不足と、集中して酷使したために生じた頭痛とiPadの持ちすぎで腱鞘炎になった腕と寝転がりすぎて痛くなった背中というボロボロの身体と、ありえないほどの精神的満足感につつまれて、日常生活に立ち返ると、恐ろしいばかりの未読メールの山、うっかり来ちゃった新規仕事依頼への返信催促。迫る締め切り。バイトの依頼、たまった家事など、私が現実逃避して遊んでいたツケが山のように待っているのだった。
控えめに言って地獄である。
 
何故こんな地獄が待っているとわかっているのに、やらかしてしまうのか。
もちろん、この行為がまぎれもない「快楽」だからである。
寝っ転がって活字を追うだけで、知らない知識、知らない世界、知らない考え方、みたこともない景色、感じたこともない感情がフルカラー音声付で鮮明に脳内に立ち現われる。歴史や異界を冒険し、ありとあらゆる生き物になりその生きざまを追体験する。
短時間に何百もの人生を追体験し、泣いたり笑ったりあらゆる感情がごった煮のように私の小さな身体を繰り返しめぐる。こんなに刺激的で興奮する快楽、他にちょっとない。
ゲームや映画も似た体験ができるが、ゲームは、経験値をあげる時間が面倒だったり、技術がないとクリアできないというイライラが伴うし、映画は情報量が過剰供給すぎて、私の想像の余地が狭まるのがイマイチなのだ。本はそこらへんの塩梅が程よくて良い。
 
そもそも、生まれてから活字を認識して以来、文章を読まずに過ごした日は、高熱で終日寝込んで意識がなかった時以外、一日たりともない。
読まないと生きられない身体になってしまっているようなのだ。
椎名誠の本で「もだえる活字中毒者地獄の味噌蔵」という「活字中毒者を更生させるため、活字から引き離して味噌蔵に閉じ込める話」があるのだが、今まで読んだ中で最高のホラーだった。同じことをやられたら、間違いなく活字に飢えて半日くらいで死ぬ。身体は死ななくても心がやられる。死亡回避の方法を真剣に考えた結果、指を食い破って血で床に文章を書いてそれを繰り返し読めば、死は回避できるかもしれないと妄想してみている。
かように私の活字への依存は深い。そして、面白い本さえあればどんな絶望もしのげる自信がある。本は希望であり絶望でもある
 
本は貨幣でやり取りされているので、さらに絶望を付加する事項がある。
没入期間中は、理性が吹っ飛んでいるので「読みたい」と思った瞬間、金額上限無視でiPad上でぽちっと購入してしまう。そんなことを72時間続けたらどうなるか。
通帳の残金が底をつくのである。
我に返ったときのもう一つの地獄。明日からの生活費がすっからかんという事態である。
 
そんなわけで、今、正気に立ち返ったのはいいが、明日のお米に不自由しているので、泣きながらバイトにいくところである。
 
読書やめたい。
でもやめられない。
生きていく限りこの苦悩と葛藤と快楽が続くのだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-10-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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