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そうだ、もう完全に丸腰だ。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:森山寿介(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
「ね、昼寝する?」
この質問に、20年以上前に間違った返事をしてしまった。
 
学生時代から先輩にはかわいがられるほうで、特に年齢が離れている人生の先輩には何かと声をかけてもらえる性格だった。母がおでん屋を経営していたのもあって、普段は決して気楽に話すことのできない社長さんや、管理職のおじさんたちに、ママの息子という理由だけで飲みに連れて行ってもらった回数は数え切れなかったりする。
 
当時は部下や若い子を連れて歩く勢いあるおじさんたちは多かったし、それができることが1つのステータスでもあった。今では無理に飲みに誘うとパワハラになるような時代ではあるけど。
 
勢いあるおじさんたちのコースは大体決まっていて、食事をしたあとは、ホステスさんたちがいるクラブやラウンジと呼ばれるお酒をたしなむ場所に行く。学生のころからそういう場所に面食らわずに慣れてしまっていたのは、おじさんたちのおかげである。
 
クラブやラウンジでのおじさんたちの話は、仕事の流儀だったり、完全な馬鹿話だったりと千差万別だったが、どれも刺激的で楽しかった。
 
そんなある日、とあるラウンジでびっくりするくらいタイプの女性が目の前に座って、慣れてたはずのラウンジで面食らってしまった。
 
それにすぐに気づいたおじさんが
「お、お前はこういう子がタイプなんか?あははは」
と豪快に笑った。
 
その言葉でさらに緊張して、顔が真っ赤になってしまった。
その瞬間、ボクは単にかわいらしい学生に戻ったのかもしれない。
 
結局、最後まで緊張がとけることもなく、まともに目もみれないまま過ごすことになった。すると、おじさんが気をきかせて
「連絡先交換せーよ。こいつ学生やけどな、あははは」と豪快に笑った。
 
確かに学生の連絡先など聞いても、客になるわけでもなく営業をするに値しない相手だ。
でも、プロのホステスさんなので、さらっと連絡先を渡してきた。
完全に主導権もなければ、ただ緊張していた学生だった。しかし、結果的にびっくりするくらいタイプの女性の連絡先が手にはいった。
 
翌日に緊張で手に汗をかきながら、電話をかけた。
なにを話したのかまったく記憶にないし、正しい日本語を話せたのか自信もない。
だけど、週末に家に遊びに行くことになった。今思えば急展開すぎる。
 
ホステスさんは20代後半で、ボクと年齢の差があまりなかった。それもあって気楽に話してそんな展開になったのだろう。なんてハートウォーミングな話じゃない。
そのスケジュールが決まってから、ボクの心はうわの空だし、取るものは手につかず、さまざまなケースを想定した妄想が止まらない状態になり、体調を整えるモードに入ったのは言うまでもない。松尾芭蕉が奥の細道の冒頭に書いた旅に焦がれる気持ちも理解できたのかもしれない。
 
そんな状況で週末を迎えた。
教えられた住所に向かい、そっとインターホンを押した。
もうこの時点で口から心臓が出そうだった。
 
インターホンは鳴っているが、何の反応もない。
部屋間違ったのかと違う緊張に焦りながら待った。
 
「ごめん、いまシャワーしててん、入って。どうぞ」
とバスタオル一枚で濡れ髪で玄関を開けてくれた。
 
こんな状況って現実世界で起こることなのか?
こんなの映像の世界でしか見たことがない。
まさか自分が登場人物になるなんて。
 
完全に2度目の強烈な面を食らった状態で部屋にお邪魔したら、まだ昼なのにカーテンは閉め切られてて、めちゃくちゃでかいテレビと、いかにも高級なオーディオコンポがおかれた部屋に案内してくれた。しかし、テレビもオーディオも点いてなくて、薄暗い部屋で無音が逆に緊張感を高めた。
 
一週間くらいさまざまなケースを想定して妄想したどのケースにも該当しないケースだった。そうだ、もう完全に丸腰だ。胸にラッキーストライクの文字がデザインされたダサいTシャツを身に着けているだけの丸腰だ。
 
部屋の中で、とりとめのない話をしたのだろうけど、ほぼ記憶にない。
きっとラッキーストライク少年は正座して話していたにに違いないとすら思う。
 
その部屋にはロフトがあって、そのホステスさんが出勤のための準備といってロフトに上がっていった。ちょっとだけ緊張が解けたとおもった瞬間にロフトの上から
「眠たくない?」
「あ、はい、まぁ大丈夫です」
「眠たくない? ね、昼寝する?」
 
 
「え、え、あ、だ、大丈夫です」
 
緊張が過ぎて思考が聖人君子になったんだと思う。
完全に返事を間違えた。絶対に大丈夫ではない。
びっくりするほどタイプの女性の薄暗い部屋で投げられた質問の答えは絶対にそれじゃない。
 
少し変な空気がながれた。
ホステスさんはいそいそと出勤準備を始めて、時間になって一緒に部屋を出た。
ひと夏のプチ異世界体験は終わった。
 
20年以上たった今も、自分のした返事を後悔している。
ラッキーストライク少年にも申し訳ないことをしたと思う。
 
そんな恥や後悔を積み重ねて今に至っている。
少なからず多くの人に、そういう経験があると思う。
そういう恥部をさらけ出すことができることを大人になるってことを指すのかな。
 
だとしたら、大人になったボクは、いまならなんて返事するかなぁ……。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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