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16時間絶食の好転反応


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記事:神宮字 貢(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「もの凄く痩せるらしいよ」
 
僕のこの言葉に、妻はコーヒーをすすりながら、無茶苦茶前のめりで聞いていた。彼女の好奇心を十分刺激したようだ。
 
「どうやってやるの?」 僕は妻に知っている事を得意げに教え始めた。
 
 
 
16時間の絶食に関して、初めて聞いたのは、実は、数ヶ月前のNHKの番組だった。
 
早速、アマゾンで一番高評価の関連本を購入し、早速空いている時間を使って解説書を読んでみた。
 
この本によれば、一日のうち16時間以上の空腹でいると、体内が飢餓モードに入り、細胞が活性化され、身体に様々な良い効果があるらしい。
 
「おーっ」僕はちょっと感動をした。妻に説明をして、一緒に始めてみようと思ったのだ。
 
 
 
 
「オートファジーが、身体を活性化させるんだよ」昔から、さも知っていたかの様に妻に伝えた。
 
端から見たら、自分しか知らない秘密を勿体ぶって披露するかの様にも見えたかもしれない。
 
「中性脂肪などを分解して……」
 
「エネルギーにするケトン体代謝に……」。
 
そんな、覚え立ての暗号の様な言葉を並べながら、早10分程度経った頃、この話に関心を持っていた妻は、明らかに興味を失っていた。脇にあった携帯電話をさわり始めている。
 
付け焼き刃感のたっぷりだった説得はやはり上手くいかなかった。
結局、僕が試しに2週間程チャレンジしてみて、良かったら妻もやってみるという形になった。
 
16時間をどの様に捻出するか、妻にアドバイスを聞いてみた。やはり、朝食を抜く事。これが、一番都合が良いようだ。夜8時から翌日の12時まで時間を空ければ16時間。朝食をたまに抜いていたし、全然難しくないはずだと考えていた
 
僕は未だ始めていないのにも関わらず実は既に少しワクワクしていた。自分に新しい脳力が見つかり、覚醒でも既にしているかのような気分になっていた。
 
多分、その理由の一つに、“オートファジー”という言葉の存在だろう。これは、詰まるところ、体の細胞が分解する機能の事らしい。何だか妙に自分のツボにはまる。
 
まるで、ジャンプ漫画に出てくるキャラクターの新技の名前の様だ。
 
「オートファジーを発動させる」そんな魅力的な言葉の響きに、僕は完全に中二病に罹っていた。なんだか、笑いがこみ上げていた。
 
 
翌日から、僕は16時間絶食を開始する事にした。
 
朝食時、妻と子供がテーブルで食事をしているのを横目で見ながら、僕は瞑想をしていた。
 
食事時間中は瞑想をすることで、食欲という煩悩を抑えるという作戦だ。ヒーリングミュージックをヘッドホンで聴きながら集中する。我ながら名案だと自画自賛をしてみた。
 
「なんて事ない」無事初日をやり過ごした時の感想だ。自分の中のオートファジーを想像しながら、そう思った。これだったら、続けられるのは難しくなさそうだ。
 
2日目が終わり、3日目に入った頃に、身体の変化に気がつく事があった。それは食欲が異様に増した事だった。まるでスイッチが入ったかの様に、食べ始めると止まらない。まるで突然の変化に悲鳴を上げた身体が、少しでも取りこぼしの無い様に吸収を開始したような感覚だった。他には吐き気と軽い頭痛が頻繁に起こる様になった事だ。当初は脱水症状かと思っていたが、確認をしたところ、“好転反応”と呼ばれる物でポジティブな反応との事も分かった。
 
ただ、このせいで16時間絶食の難易度は飛躍的に上がっていた。僕はブラックコーヒーを飲むことで耐えていた。
 
「オートファジー、オートファジー」念仏のように唱えてみる。
 
「1週間もすれば、完全に慣れるだろう」と思っていたが、全然慣れていない。
 
逆に「食べられる時間には何を食べよう」と毎日考える事がルーチンとなっていた。
 
瞑想中でも邪念の様にあがってくる。人生の中で、ここまで食事の事を考える事は無かったかもしれないなんて考えていた。
 
 
 
その日の朝も瞑想をしながら、そんな邪念と戦っていたが、妻がデパートに用事があるため、外出する事にした。
 
買い物を終え、デパートのレストラン街を歩いていると、食べ放題しゃぶしゃぶ店の看板が目に入った。店内から、活気の良い雰囲気が伝わってくる。
 
食欲が、わき上がる。
 
「ダメだ、耐えられない」
 
腕時計を見ると、11時45分。お昼までもうすぐだ。僕は妻を説得し、そのしゃぶしゃぶ店に駆け込んだ。
 
お寿司までオプションで注文してしまい、僕らは制限時間一杯食事を楽しんだ。たかだか、食べ放題しゃぶしゃぶで、ここまで堪能できた事は今までなかった。最近のなかで最高の体験だ。余りに食べ過ぎた為、お腹が空かず、夕食が入らなかった程だ。
 
翌朝、僕はいつもの様に突然の吐き気と頭痛で酷く苦しんでいた。
 
「これも好転反応か……」
 
今日の奴は結構きつかった。
 
”好転反応“というキーワードが、何だか、自分が苦しみながら覚醒を迎える前の最終段階の入っている様な感覚という気分に酔っていた。
 
「好転反応、つらいなぁ」
 
妻の様子を見に行くと、彼女は顔を青ざめてトイレに駆け込んでいた。
 
腹痛と吐き気が酷いそうだ。
 
そう、僕らは食中毒に罹っていたのだ。
 
その日をもって、16時間絶食は止める事にした。
 
 
 
 
***
 
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2022-10-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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