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口から心臓が飛び出しそうなほど緊張する体験を子どもに

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:赤羽かなえ(ライティング実践教室)
 
 
く、口から心臓が出そう。
 
なんだ、この緊張する見学は。
 
2mほど先には、中2の息子が座っていた。その目の前には、息子の尊敬する人が座っている。煌々と照らすスポットライトが妙に眩しかった。
 
私は部屋の隅で息をつめて2人を見つめるしかなかった。
 
事の発端は、学校からのお知らせメールだった。
総合の授業で『職業人にインタビューをする』という宿題を出しているので、協力してあげてください。という内容だ。
 
職業人だったら夫に取材すればいいだろうとタカをくくっていたのだけれど、息子に聞いてみると、取材対象は家族ではいけないらしい。
 
こういう宿題、私が学生の時にあったらおもしろかったのになと、思う。ただ、この手の課題を息子が熱心に取り組んだことがなかったので、気にかかっていた。
 
「誰に話を聞いてみたいのか、人に頼まないといけないなら早めに教えてよ」
 
そう声をかけておいた。
 
そのまま、私自身もすっかりそんなやり取りを忘れていた頃、息子からお願いがあるんだけど……と切り出された。
 
「お願い、どうしてもHさんの話を聞いてみたい」
 
頼んで頼めない相手ではなかった。でも忙しい方だし、頼むのには勇気がいる人だ。息子がちゃんと取材をできるのかも心配だった。数日放っておいて、聞いたけどダメだった、という体で息子には断るつもりだった。
 
そこから数日間、息子は私の本棚から取材についての本を持ち出して読んだり、Hさんの著書を読み返したりしていた。普段ならそんな風に積極的に取り組むことがないので、驚き、本気なんだなと思った。昔から作文を書くのを面倒くさがったり、取材体験の機会があってもやりたくないと言ったりするような子だったから、まさかそんなに真剣に取り組むとは思わなかったのだ。
 
さすがに、そんな姿を見てしまったら、聞いたふりをしてごまかすようなことはしたくない。私も勇気を出してお願いしたところ快くOKをもらった。
 
当日、私は別の用があったので、終わったころに迎えに行く予定だった。けれど、その用事が早く済んでしまって、息子の取材を横で聞かせてもらえることになった。
 
もしも、自分が取材をした経験がなかったならこんなに緊張しなかったかもしれない。しかも、取材の相手は、取材者が私自身だったとしても緊張するような方だ。
 
失礼なこと、言わないかな。へんてこりんなこと、言わないかな。
ちょっと待て、なんだか、椅子の座り方がおかしいぞ……!
 
息子のやることなすことが全て気になってしょうがない。
でも、2メートル離れたところで青くなったり赤くなったりしている母親などおかまいなしに、息子の取材が始まった。
 
蓋を開けば、もう少し深掘りしたらおもしろそうなのに! と思うようなところが何個かあったものの、初めての取材にしては上出来だったと思う。
 
むしろ、途中から、二人の話に引き込まれている自分がいた。書かれた原稿を読み上げただけの質問にも、Hさんは懇切丁寧に答えてくれた。慣れてくると色々な質問も飛び出し、「これはあんまり人には話さないんだけどね……」とオフレコ的な話も引き出していて、私も取材をする者としてそんな話が引き出せる息子が羨ましくなった。
 
30分ほどの予定が気づけば1時間近く話が盛り上がり、息子の初取材は無事に終わった。
 
「取材、楽しかった!」
 
帰りの車の中で息子はいつもに増して饒舌だった。取材なんて面倒くさいといってやりもしなかったのにと心の中でツッコミながらも「よかったね」と返す。
 
今回の件は、親が子どもにしてあげられることってなんだろう? と考え直すきっかけになった。
 
日々、子ども達と暮らしていると、子どもの障害をついつい取り除いてあげたいと思ってしまう。子どもが失敗しないように、苦労しないように、成功体験ができるように……、したくないことはできるだけしなくてもいいように、と先回りしてセッティングしてしまうようなこともある。
 
けれど、口から心臓が飛び出しそうなほど緊張するような体験をさせてあげるのはすごくいいことなんじゃないだろうか。
 
私だって死ぬほど緊張して、時には恥をかいて、頭を下げて得られるような経験で学んだことが、今の自分の仕事にもつながっている。
 
今回の取材、傍で見ているのは、私にとっても精神力が試される体験だった。けれど、本人がやる気になった時に、自分から学んだり準備をしたりする様子に学びのあるべき姿を見た。そんな学びのサポートができるならば、可能な限り力を貸してあげたいものだ。
 
先に車から降りる息子の背中にお疲れ様、と声をかけた。後姿が心なしかたくましくなったように見えて頼もしかった。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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