白雪姫なら、別の意味で失神しそうなりんご
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:田盛稚佳子(ライティング実践教室)
つい先日「ブドウ愛が止まらない」と書いたはずなのに、あろうことか私は浮気をしてしまった。ほんの出来心だった。
その相手は……りんごである。
りんご愛がムクムクと湧いてくる出来事があったので、ぜひ紹介したい。
月曜から金曜までフルタイムで働いていると、途中でダルいなぁと思うことはないだろうか。
すごく頑張ったように思えても、ふとカレンダーを見ると「なんだ、まだ水曜日か……」と、がっかりする。
あと半分をどうやって乗り切るかを考えながらランチをするのが私の日常だ。
10月のある日、いつものようにランチタイムにスマホを眺めていると、インスタグラムにお気に入りのスーパーの投稿がアップされていた。
「新品種のりんごが入荷しています!」
オムライスを頬張りながら見ていた私は、思わず手を止め、食い入るようにその投稿を見た。
いや、正確には「見惚れてしまった」のである。
美しい赤というか紅色をしたそのりんごは、小ぶりでつつましやかに写っている。
半分に切られた果実の断面は、スマホで見ても明らかに白く滑らかな肌をしているのがわかった。東北美人なりんごと言ってもいいだろう。
しかも、その名前は「紅(べに)いわて」という。
初めて聞く名前だな、と思いつつ読み進めていく。
「シャキシャキの食感で、果汁もしっかりあり、甘みが強いりんごです。シャキシャキりんごがお好みの方に是非オススメの商品です」
その投稿を眺めているうちに、私の中で「のど自慢」の鐘が鳴った。
ドシラソ ドシラソ、ド・ミ・レ~。
「合格」をすっ飛ばして、すでに「今週のチャンピオン」である。
もうこれは、絶対食べるべきでしょ。というか、私のためのりんごでしょ!!
むっふー、と一気に鼻息が荒くなる。
しかし、一抹の不安がよぎった。
ちょっと待て、今日はまだ週の中日ではないか。週末まではあと3日もある。
それまでに果たして「紅いわて」が店頭に並んでいるだろうか。
もともと地元では人気のスーパーであるがゆえ、あっという間に完売するということも十分あり得る。
心配性かつ典型的A型の私は、早速そのスーパーにコメントを入れてみた。
「シャキシャキ系が好きなのですが、週末でもまだありますでしょうか……?」
すると、思いがけない返答が来た。
「こちらのりんごは市場になかなか出ないので、お取り置きしておきましょうか?」
なんと! りんごの取り置きをお願いする日が来ようとは!!
46年の人生の中で考えもしないことだった。
少し悩んで、自宅用と知人へのプレゼント用に5個、土曜日には伺いますというコメントと共にお願いをした。
不思議なことに「紅いわて」を食べられることが確定してからというもの、恐ろしいほど仕事がサクサクと進むようになった。
あのりんごがスーパーで私を待っていると思うと、ワクワクして1分でも早く仕事を終わらせたくなってしまうのである。
そして迎えた週末。
スーパーの青果コーナーでおずおずと、
「あのー、先日インスタグラムで紅いわての取り置きを……」
と声をかけると、間髪入れずに、
「ああ! お待ちしてました。このたびはありがとうございます!!」
とはじける笑顔で店員さんが対応してくださった。
夕方で店内も忙しい時間帯だったはずだが、そんなことを微塵も感じさせない接客態度に私は感激した。
またわずか5個という少ない個数にも関わらず、丁寧に梱包までしてくださっていた。
そして、そっと渡してくださる所作に、このスーパーが商品とお客さんを本当に大切にしていることがよくわかった。
「ありがとうございます。帰ってから早速いただきます!」
私は清々しい気持ちでスーパーを後にした。
夕飯前ではあったが、1秒でも早く食べてみたくなった私はキッチンに向かった。
小ぶりだが、ずっしりとくる重みが心地よい。
包丁を入れた瞬間、果実のほどよい硬さが手に伝わる。
「あ、これ、絶対当たりだわ」
あの投稿で見た通りの白い滑らかな肌が目の前に現れ、ドキドキする。
そして、皮つきのまま頬張ると……。
シャキッ! シャキッ! ジュワワ。
想像以上の歯ごたえと果汁がやって来た。なに、このりんご!
香りは決して強くないが、糖度が14~15度と高く、ほのかな酸味もあり最後の一口までシャキシャキなのだ。活きのいいりんごである。
今まで「ふじ」が好きだったが、この「紅いわて」が「今週のチャンピオン」どころか「年間チャンピオン」になってしまった。
一般的にりんごと聞いてまず思い浮かべるのは青森県である。
「紅いわて」は岩手県オリジナルの品種らしい。全国3位のりんごの生産量を誇る岩手県で、この品種は2009年に商標登録された。
他のりんごに比べてなぜこんなに濃い赤色なのかを調べてみると、樹木を3m未満に保っているため、生産者による手入れが隅々まで行き届く。そして袋をかけずに育てることで太陽の光が果実の一つ一つにまんべんなく当たるため、美しい赤色が出るのだという。
スーパーに来る以前から大切に育てられたりんごであり、収穫量が限られているため、たくさん出回らないのだということがわかった。
ふと、あの白雪姫に「紅いわて」を食べさせたら、別の意味で失神するかもしれないと思った。一方で、あまりの食感と甘さにもう一度食べたくなった白雪姫は、きっと王子が来る前に起きてしまうだろうから、物語の結末が変わってくることになる。これではロマンもへったくれもない。
子供たちの夢を壊してはいけないので、彼女にはやはりシナリオどおり毒りんごを召し上がっていただこう。
今回、愛するブドウを差し置いて浮気をしてしまったが、きっと私はこれからも美味しい果物を探し求めて、あのスーパーに通い続けることは間違いない。
***
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