「夫婦のかたちはそれぞれである」ということ
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記事:岡 英子(ライティング・ゼミ10月)
「自分で働いたお金なのだから勝手に自分で使えばいいでしょ! いちいち僕に聞かないでよ」と結婚してから主人に言われ、頭にハテナマークが浮かんだことを今でもよく思い出す。
私の家族は両親と兄との4人家族。母はパートタイマーをしながら我々に深い愛情をかけてお世話してくれた。料理は手作りが多く、スーパーで惣菜を買ってきたことはほとんどない。7つ離れた兄が中学生の時から私が高校卒業するまでの12年間毎日お弁当を作ってくれた。料理が美味しくて私は毎日の夜ご飯を楽しみにしながら帰宅していた。
父は古いタイプの人で「男は仕事、女は家を守る」という考えがとても強かった。子供が悪さをすればすべて母親の責任とし、母に嫌味を言うことも少なくなかった。第三者が聞けば、二人の子供でしょ? 父親も責任があるでしょ? と思えるくらい自分のことは棚に上げて母に怒ることもあった。
それでも不自由なく生活させてくれる父に対して母は父を立てることに徹していた。私はそんな母を尊敬していたし、母のようになりたいと願っていた。
その母が、私が結婚する時にアドバイスを2つくれた。1つめは「何か買う時は必ず旦那さんに相談すること」自分で働いて給料をもらっていても二人のお金だと考えて欲しい物を買う時は事前に一言相談するといいよ。ということだった。相談することで旦那のことを気にかけていることが伝わるらしい。
2つめは「ケンカは売り言葉に買い言葉になりやすい。エスカレートしないうちにあなたが黙ること」父と言い合いになっても母は最後まで言い切ることなく、途中で黙って言い合いを止めることをしていた。言いたいことを言い続けていたら、お互い引くに引けなくなってしまい本心ではないことも口にしてしまうから。と教えてくれた。
そして私の結婚生活が始まった。母の教えを私なりに考えてなるべく無駄遣いもしないように洋服や靴、バッグを買うことを控えた。それでも必要なものがあれば時々主人に相談して自分のものを買っていた。私は母の教えを守っていると満足していたが、急に旦那の様子がおかしくなった。
「自分で働いたお金なのだから勝手に自分で使えばいいでしょ! いちいち僕に聞かないでよ」と言われたのだ。主人の発言が全く理解できず、私はしばらく動けなくなった。自分では「良い奥さん」と思ってやっていたのに予期せぬことを言われてしまったのだ。
私の主人は思ったことをストレートに口に出し、我慢できない人である。怒ったときに「言わないでおこう」なんてことは考えない、言わないと気が済まない人である。結婚して数年間はよく旦那から不満を言われたり、怒られたりすることがあった。そのたびに私は尊敬する母のアドバイスを思い出し、一言、二言返す程度でケンカが大きくならないように途中で黙ることを徹底していた。
それなのに、また予期せぬことが起こった。いつものように主人に怒られた時「なんですぐ黙るの? 何を考えているのか黙っていたら全然わからないでしょ。気持ちを言わなきゃ相手に伝わらないでしょ。ケンカしながら相手がどう思っているのか理解していくものでしょ」と主人に言われたのである。
私こそ全く主人の発言に理解できなかった。「そんなにいろいろ思っていること言ったらケンカが大きくなるでしょ。言わなくてもいいこと言うようになるでしょ」と母のアドバイスに忠実に私は心の中で思うのであった。
そんなことを繰り返しながら私たちは夫婦の年数を重ねていった。4、5年経ってようやく私にはわかったことがある。
「夫婦のかたちはそれぞれである」ということ。母が私にくれたアドバイスは、あくまでも母と父という人間が夫婦になってやり取りを重ねた中で見出した対応策であり、それが夫婦全般ベストな策ではないということ。
母とは違う「私と主人の夫婦のかたち」は、二人で作っていくことしかできない。素直にぶつかって意見交換して、試行錯誤を繰り返しながらお互いが納得のいくように作り上げていけば良いのである。
それがわかった今、私は主人にまっすぐぶつかっていくようになった。その時の衝突は大きいが、思っていることを伝えられればお互いスッキリして前を向くようになった。
それまでほとんど謝ったことのない主人が、私の爆発を受けて謝ってきたことも数回ある。自分が理解されたようでとても嬉しかった。
言うまでもなく、自分の欲しい物を買う時は主人に事前相談することも止めた。自分の判断で買うようになっても主人はまったく不満を口に出さない。これが「私たち夫婦のかたち」である。
ぶつかることを怖がっていた私が、試行錯誤したら新しい道がようやく見えた。身近な人からアドバイスをもらってもうまくいかないときがある。そんな時は立ち止まらずに何でもトライしてみること。
主人と私は考えることが全く違うけど、それはお互いを成長させてくれる。そう信じて私はこの先も主人とうまくやっていけると確信している。
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