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脳梗塞で倒れた父親の携帯電話の解約


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記事:井上 美幸(ライティング・ゼミ8月コース)
 
 
桜が綺麗な頃に父親が脳梗塞で倒れて緊急搬送された。脳梗塞の予兆は1~2週間前から出ていて家族でも心配していた。病院へ行くように勧めても仕事が忙しいと言って本人はまったく聞かなかった。
ある日、父親の会社の近くに住んでいる父の弟が心配で見に行ったら、青白い顔で倒れているのを発見してくれたのだ。
 
緊急搬送された病院には2週間入院して、その後はリハビリが出来る地域包括医療センターで2ヶ月間入院をした。
 
倒れる直前まで仕事をしていた父は、入院中もずっと仕事モードが抜けなくて、看護師さんから怒られても電話をする事をやめなかった。
もちろん病室での携帯電話は禁止なので、車いすで廊下まで連れていって貰って電話を掛けまくっていたそうだ。
看護師さんから電話についての相談があり、本人にも使用を控えるように伝えたのだが、認知症が進み、入院中におこる「せん妄」状態もあって、本人には理解をしてもらえなかった。「これから50万円の取引があるので迎えに来て欲しい」など事実に無い事を言ってあきれてしまった。
 
数日したら、父親の携帯料金の支払督促状が届いた。残高不足で引き落とせない事が分かると急におおごとになった。ちょっと待てよ、携帯代をこれから家族がずっと負担するのかと考えて家族で話し合った結果、解約しようとの話になった。ちょうどその時期に「要介護4」という重い介護認定が出たことも後押しになった。
 
解約するためには、まず本体を預かりたかったのだが、如何せんコロナ禍で面会謝絶の時期であった。東京でも一日の新規感染者がうなぎ登りであったので、入院病棟には絶対に入れなくて、ふだん東京で仕事をしている私としても病院に行くことにためらいがあった。
 
仕方が無いので、父の身分証明書、病院からの診断書、要介護認定書や請求書など、ありとあらゆる資料を持って、携帯ショップに直接相談した。
当然、本人が本体と一緒に手続きをするのが普通であるのだが、そこは店員さんに泣きついて、なんとか解約を進めたくれたのだ。
 
未払の料金と一緒に、機種本体代の分割料金が結構残っていて、想像以上に高かったが、仕方がなく娘の私が負担した。
そんな手続きを2時間ほどしていると、その間にも、認知症の親の携帯電話解約に来ている人が何組もいた。
そのうちの一人と隣同士に並んだので、「たいへんですね、うちも親の解約で来たんですよ」と話しかけてみた。
 
その男性は、90歳の母親の解約に来たのだが、息子といっても70歳手前の中老の男性で、自分もそろそろ介護が必要なんだよとぼやいていた。
母親が、携帯電話を隠してしまい、ずっと探し続けて一年経ってようやく箪笥の奥から見つけたそうだ。携帯電話と一緒に保険証が3枚、そしてエアコンのリモコンも出てきた。
そして、90歳の母親から委任状は貰えないと説明し、私と同じような手続きを隣同士仲良くしてもらった。
 
こんな経験をしている自分は本当に大変だと思って携帯ショップにいたら、世の中には高齢者となった親の携帯電話の解約に来る人の多さに驚いた。私だけではなかったのだ。
考えてみれば、4人に1人が65歳以上という超高齢化社会において、日本の高齢者の携帯電話の取扱については大きな社会問題なのではないだろうか。
 
高齢者といっても個人差は当然あるが、携帯電話の解約を自分がぼける前にやる人は稀なのではないだろうか。大方、代理で子供や兄弟などが代わりに手続きをする事が多いのではと思う。ただ、子供と疎遠な親はどうなるのか。
 
店員から聞いた話では、電話料金は相続人に負担義務が発生するそうだ。
本人が死亡した後、相続人が遺産放棄をしたら電話料金を支払う必要は無いが、遺産放棄の証明書を当然見せる必要があり、弁護士に依頼するような事であるので簡単な話ではないと思う。
また、資産が潤沢な親なら問題ないが、私の父親のように直ぐ残高不足になった場合はきつい。要介護となると、入院費や薬代やオムツ代など色々とかかる。年金や貯金がある親なら助かるが、うちの場合は父が倒れてすぐにマイナスに転じた。
 
父が倒れるちょっと前に1万円ぐらいする金運アップのパワーストーンのブレスレットを買って身に着けていたが、その効果はどこにいったのか。すごい勢いでお金が飛んでいく。
 
これからもますます高齢化が進み、親の携帯電話の解約問題が多くなると思う。
私はそんな日本の社会問題を身をもって経験したのだ。
 
 
 
 
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2022-10-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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