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四十歳、もう無理は出来ないけどガッツが欲しい


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:吉田けい(ライティング実践教室)
 
 
四十歳になって一週間後の朝、目覚めると四十肩になっていた。
 
私の朝は、生活リズムが規則正しい娘に起こされて始まる。その日も娘がもぞもぞ動き出したのを抱き寄せようと左腕を伸ばしたら、肩の付け根から肘にかけて、ビリビリとした痛みが走り、手を引っ込めた。もう一度同じ動作をしても痛い。体を起こして、おそるおそる左腕を回してみると、上方向、あるいは後ろ方向に動かそうとすると激痛が走る。ぐるりと回すなんてとんでもない。それは夫や実母が日常動作で痛そうに顔をしかめる仕草とほとんど同じ角度だった。
 
「噓でしょ……」
 
夫も母も、四十歳はだいぶ前に通り過ぎ、肩を痛めたのは割と最近だった。五十肩だの六十肩だの呼び方はいろいろだが、痛そうにゆっくりと動く様子を見て、大変だね、それ持つよ、とちょっと若者気取ってみせていたのが、先週までの私だったはずだ。それが、誕生日を迎えた途端にこうなるとは。四十肩って、そんな額面通りに発動するもの? いちいち私の身体は律儀に出来ていて空気が読めない。勘弁してほしい。私は四十肩の先輩二人に効きそうなストレッチやリハビリの方法を習い、日中気が付けばずっと腕をぐるぐると回したり振り子のように振ったり、ゆっくりと動かしたりした。早く対処したおかげなのか、二日もすると痛みはなくなったが、それでも肩のあたりに何とも言えない違和感が残る。デスクワークの合間に、帰宅して荷物を下ろした時に、腕をぐるぐると回すのが習慣になりそうだ。
 
四十歳、なった途端にこれだ。去年末あたりからは耳の調子もすぐれず、睡眠不足になるとすぐに耳鳴りや痛みの症状となって表れる。無理の蓄積が生活に支障をきたすほどの痛みとなって顕現するとなると、そうそう無理もしてられない。たっぷりの睡眠とほどほどの運動、自分の身体をいたわらなければいけない年齢になったのだと実感させられた。
 
仮に八十歳まで生きるとして、これまでの人生と同じ時間のようで、実はそれよりも少ない時間しか残されていない、ということに嫌でも気が付かされる。十代、受験勉強をもっと頑張ればよかった。二十代、新卒の就職先をもっと真剣に選べばよかった。三十代、キャリアに活かせるような知識や実績を意識して積み重ねればよかった。もう若者や若輩にカテゴライズされなくなった我が身を省みると、この先の長いようで長くない人生を充実させるために、後悔しないために、今が頑張りどころなのだ、と気が引き締まる思いだ。私はライティングを始めて、やっぱり書くことが好きだ、と再確認したばかりだ。若い頃にもっともっと書いておけばよかった、というほのかな後悔がずっと胸に渦巻いている。今のまま何も変わらず五十代、六十代になっても同じ気持ちでいるのは嫌だ。気を引き締めて、改めてライターズ倶楽部に参加した。
 
ライターズ倶楽部も在籍が長くなり、仲が良いと言えるような仲間が増えた。私と同じように結婚して夫がいて子供がいるような方も、自分の目標に向かって精力的に課題提出していた。作家になるために。フォトライターになるために。それぞれの目標を達成するべく、今の自分に出来ることを探して自発的に行動する姿は、傍目に見ていて格好良かった。一方の私はやれ耳が痛い、やれ肩が痛い、子供が寝ない、と、仕方ないねと言ってもらえそうな言い訳を並べて、最低限の課題を提出するのがやっとだ。そしてその人たちは、仕事とライターズ倶楽部の他にも、イベント運営だったり副業だったり、更にいろいろなことを手掛けている。どれも本気で、どれも楽しそうで、私にはないもので眩しい。
 
「目標に向かって頑張り続けられるの、本当にすごいと思う、そのガッツはどこから来るの」
 
ある日ある人とのメッセージのやりとりで、私はついそんなことを書いてしまった。文字のみのやりとりでは感情や表情までは読み取れない。気落ちしているのが伝わってしまうかな、と送ったことを後悔し始めた頃、「それは、あなたが四十で、私が四十五だからじゃない?」と返信がきた。
 
え、四十五だとそんなに頑張れるもの?
 
「逆だよ。四十では手広く出来ていたことが出来なくなってくるから、絞らざるを得ない。全部は出来ないなとなった時に、冷静に自分がやりたいことを振り返ったら、書きたい、ってなったから」
 
メッセージ越しに、彼女がニヤリと笑っている様子が脳裏に思い浮かぶような気がする。
 
「自分のエネルギーが十あったとして。三エネルギーぐらいのものを無理して四つ抱えて、十二のエネルギーを出していたら、無理で反動で動けなくなってさ。八くらいでやっていくとしたら、五を書くこと、他のことを残りの三で回せるように調整していこうと思っているの。そうすると、今まで三で書いていたのが五になるから、書くことに関する熱量は上がってるよね。四十の頃にやってたことはほとんど手放したんじゃないかなあ」
 
確かに。
彼女も無理が効かなくなってきた自分と向き合って、本当に大切にしたいものだけを残していったんだ。切り捨てるのが惜しいと思うようなこともあっただろう。けれど自分の気持ちや状況をしっかりと整理したからこそ、自分の本当にやりたいことに、あんなに全力投球出来るんだ。
 
それを今、四十歳になったばかりの私に教えてくれている。
五年かけて、本当にやりたいことに注力するようにすればいい、と示してくれている。
 
「本当だね、選択と集中だね」
 
私は何を選んで、何を切り捨てるのだろう。
五年かかっても、じっくり選んでいけばいい。
 
返信した言葉が、四十肩と耳鳴りで軋む身体に染み入るようだった。
 
 
 
 
***
 
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