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彼の人生はどんな小説よりも面白い


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:飯髙裕子(ライティング実践教室)
 
 
「飯髙さんはいいなぁ」
何が良いのか私にはよくわからないが、彼はよくそう言う。
 
彼は、今は酸素カプセルという健康器具で心と体の調子を整えるサロンのオーナーをしているHさんだ。
4年ほど前からのお付き合いである。
彼は、一見なかなか強面の目力のある印象なのだが、その口から流れ出る言葉はとても柔らかく流暢で、ついつい引き込まれてしまう魅力がある。
そして、その内容は、普通の人では、およそ経験することのないような驚くほどの経歴で満たされている。
 
若いころからいろいろな仕事をしていたらしくそれも自分で事業を経営していたというのがほとんどのようである。
マリンスポーツにはまり、ダイビングのインストラクターのトップまで行き、ライセンス取得協会のマニュアルを作成したとか、当然船舶免許も取り海外でインストラクターとして活躍したり、自分も楽しんだりとほとんどのマリンスポーツは経験したという。
 
そうかと思えば、お笑いの世界で芸人を取りまとめるプロデュースの仕事をしていたこともあるという。脚本を書いていたらしいので、芸人の裏事情もよく知っている。
そんな話はなかなか聞けるものではない。
どんな話もウィットに富み、相手の心をしっかりとつかむ話術はそんなところで養われたのかもしれない。
 
不動産関係や、水商売関連の仕事では、裏で動く暴力団がらみの組を取り仕切ったりもしていたという話には驚きを隠せなかった。
かといって、彼は犯罪に手を染めることなど決してなかったという。
彼の話を一つ一つまとめたら、本がどれだけ書けるだろうと想像するだけでもおもしろい。
 
そんな彼の話の中でも、彼の人としての軸というか揺らぐことのない信念が感じられたものがある。
 
彼は、20代の頃、自分で宝石を仕入れ、水商売の女性たちに販売していた時期があった。もちろん品物の品質は正当なもので、仕入れて店舗に出すまでの中間マージンがないから、市販のものより安く販売できたことで、かなり売れていたらしい。
しかしやはりそういう世界では、縄張り意識というものがあり、どうもある組の組合員に目をつけられたらしかった。
 
ある日、彼は商売を終えて帰ろうとしたときに、数人の男たちに取り囲まれた。
いきなり殴りかかられ、多勢に無勢で、ぼこぼこにされたという。
肋骨にひびが入り、歯が折れ、やっとの思いで、車にたどり着き病院まで何とか運転していったらしい。けれど、そのあと1か月は動くことができなかった。
彼はどうしてもその事態に納得できなかった。
最初から、そのような警告もなく、いきなりの暴力に心底腹が立ったのだ。
体が回復すると、彼は単身その組に乗り込むことにした。
 
そのビルの入り口まで行くと、不思議なことに誰もいなかったので、エレベーターで上に上がった。
事務所の入り口を開けると、中に年配の組長らしき人が座っていた。
「なんだ、お前、どこからはいってきた」それに対して彼は
「下の入り口だよ。誰もいなかったぜ」
それを聞いた組長は顔色を変え、すぐに手下たちを呼び戻した。
 
その中には、彼を取り囲んだ男たちの顔ももちろん入っていた。
彼は今にも殴りかかろうとする男たちを尻目に、組長に自分のされたことを話し、商売をするのにこんな暴挙が許されるのかと強く言い放った。
その組長は、最後まで話を聞くと「申し訳ない事をした」と彼に言ったらしい。
そして「ここに一人で来るとはいい度胸だな。どうだ、うちの組に入らないか?」とも。
 
彼は、丁重にお断りしたらしいが、その態度に組長は彼のことをいたく気に入り彼の扱っていた商品の中の高級な時計を注文したという。
彼は、快くそれを引き受け、最高の商品を準備したというのだ。
ここまでの話は決して作り話ではなく、実話である。
 
彼の人間としての在り方に揺らぎない信念と相手によって態度を変えない実直さが垣間見えて何とも言えない清々しさを感じるのだ。
 
もちろんいろいろやんちゃなことは数多くやってきたというのだが、そんな些細なことは少しも問題にならないくらいの人間の器の大きさを感じるのは私だけだろうか?
 
会社経営の絶頂期に、税金がらみで、資産を失った彼は、それまでのように手広く事業を展開することはやめたらしいが、天性の実業家の血は絶えることがなく、彼の頭の中にはいろいろな構想が絶えず浮かんでいるようだ。
今のサロンでも、もう一人の共同経営者と週に何日かを交代でやっているのだが、そこにくるお客たちは、健康目的であることはもちろんなのだが、彼と話をしたくてやってくる人たちも少なくない。
それは、自分の話に的確なアドバイスをもらえることに期待する人、または彼の面白おかしく語られる一般人が経験できないような話を聞きたい人とさまざまである。
ただ、一つ確かなことは、彼がとても人情に厚く、人としてとてつもない魅力を持っているということだ。
 
彼が私に「飯髙さんはいいなぁ」というのは、あまりにも平凡な私の人生に彼の持っていない何かがあるのかもしれないなという気がした。
それはきっと「隣の芝生は青い」という類のものに違いないと私は思っている。
 
 
 
 
***
 
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2022-10-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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