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会社の飲み会で話がつまらないと思われたくなくて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:神田 銀平(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「なんか聞いた話によると、あれって大麻より気持ちがいいらしいですよ」
「え? なにそれ、もっと詳しく教えて!」
 
私が着席したこの4人テーブルには、興奮と困惑、そしてちょっと悪い空気が漂っていた。
 
その日、今年度に入って初めての会社の親睦会があった。仕事終わりの18時30分に各自お店へ集合し、そこから飲み会が始まるという、普通の飲み会だ。
 
私の会社の良くないところなのだが、今日は仕事終わりに飲み会がある。となってもみんなギリギリまで粘って仕事をしてしまう。早々に切り上げて、ちょっと早めに始めちゃう? なんてノリになったとしても、今日くらいは怒られないと思うのだが。
 
そうなると何が困るのかというと、全員でお店に入っていけば、飲み会で嫌な思いをしない席、平和が保たれる席にどさくさに紛れて滑り込むことが出来るのだが、一人ずつや少人数で少しずつ人が集まってくると、どうしても席に偏りが出て、なんとも言えない陣地が出来上がる。分かりやすく言うと、仲のいい人同士で集まりやすいということだ。
 
私がお店に着いた時の状況を簡単に説明すると、まず奥の方に女性が6人くらい固まっている、そして一番手前には、喫煙席ということで男性が7人ほど着席しており、真ん中のテーブルがスカスカだった。話を聞くと女性陣から離れたところに喫煙席を設けた。というのだが、このままだと少しまずい気がする。しかし、女性陣にもう少し散らばってもらうという提案もあるが、そんな合コンみたいな提案がここでできるはずもなく、というか今の時代らしく、楽しむことが目的だ。と考えればこの形もある意味正しいと言える。しかし、どこに座ればいいのものか非常に迷ってしまった。
 
私がどうしようかと悩んでいたところに上司が来たので「今空いてる席で一番上座はこちらです」と言って席を埋め、とりあえず上司と喫煙者たちの間のテーブルに着席した。
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4人座れる四角いテーブルが横方向に4つ並んでいる部屋で、私のテーブルは少し変わった人員構成になった。まず私が着席しており、右隣に口数の少ない後輩U君、正面にはカンボジア出身の日本語が達者な男性Pさん、斜め向かいには日本語勉強中のインド人男性R君が座っていた。彼らは全員私の後輩なのだが、ここで私はある問題に直面する。
 
このメンバーの私生活が全然分からなくて、共通の話題が全くと言っていいほど見つからなかった。会社の飲み会だから仕事の話をすればいいじゃないか。と思う人もいるだろう。しかしどうだろうか、テーブルで一番先輩の私が仕事について話し始めたら、ほかの皆は「あ、仕事の話をしなきゃいけないんだ」と思ってしまうかもしれない。仕事の話の延長線上には愚痴が定番だが、ここは部署全員が揃っているので、うかつなことは口にできない。そうして当たり障りのない仕事の話題が2時間続いたら後輩たちは一体どんな気持ちになるだろうか。そんなお通夜みたいな時間を過ごすわけにはいかない。私はなんとかして盛り上がる話題を探り始めた。
 
「普段の休日はどうやって過ごしているか、趣味とかでオススメがあったら教えてほしいんですけど」と私が口にしたときである。
 
右隣の後輩U君が話に乗ってきた。
頼む。外国人でも共感できるタイプの趣味であってくれ!
 
「そういえば、最近あれ流行ってるじゃないですか、サウナで整うっていうやつ、久しくサウナとか行ってなかったんですけど、この前行ったらハマっちゃって、水風呂のあとに空気浴って言って10分くらい休憩するんですけど、そこで整うって感覚がすごく良くて、なんか聞いた話によると、あれって大麻より気持ちがいいらしいですよ」
 
私の目の前のカンボジア人Pさんは「あー、そうらしいですね、私も聞いたことあります」と共感していた。
 
しかし、私の斜め向かいに座るインド人のR君は「トトノウ?」と言って頭の上に?マークが浮かんでいた。
 
サウナに詳しくない私(水風呂は嫌い)は、このくらいの話題が丁度いいかもしれないと思って続きを促した。
「え? なにそれ、もっと詳しく教えて!」
 
整うという言葉にピンと来てないR君に、Pさんが英語でぺらぺらと補足をし始めた。
 
私は全くと言っていいほど英語が出来ないので、何かたくさん喋ってるなと思いながら、グラスを口に運んでいた時にある単語が耳に入ってきた。
 
おそらく「整うというのは大麻よりも気持ちがいい」という部分だろう。律儀なPさんはR君にちゃんと伝えようと、そこも翻訳していた。
 
するとR君が思わぬことを口にした。
「Pさん、ドラッグ使ったことあるですか?」
 
危うく酒を吹き出しそうになったが何とかこらえて、翻訳って難しいんだなぁとぼんやり眺めていた。
 
そして、普通に訂正すればいいものをPさんは何やらめちゃくちゃ焦りながら訂正し始めた。相変わらず英語だが、私は決してドラッグには手を出していない。みたいなことを必死に説明している。
 
必死過ぎると逆に怪しいというのに、本人は気づいていないようだった。
「大麻より気持ちがいいらしい」と変な例えを出した後輩は我関せずという感じで焼き鳥を食べていた。仕事はきちんとこなすのに、ひどいやつである。
 
助け船を出そうかと思ったのだが、まぁつまんない飲み会より面白いか。と思って、私は場を荒らすことにした。
 
「R君落ち着いて、そういうことじゃないよ」と。
Pさんは私が誤解を解いてくれると思ったのだろう、こちらを向いた。
 
そして私は口にするのである。
「R君、大麻は合法な国もあるから、日本じゃなければ大丈夫だよ」と。
 
Pさんが私の方を向いて絶句していた。
「違う、そうじゃないよ!」
 
更に慌てふためいていたPさんをよそに、私が安心して笑っているのを見たからR君も感づいたのだろう。ニヤッと笑って、「Pさん大丈夫、僕は誰にも言わないよ」と私の悪ノリに便乗してきた。
 
散々楽しんだ最後に、Pさんごめんね。と謝っても「みんなひどいですよ」と不満を口にしていたが、終始そんなくだらない話を続けていたおかげで、Pさんも最後にはとても楽しそうだったので、なんだかんだ楽しい飲み会になった。
 
最初は外国人2人に無口な後輩が揃ったので、何の話題が正解なんだ。と悩んだが、どうせその場を楽しむ飲み会なのだからと、みんなの話を面白おかしく深堀しつつ時間が過ぎれば、それが正解なのだと改めて感じた。あー、仕事の話を口にしなくて良かった。

 
 
 
 
***
 
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2022-10-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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