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私のプロポーズ大作戦 〜My Operation Love〜


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:井上遥(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
世の中には二種類の人間がいる。
プロポーズをバシッと決められる者と、そうでない者だ。
 
 
 
昨年の秋頃のことである。
私は、長くお付き合いしている彼女に「プロポーズをする」という一世一代の決意を固めていた。
覚悟が決まったら、次の問題はどうプロポーズするか、そのプラン決めである。こうした知見が皆無な私は、即座に都内でも有数の老舗ホテルに勤める後輩に助言を求めた。
 
「あのさ、ホテルでプロポーズする人とかって結構多い?」
 
「多いですよ〜、プロポーズする方向けの宿泊プランもあります! 客室のベッドに薔薇の花束を用意しておいて、お相手にそれを見つけてもらい、喜んでいるうちにプロポーズする、っていう流れですね。お部屋に二人きりですから、周りの目を気にしなくていいのがポイントです! よければそのプラン、予約しましょうか? ディナーもホテルのレストランで食べるなら、乾杯のドリンクくらいはサービスできますよ。応援してます!」
 
持つべきものは、一を聞いて十を知る老舗ホテル勤めの後輩である。
私は「よろしくお願いしま〜〜〜〜〜〜〜す!!!」と映画『サマーウォーズ』の主人公ばりの勢いで申し込んだ。
 
そして、プロポーズ当日。
 
私たちは決戦の地(老舗ホテル)へと赴いた。無論、彼女にはサプライズのつもりで行き先などは伝えていない。
そのホテルは佇まいから何まで、とにかく超一流であった。受付を終えると、ホテリエ(今はホテルマンとは呼ばないらしい)の方がごく自然に「それでは、お部屋までご案内します」と我々を誘導してくれる。彼女は終始「え、何? どういうこと?」とあたふたしていた。その様子を見て「しめしめ……」とほくそ笑むものの、エレベーターに乗り、部屋へと近づくうちに、私の緊張感もどんどん高まっていく。そんな私たちの様子を知ってかしらずか、ホテリエさんは「お部屋はこちらになります。どうぞ」と手際良く私たちを部屋の中へと誘導していった。
 
ベッドの上に置かれた薔薇の花束を見た瞬間、彼女もいろいろと察したようだった。「え〜っ」「嘘……」と小さく何度も声を上げ、その瞳はうるうると潤んでいる。
舞台は整った。婚約指輪を取り出そうとポケットに手を伸ばす。
 
その時、ふと気がついた。
 
 
ホテリエさんが、まだいる。
部屋の隅からこちらをじっと見つめている。
 
 
訂正します。舞台は整っていませんでした。何が「舞台は整った(キリッ)」だ。危うく二人っきりのロマンチックプロポーズがホテリエさんを巻き込んだ公開羞恥炸裂プロポーズになってしまうところだった。
私はそっと「ちょっと席を外してくれませんか?」という視線をホテリエさんに送る。
ホテリエさんはこくんと頷き、言った。
 
 
「じゃあ……お部屋のご説明、してもよろしいでしょうか?」
 
 
――すすすすすすす、すなーーーーーーー!!!!!!!!!
 
 
思わず往年の吉本新喜劇を彷彿とさせるリアクションが飛び出そうになったが、なんとか抑えられた自分を褒めたい。私の渾身のアイコンタクトは全く見当違いのメッセージを送っていたようである。
こちとら一刻も早く結婚したいのだ。間違えた。結婚の申し出をしたいのだ。今後の人生を左右する重大告白を控えているというのに「このお部屋は“和”をテーマにした空間デザインとなっておりまして……」という説明を悠長に聞いている暇はない。いや、こんな状況でなければゆっくりと耳を傾けたいところではあるのだが。
 
「えっ……とすいません、後で聞くのでもいいですか?」
 
暗に「今は二人きりにしてくれません?」というメッセージを込めて私は言った。これできっとホテリエさんも理解してくれるだろう。しかし、ホテリエさんの返答は予想外のものだった。
 
 
「あ、もしかして……私、お邪魔ですかね?」
 
 
――言わんでいい!!!!!!!!!!!!!!!!!
 
 
どうやら日本人の美徳でもあり悪徳でもある「察する」という概念がこのホテリエさんには通用しないらしい。もし私が「はい、お邪魔です」なんて口を滑らしたらどうする。最高のロケーションで最悪な空気が爆誕しかねない。
しかしこれはハッキリと要望を伝えなかった私に責任がある。「えーと、後でまた声かけるので、今は席を外してもらえますか?」と改めて伝えると、ホテリエさんは「それでは後ほどお声がけください。ごゆっくり」と今度こそ期待通りの返答とともに部屋を後にした。
 
ようやく二人きりになれた。彼女の方を見ると、未だ花束を抱えたままぽやーっと立ち尽くしている。若干のグダグダはあったがもうこの流れで行くしかない。この好機を逃すわけにはいかない。現実にハレルヤチャンスはないのだ。
覚悟を決めた私は、ポケットからゴソゴソと指輪の入った小箱を取り出し、彼女の前に片膝をついた。よし、あとはバシッとセリフを決めるだけだ。ゴールはガラ空き、ボールは足元に転がっている。あとは押し込むだけ! 行けっ!!!
 
 
「え〜〜と…………結婚してください」
 
 
ちょっとばかし煮え切らない感じになってしまったが、言えた。どうだ!?
 
彼女は、涙でぐしゃぐしゃになった顔で答えた。
 
 
「はい、喜んで!!」
 
 
――いや、居酒屋の店員かい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
 
 
愕然とした。彼女の反応にではない。彼女の返答を受けて真っ先に脳裏に浮かんだのがこんなしょうもないツッコミだった自分に、である。「うわ〜い、良かったァ」という嬉しさよりも先にこんなツッコミが出てしまったのは、これはもうホテリエさんとのグダグダなやり取りがあったせいだ。きっとそうだ、そうに違いない!!!!!
ふと見ると、私がひとり勝手に悶々としている間にも、彼女は嬉しそうに指輪を眺めている。
 
まあ、この笑顔が見れたから、いいか。
 
彼女の左手薬指に指輪をはめると、プロポーズを終えた安堵感と受け入れられた喜びがじわじわと込み上げてきた。何だか急に照れ臭くなった私は、「そんじゃ、部屋の説明を聞きにいきますかァ……」と部屋の外で待機しているであろうホテリエさんを呼びに向かったのだった。
 
その後、私たちはホテリエさんから「プロポーズだったんですね! おめでとうございます!」という温かな祝福をいただき、素晴らしいディナーに舌鼓を打ちまくり、和をテーマにしたお部屋でゆっくりと過ごした。
思い返すと、あの時のホテリエさんとのちょっとしたやり取りがなかったら、私はもっと緊張でガチガチになっていただろう。下手したら緊張のあまり「今日はプロポーズするのやめとこうか……」なんてことになっていたかもしれない。
プロポーズの影の立役者となってくれたホテリエさんに深く感謝しつつ、私たちはホテルを後にした。
 
かくして私のプロポーズは、バシッとは決められなかったものの、ジタバタと足掻きながらゴールを決める形で幕を閉じたのである。
 
 
 
あれから1年ほどが経つ。
 
私たちは無事に入籍を終え、「よし、結婚式をあげよう」と準備を進めている真っ最中だ。
式場は、プロポーズをした時と同じ老舗ホテルである。
もしかしたらあのホテリエさんに再び会えるかもしれない。もし会えたら、その時は「あの時はありがとうございました」と心からの感謝を伝えよう。
結婚式の準備に四苦八苦しながらも、私は今、そんな淡い期待を抱いている。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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