「ぶらぶら歩く」にができるようになった話
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:菅原裕恵(ライティング・ゼミ10月コース)
せっかちである。
昔から早口だとよく言われるし、最近も入社してきたインターンに「もっとほんわかしてる方かと思ってました」と反応に困るコメントをもらった。
社会人生活も10年を超えた今はまだ落ち着いた方で、大学生の頃はバイトを3つ掛け持ちしていたし、スケジュール帳には毎分、毎秒を争うかのように予定がびっしりと書き込まれていた。
白い枠を残すのは、なんだか「もったいない」気がして。
もちろん電車に乗るときは乗換案内通りの最短ルート、エスカレーターを駆け上がり最短で目的地を目指す、そんな貪欲で忙しない生活を送っていた。
せっかちなおかげで、計画をたて効率よく動くので、旅行に行けばガイドブックに載っている場所は網羅できたし、その分たくさんの経験もしてきた。
そんな私は散歩ができなかった。
そもそも散歩とは何か。
Webで検索すれば、
「散歩:[名](スル)気晴らしや健康などのために、ぶらぶら歩くこと。散策」
とある。
ぶらぶら歩く。なんとなく楽しそうで、ゆるい響きだ。いいな、と思う。
だが同時に、自転車にでも乗って、サーっと移動すれば5倍は早く目的地に着きそうだ、と思ってしまう。
散歩は「ぶらぶら歩くこと」そのものが目的らしいので、それはもう「散歩」ではなく「移動」になってしまうのだけれど。
実際、目的地も決めずただ歩くといってもどっちへ歩いたらいいのか戸惑う。いざ歩き出しても手持ち無沙汰で、眠れない夜のようにあれこれと心配事が頭を巡っては消えを繰り返し、世の散歩好きが口々に言うような「スッキリする」「リフレッシュ」というようなポジティブな感覚は全くもって得られない。
旅先でも、方向音痴であることもあり、地図とにらめっこしながらルートを辿るばかりで「方向だけ決めて路地裏を歩いてみる」という旅の醍醐味より、道に迷ってホテルに帰れなくなる心配ばかりしていた。
そんな「ぶらぶら歩く」に憧れつつも楽しめなかった私が、最近はよく「ぶらぶら」している。
きっかけは息子の誕生だった。
妊娠中も海外出張や旅行に勤しみ、ギリギリまで産休を取らず「出産しても出かけるから! なんとかなるでしょ!」と豪語していたものの、当然ながら生まれたての第一子の世話と睡眠不足と格闘している間は予定など立てられないし、時間があれば眠りたかった。
そうこうしているうちに気を遣ってか独身の友達からのお誘いも減り、わたしの予定表は真っ白になっていった。
もうすぐ4歳になる息子は忙しない私に似ず、とてもマイペースだ。
ひとり遊びが好きで、怖がりだが好奇心が強く、興味があるものには恐るべき集中力で関心を注ぐ。
この世に出てきてまだ4年たらず、彼にはまだまだこの世の全てが新鮮に映っているようだ。
雨が降れば側溝から聞こえる雫の音に耳を澄まし、涼しくなって色づきはじめた落ち葉を拾い集め、「今日のお月さまはまん丸だね!」と嬉しそうにつぶやく。
一緒に歩いているうちに忘れていた野花の名前を思い出し、知らない虫の名前を調べ、川沿いに掘られたモグラの巣を見ては、台風で増水したらモグラは息ができるのかなあなどと取り留めなく話す。
どれも、目の前から消えたら瞬きの間に関心が失われてしまうような些細なことばかりだ。
つられて「お月さま、今日はもう痩せちゃったね」「橋のところに蝶のさなぎがいたよ」などとやっているうちに、「ぶらぶら歩く」は少しずつ小さな発見と、それを共有できる喜びに満ちた体験になり、私にとっての楽しみになっていった。
子どもとの暮らしは、否応なしに「今」に縛られる。
今、機嫌が良さそうか
今、体調が良さそうか
今、何に心を惹かれているか
目の前の子どもと、その「今」に応じることの連続で暮らしが紡がれていく。
昔のように「14時まではお昼寝、起きたら15分でお着替えをしてお出かけ、友人と1時間お茶をして、16時から表参道に移動して……」なんて予定は立てられない。
事前にどれだけばっちり計画していても、あっという間に覆ってしまう。
散歩はまさに、その目の前の「今」をつぶさに見つめているのだ。
関心を持って見つめなければあっという間に通り過ぎてしまう、五感に訴えるあれこれを拾い上げる行為なのだと思う。だから、行き先はどこでもいいのだ。
今この瞬間を目に映して、匂いや手触りを感じて、ただそれを味わう。
感じられなかったものが感じられるようになる。それはとても豊かなことに思える。
「ぶらぶら歩く」はスケジュール帳には書けない。
でもその時間が豊かであることを今は知っている。
***
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