メディアグランプリ

攻めのおばあちゃんLIFEに学ぶ、自分らしい生き方


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:pon(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
「おばあちゃんも綺麗なお着物着て撮りたいねん。予約するわ」
 
耳を疑った。私が写真スタジオで成人式の振袖の前撮りをする横で、70過ぎた、おばあちゃんから出た言葉だ。
 
どうしても私がおばあちゃんに晴れ姿を見せたかったので、付き添ってもらっていた。着付けてもらった振袖は新緑のような鮮やかな緑色の総絞りで、朱色と金の帯。惚れ惚れするほど華やかだ。おばあちゃんが母の成人の際、当時勤めていた呉服屋であつらえた特別な着物だったので、私も絶対に着たかったのだ。その着物姿を見せると、おばあちゃんは喜んでくれた。
 
が、おばあちゃん、孫の晴れ姿の感想もそこそこに言ったのだ。私も撮りたいと。綺麗なお着物を着たいと。すぐさまヘアメイク付きのプランを予約していた。
 
驚いたけど、さすがおばあちゃんだと思った。定年まで呉服屋に勤めた働き者のおばあちゃん。私の記憶にしっかりあるのは、高齢者ライフをいわゆる「自分らしく生きる」を貫いた姿だった。とにかくアクティブで70過ぎてあちこちの骨が折れまくったり、おともだちとケンカするまでは旅行にも行きまくり。7人の孫の1人である私は、おばあちゃんがベッドに長く寝るようになるまで、グルメ友だちだった。
 
毎月のように、
「おばあちゃん、鉄板焼き食べたいねん」
「○○ちゃんの好きな、お寿司食べへん?」
と、ご飯に誘ってくれた。
 
おばあちゃんは、お手伝いさんのいるような家庭で育った元お嬢様。大工の祖父と結婚し4人の子供が皆、栄養失調になるほどの貧しい暮らしを経験した。当時の苦労話も笑い話にするタフな人。自分の娘3人と女の子の孫3人の名前をいつも間違えて、訂正されては自分で笑う、すっとぼけた……とにかく大らかだ。
 
そんな彼女を表す出来事がある。商店街のお好み焼き屋で待ち合わせた時のこと。先にお店で待っていたおばあちゃんは頭に上品なお帽子をのせ、ニコニコして言った。「おばあちゃん、酔っぱらってねん」
横には瓶ビールと空のグラス……孫を待つ間に一杯ひっかけていた元お嬢様。いまだに思い出すと笑ってしまう。
 
大人になって考えると、おばあちゃんは自分を大切にしていたと思う。
観たい映画があれば1人で杖をついて、30分以上かけ都心の映画館まで行ったり、急に勉強したいと74歳で夜間学校に通い始めたり。気にくわないことがあって2週間ぐらいで辞めていたが。好きも嫌いも、やりたいこともはっきりとしていて迷いがなかった。きっぱりと、孫が可愛いのは自分の子が可愛いからだと言い切るぐらい。
 
そして、いつもやりたいことがあるから強かった。70過ぎてから足が悪く何度もこけて、背骨や腰を折って入院した。その度一人もくもくとリハビリに打ち込み必ず歩けるまで回復した。どの入院先のリハビリの先生にも褒められる優等生だった。
 
それでも少しずつベッドに長く寝るようになり、私は昼寝友達になっていた。おばあちゃんの布団にもぐりこみ、一緒に通販番組を見たり。毒舌たっぷりの昔話を聞いた。おばあちゃんの匂いは忘れたけど、柔らかく皮膚の薄い手は気持ちよくて、触っているとすぐに眠くなったのを覚えている。私が社会人になって家に行くことも減っていったが、いつも行ったら手を触り、また来るでと言うと
「頑張りすぎないように。頑張らなくていい」
と、そっと耳元でささやいてくれた。誰にも聞こえないように。仕事で辛かった時はこの言葉に何度も助けられた。思い出すと今も心が救われる。
 
そして、
「生きるんも、死ぬんもしんどいなぁ」
と言い、小さく痩せた体で、ゆっくりと息をするようになったおばあちゃんの姿を私はあまり覚えていない。なんどもなんども回復した強い彼女が、遠くへいってしまう現実を直視できなかった。母から時折、容体を聞くと怖くて、どうしても顔を見に行けなかった。
 
……わたしの大きな、大きな後悔。
 
どうして、あの手を握りに行かなかったのか。
どうして、頑張りすぎないように。頑張らなくていいからねと、耳元でささやきに行かなかったのか。
 
容体が急変し、その時を迎えるおばあちゃんの元へ、お医者さんに呼ばれた母たち4人の子供が家で付き添った。夜になると枕を並べ、おばあちゃんに声をかけながら懐かしい話をしていると、やがてあいづちのような弱い返事がなくなり、
 
「寝た? え? うそ! 生きてる?! ……おかあちゃん!」と母たちが呼びかけると
 
「……もうなぁ……しゃべるのもしんどいねん」
息も絶え絶えに、力をふり絞ってニヤニヤ笑いながら言ったそう。
「うるさくて寝るにも寝られへんわな」と、みんな大笑い。
 
やかましい娘たちが、喋りつかれて寝静まった朝方、おばあちゃんは旅立った。
私も朝に連絡を受け仕事を調整し、駆けつけた。
 
私が人目もはばからず、物心ついてから大声で泣いたのはあの日が初めて。
 
何度も何度も、あの手をさすって、頬をなでて。
声にならない声で、「おばあちゃん、おばあちゃん、おばあちゃん」
なんども呼んだ。なんども。
 
「そんなに泣いたら、おばあちゃんが心配してびっくりしてる。ほら、顔あげて」
一度荷物を取りに帰っていなかった母に代わり、叔母たちが声をかけてくれた。
 
「見てみ。後ろ。おもろいもんあるから。涙もすーぐ引っ込むで」
叔母の声に顔をあげ、仏壇の方を見ると、
 
「……うそやろ。やられたーーー!」
 
キュートなパステル紫の額縁の中には、綺麗なお着物のおばあちゃん。しかも、つけまつげ付きの超おすまし顔。
 
……!! あの時の写真か!!
私より、つけまつげ長いやつ選んでるやん!!!
 
最後まで、ばっちりセルフプロデュースしていった。みんな、もう笑うしかないやん。さすがおばあちゃん。
 
……自分のやりたいこと、大切なことに正直になってる?
……人一倍の努力し、やりたいことにエネルギーを注げてる?
……自分の大切な人に寄り添って笑顔にできてる?
 
おばあちゃんを思い出すと、いつも自分に問わずにはいられない。
今も、「自分らしく生きる」私のお手本でいてくれてありがとう。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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