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メディアグランプリ

この島には、癒されに来ないでください。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岩瀬翔(ライティング実践教室)
 
 
神津島という島をご存知だろうか。
伊豆諸島の中程に位置する人口2000人弱の離島で、
竹芝桟橋からジェット船で3時間、調布飛行場から小型機で45分と比較的アクセスよく行ける。
東京から近い一方で、自然は非常に豊かで島の海は水質日本一にも選ばれたことがある。美しいダイビングスポットに囲まれ、子供もシュノーケリングで珊瑚礁を楽しめる海水浴場もある。
海だけでなく山も有名で、標高534mながら独特の地形により高山植物が咲き誇り「花の百名山」にも数えられる天上山は、子供からお年寄りまで気軽に楽しめるトレッキングコースだ。
海でも山でも遊んだ後には、夕陽が見える天然温泉露天風呂が自慢の公衆浴場は格別だろう。
風呂上がりには、地ビールと特産の金目鯛を始めとする新鮮な島魚、デザートは神津島産のパッションフルーツに舌鼓を打って頂きたい。
最後に星空も忘れずに。日本で2番目に国際ダークスカイ協会によって認証された星空保護区であり、満点の星空から星々が降ってくるような感覚は、かけがえのない旅の思い出になるだろう。
 
と、ここまでの紹介は神津島を訪れたことのある方なら頷ける内容かもしれない。
しかし、本当の神津島の魅力はこれら自然の美しさにとどまらない。
神津島オタクを密かに自認する私としては、
本当に神津島の魅力に浸るなら自然に癒されるだけで満足しないで欲しいのだ。
 
だから、正直に言おう。
神津島にこれから来る方には、自然に癒される目的だけで来ないで欲しい。
 
私は仕事やプライベートで神津島を何度も訪れてきた。
どの滞在も1週間前後とそれほど長くはなかったが、島を訪れる度に魅了されてきた。
しかもその興味は飽きることはない。
訪れる度に新しい発見と興味が湧き、次の滞在が楽しみになる。
 
魔力のような神津島の魅力。
この魅力を感じるためには特別なツアーも出費もいらない。
必要なアクションは、ちょっとの勇気と共に村落をのんびり歩くだけだ。
そして、すれ違う島の人に挨拶をしてみてほしい。
フラッと入ったカフェで、店員さんと話してほしい。
 
そう、この島の本当の魅力は「人」にあるのだ。
 
だが、それだけで「なるほど、島の人が素敵なのね!」と納得しないでほしい。
決して「人がいい」とい言葉で思い浮かぶような、
愛想が良くて温厚で周りを笑顔にさせる人柄ばかりではないのだ。
 
神津島の人には、愛想のいい民宿の女将さんもいればぶっきらぼうな漁師さんもいる。
でも、どの島民の方も、人として大切なマインドを持っていると思う。
 
私の好きな島民性を代表した建物が、村落の中心近くにある。
古民家を改装した開放的なガレージ風の建物だ。
壁の一面が黒板になっており、子供たちが残して行った様々な絵が思い思いの場所に描かれている。
 
この場所の名前は「くると」
この場所に「くると」何かが起こる。という思いを込めて作られたみんなの居場所だ。
放課後の小学生の溜まり場や、昼間は親子連れからお年寄り、観光協会の職員もふらっと立ち寄って世間話をしていく。
私は「ここで昼食をとっていいですか?」という一言をきっかけに関係が始まった。
仕事でストレスが溜まった時も、「くると」に来ると、遊んでいる子供を見たり島に移住した方達の半生を聞いたりして、この島の生活の豊かさを感じて悩みが小さく思えた。
居場所としてだけでなく、「子供を預かってて」や「花火大会を手伝って」といったよろず相談も自然と生まれてきて、いつの間にか解決している。
 
「くると」だけが特別なのではない。
誰かの居場所になったり相談に乗る性格は、どの島民にも少しずつ備わっている気がする。
 
例えば、道に迷った観光客がたまたま近くにあった商店に立ち寄った時、
商店のおばちゃんは口頭で道順を説明できず一緒に行ってくれようとした。
道中で同じ目的地に向かう私と出会いおばちゃんと顔見知りの私に道案内を任せられたが、
その十数分の間、お店は店番もなく空っぽだったようだ。
 
誰にでも、ただ居るだけでいい居場所を開き続ける建物。
解決策が見えるまで見捨てないおばちゃん。
エピソードはこれらだけに留まらないが、もうお分かり頂けたでしょう。
 
神津島の人たちは、他者との距離感の取り方がとても上手なのだ。
愛情に溢れておせっかい好きという程ではないが、
困っている人を見たら決して無視はしない。
自分ができる範囲で、役に立てることを探し出す。
自分よりも適役な人がいたら潔く引き継ぐ。
他者を無理に変えようとはしない。
 
この島民性の結果として、
神津島村は日本で有数の自殺の少ない地域「自殺希少地域」としても知られている。
自殺希少地域を研究した森田すいめい先生は、自身の著作の中で
「この島のひとたちは、ひとの話を聞かない」
ことが神津島の強みだと見出した。
 
冷たくいうと、他者に「興味がない」かもしれないが、
他者の存在を「決して忘れない」ということだ。
 
この近すぎず、遠すぎない距離感の関係性が、
精神的ストレスを溜まっている時にどれほどの救いになるか、
私は身をもって感じてきた。
 
神津島にくると、生活の様々なしがらみで錆びついた心に、
潤滑油のような潤いある関係性を感じられるのだ。
 
あなたも是非、神津島に島民の方達との関係を通して心を救われに来てほしい。
 
 
 
 
参考文献:『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』森川すいめい著 青土社 2016年
***
 
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2022-11-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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