5年で百貨店出店 カフェクルゼのパンケーキの力で、幸せな社会を作りたい!~マクドナルドでの経験を活かして~
*この記事は、「取材・編集ライティング入門講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
取材・編集ライティング入門講座〜「あの人に頼みたい」と指名されるライターの共通点とは?取材・資料収集の基本/本音を引き出す質問力/課題提出&フィードバックで、前線で使える技術を身につけよう
記事:相澤綾子(Ayako Aizawa)(取材・編集ライティング入門講座)
TSUMUGU株式会社 代表取締役 佐藤香奈恵氏
千葉県市原市に本店を構える「CAFE KRUZE」は、心のこもったおもてなしパンケーキのお店。キッチンカーで2016年に販売開始してから、3年ほどで都内から1時間以上かけてくるお客さんが絶えない人気店となりました。5年目となる2020年に千葉そごうに出店、その後も、2021年には小田急デパート新宿店に「CAFE KRUZE」を、渋谷のヒカリエにも「クルゼスタンド」をオープンしました。最近では、市内の本店を移転し再オープン、工場兼新店舗も準備中です。
人気店の秘密を探るため、マクドナルドでの勤務を経て起業にチャレンジした佐藤氏から、仕事に対する姿勢やスタッフに対する思いを伺いました。
・これまでの佐藤さんのこと、カフェクルゼのことを教えてください。
小さいころからお菓子作りが大好きで、将来の夢はケーキ屋さんになることでした。幼稚園の頃からキットを使って水まんじゅうを作ったり、7,8歳の頃からシフォンケーキを焼いたりしていました。シンクに水滴一つ残らないくらい、片付けまできっちりやるのが条件でした。母は私が作ったケーキについて、「おいしいね」か、「またつくってみれば」しか言わずに、見守ってくれました。お菓子作りを通じて、やりたいことができる、でもそのためにはやらなければいけないこともある、ということを身につけました。
母が働いていたこともあり、働くことは私にとってごく自然なことでした。15歳から26歳までマクドナルドに勤務し、商売の楽しさを実感しました。けれども、やりたいことをやるには、自分で起業するしかないと考えたことから、退職を選びました。
その後、オークションで移動販売車を偶然見かけたのをきっかけに、土日にキッチンカーでパンケーキを焼いて売ることから始めてみました。最初はこんなに働いても、これしか収入が得られないのか、と愕然としました。半年くらいはそのような状況が続きましたがそれでも続け、徐々に売り上げを伸ばすことができました。
仕込みをする場所、そして、お客様にいつでもパンケーキが食べられる場所を提供したくて、生まれ育った青葉台に店舗をオープンしました。たくさんのお客さんが来てくれましたが、注文を受けてから一枚一枚丁寧に焼くため、満席で断念してお帰りになるお客様もいらっしゃいました。何とかできないか、と考え、テイクアウトしていただけるパンケーキデサンドを開発しました。ふわふわなまま冷やすことでしっとりとした食感が生まれます。これがきっかけとなり、千葉そごうでの店舗オープン、また都内でも小田急デパート新宿店と、渋谷ヒカリエにも店舗をオープンしました。
・マクドナルドでの経験で、一番学んだことは何ですか?
最初は高校の先輩に誘われて、アルバイトを始めましたが、まさに「社会の洗礼」を受けました。緊張して話せない、笑えないし、怒られる。お客さんにハンバーガーを投げられたこともありました。そんな辛い思いをして、時給800円程度。それまでお小遣いを当然のようにもらっていたのが、お金を稼ぐことがどんなに大変なことかを知りました。
でも諦めずにバイトを続け、他のスタッフが発注ミスした商品をおススメしたり、頻繁に苦情を言ってくるお客さんに対応できるようになったりしました。
出産を経て専業主婦だった時期もありましたが、22歳の時にシングルになりました。お金の不安がある中で、両親に言われたのが、「お金は出さないが、子どもたちが将来大学に行きたければ行けるような資金を持つために、とにかくキャリアを作ることだけを考えなさい。そのために子どもを預けなければいけないのなら、子どもの面倒は全て自分たちが見るから」ということでした。
市役所で児童扶養手当の手続きをしたところ、当時は支給月が年3回で、4ケ月に1回しか振り込まれないことになっていました。それを知らず、申請書が受理されたのになぜ振り込まれないのかと衝撃で、ショックと不安で泣いていました。その時、絶対に2年以内に所得制限で手当を切られるまでになってみせる、と心に決めました。ずっとアルバイトでよいと思っていましたが、マクドナルドの正社員となり、1年半で所得制限を超える収入が得られるようになりました。
マクドナルドには、女性管理職登用の制度もあり、私も店長として責任を持たされました。一時期は80人以上の部下を持つ時期もありました。その中で、人の管理、お金の管理、進捗管理など、ビジネスに関わるあらゆることを学びました。
マクドナルドで働いていた期間、仕事とプライベートの両方の経験から、うまくいかない時が続いても、頑張っていればそれを乗り越えらえるということを実体験できました。
・マクドナルドでの経験は、現在の会社のマネジメントで、どのように活かしていますか?
私の会社は女性が多く、むしろ男性スタッフの方が少ないのですが、優秀な女性はたくさんいます。また、歴史の浅い会社なので、社歴の長いスタッフを見ながら自分自身のキャリアプランを描くといったことが難しい状況です。その代わりに、プライベートのことも訊きながら、それぞれの働き方を一緒に考えています。例えば、今も時短の社員が3人いますが、ゼロベースで、自分にできることは何かという考え方で、仕事に取り組んでいます。家庭のこともしながら、短い勤務時間の中で成果を出してくれています。
これまでに何人か、少し責任を持つ立場になってもらおうとすると、「家庭でこんなことがあって」と断ってしまう方などもいました。家庭の問題が偶然重なったとは、思えないのです。男性で「子どもが」という理由で、仕事を減らしてもらう人がそれほど多いとは思えません。大変な時期を頑張って乗り越えて、稼ぐ力やキャリアを身につけることができれば、大きな自信につながるはずと思うのですが、まだなかなか、その実体験をしてもらう、ということは難しいです。
こうした経験をしてもらいたいと思うのは、本人のためだけではなくて、子育てにも生かせるのではないかと考えているからです。
今の日本は、男性が働き過ぎの傾向があり、子育てを女性が主に担わなければいけないのが現実です。母親が苦しい時をもがいて乗り越えた経験があれば、子育ての中でその生き方を自然に伝えることができて、子どもがお金を稼ぐことの上に夢を描くことができるのではないか、そして、若いうちからやりたいことにチャレンジしようという人が増えていくのではないかと思います。ケーキ屋さんになりたいという夢を持っていたとしても稼ぐことの上にその夢があれば、進路を決めるときから、普通高校ではなく商業科があるところに行くとか、その後は製菓の専門学校を選ぼうかとか、もっと具体的に考えられます。逆に、子どもに長く関わる母親が、稼ぐ力を身につける機会が少なかったとしたら、子どもたちは自分のキャリアを考えるのが難しくなると思います。何となく大学に行って、就職して初めて社会の洗礼を受けて、そこから自分の人生を考えるので、中高年になって初めてやりたいことを見つける人も出てくるのではないかと思います。
もちろん、色んな考え方があるとは思いますが、女性だから家の中のことを中心に考えないと、という空気感に流されず、自分自身で選択できるようになればよいと思います。
・特に女性に活躍してもらいたいという思いを感じますが、女性のスキルはどんなところにあると思いますか。
女性は周りを見ながら進める力、視野の広さがあると思います。また同時に複数の物事を勧められるマルチプレイヤーなところがあります。
相手の気持ちになって仕事ができるところも素晴らしいです。例えば何か成果を上げたとしても、どうしても男性は狩る役割を担ってきたことから、自分の手柄にしたくなってしまう傾向があると思います。けれど女性は、チームのこと、まち全体のことをみて、そのために何ができるかということを考えられると感じています。
けれど現実の世界は、女性は結婚して子育てして、子どもや孫の面倒を見るのが幸せ、という価値観がまだ強く、家の中のことは女性がやらなければいけない、という空気感があります。私も専業主婦を経験したことがありますが、子どもの世話をしながら家事をするのはとても大変でした。しかもフィードバックもない、できて当たり前、という雰囲気があるのは残念です。
こうした女性の力を家庭の中だけでなく、家庭の外でも活用できたら、もっと社会が良くなると思います。
・これからのことを教えてください。
私もマクドナルドから学んだことの一つですが、仕事の意義をその人自身の言葉で説明できるような、そういう人材になってもらいたいと考えています。パンケーキを売ること、そのものだけではなく、売るまでのプロセスと、お客様に再来店してもらうためにはどうすればよいか。そのために私は10のうちの1の意見を伝えて、残りの9は自分で考えてもらいたいのです。失敗を恐れず、むしろ失敗して、それでももがいて続けて、そこから成功体験をつかみ取ってもらいたい、そして違う景色を見たいという気持ちになってもらいたいです。人を育てるということが、今の最大のテーマですね。
私自身も責任感をエネルギーに変えて、毎日、富士山を登山しているような、苦しくても登らなければという気持ちでいます。ですが、起業の時からずっとサポートしてくれた人たち、お客様たちに、精神的に支えられていると感じています。商売は、自分の店のことばかり考えていたら、うまくいかないと思います。周辺の店舗と連携したり、まち全体のことをにも意識を向けていけば、後から結果がついてくるとともに、最大の社会貢献になると考えています。
パンケーキを通じて、作る人も食べる人も、関わる人みんなを幸せにできるような会社にしていきたいです。
・取材を終えて
まだ30代の佐藤さん、カフェクルゼの先も見据えているようで、自分が引退して他のことをやっても続いていくような会社にしたいと話してくれました。女性は、チームのこと、まち全体のことをみて、そのために何ができるかということを考えられるとおっしゃってましたが、まさに佐藤さんご自身がそのような方だと思いました。
佐藤さん、本日はありがとうございました。
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