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柿と祇園は鬼門なり


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田盛稚佳子(ライティング実践教室)
 
 
京都。なんて素敵な響きがする街なのだろう。
日本人なら誰しも一度は訪れたことがあるはずだ。
修学旅行や家族旅行、デートや女子旅など、どの目的で誰と行っても間違いない街だと、個人的に思っている。
 
しかし、私には二度と行けそうにない場所がある。祇園である。
遡ること20年前、私が人材サービス業で働いていた時代のことだ。
当時は年に一度「社員旅行」なるものがあった。良くも悪くもワンマンな社長が経営する小さな会社だった。
とはいえ、社員旅行だけは全く手出しなしで行けるという特典付きだったのだ。
 
紅葉の時期になる直前、社長が突然朝礼で言った。
「そうだ、京都行こう!」
「はぁ!? 何言ってるんですか?」
「今、もう10月半ばですよ」
「この時期にホテルの予約とか取れないでしょ!?」
社員は全員全力で止めた。なぜなら秋の京都と言えば、早い人は一年以上前から予約しているほど、競争率の高い世界的観光名所である。
「別にいいよ、高くても。どうせ払うのは僕なんだから」
その鶴の一声で社員旅行が京都に決定した。
もう、みんなゲンキンなんだから……。と思いつつ、私も「まぁ、社長のお金だしね!」と期待に胸を膨らませていた。
 
土日1泊2日プランで、ジャンボタクシーなるものを貸し切ってあちこち名所を回り、記念写真も撮りまくった。
そして、一番の楽しみはやはり「食」である。
社長は普段からグルメかつ妙なこだわりのある人で、社員がリフレッシュできるようにと懇親会ですら、完全個室の店しか予約しなかった。
今思えば、「人間」という生きた個人情報を取り扱う仕事は、日々精神的に堪えることが多く、何かとストレスのたまる業界でもある。そのことを社長自身が一番理解しているからこその配慮だったのだろう。
 
案の定、京都でも「完全個室」の店にこだわった。
「せっかくだし、祇園辺りでゆっくり」と老舗料亭を探し始めた。
数軒をピックアップして電話をするものの、結果は次々と空振りである。
無理もない。半年前から予約している人や団体旅行もある時期だ。私たちは出発までもう3週間を切っているのだ。
「5名様ですか~。あいにくウチはもう随分前から満席でして……」
何度そのやんわりとしたお断りを聞いたことやら。
そして、皆が思った。たしか、京都って「一見さんお断り」のお店多いよね、と。
やはり祇園の料亭は無理かと諦めかけた時、ある一軒の料亭に空きがでた。
社長も私たちも飛び上がらんばかりに喜んだ。
ホームページを見るとお店の雰囲気もめちゃくちゃいい! コース料理も素敵!
そして、お品書きを見た瞬間、私は一瞬クラッとした。
「夜のコースは15,000円から承ります」
ひぃぃぃ、いちまんごせんえんから!? たっか!! しかも飲み物は別料金だ。
「夜だもの、そのくらいの値段はするでしょう」
社長は全く動じない。やるな、社長。すべてはお財布を握った彼に委ねるしかない。
 
午後6時に予約を入れていた私たちは、5分前にその料亭に着いた。
「楽しみだねー」とワクワクしながらお店に入ると、社長の顔色がよろしくない。
「山本さんどすか? 山本さん、山本さん……」
女将らしき女性が今夜の予約名簿を探すが、それらしき名前がない。
「本日のご予約、入ってませんなぁ」
今度は私たちの血の気が引いた。えー、嘘でしょー!?
いやいや、電話で予約していたのをちゃんと傍で聞いてたし。
困ったように社長が「いや、たしかにこちらにご予約して……」と印刷したものを見せると、女将は一瞥して言った。
「ああ。これ、うちの姉妹店です。ここから5分くらい先ですわ」
名前は同じだが、まさかの姉妹店だった! しかも予約時間はとっくに10分過ぎている。
慌ててお詫びの電話を入れ、祇園の街をダッシュで向かう。
 
「すみません! うっかり間違えてしまいまして……」とひたすら謝る私たち。
「これだから一見さんは……」と言わんばかりの女将の冷ややかな視線を浴びながら、二階の個室に通された。どうやら事前に姉妹店からも連絡が入っていたようだ。
「いやー、焦ったね」
「まさか、もう一店舗あるなんて……」
とそれぞれが汗を拭きながら、まずはビールで乾杯した。
 
早速運ばれてきた料理は、いきなりのメインディッシュ「牛肉の朴葉焼き」だった。
「なぜ?」と思いつつも、走り疲れたせいか頭が回らない。
お腹ペコペコだった私たちは、適度にミディアムなお肉に舌鼓を打つ。柔らかくて、肉汁がジュワッと出てくる。
精進料理みたいなものを想像していただけに、料亭でこんな肉料理が頂けるのかと感激した。
次に出てきたのは「柿釜の白和え」だった。
大ぶりの柿の実をくりぬいたものに、白きくらげと柿の果実、それを豆腐で和えたものを詰めた、いかにも京都らしい美しい一品だった。
実は以前、これに似た料理をテレビで見たことがあった。
ある芸能人が食レポをしており、柿の器から白和えを掬って一口運んで、
「うわぁ、これはまた上品なお味ですね~!」と言っていた。
ふと見ると、グルメなはずの社長が白和えを掬うどころか、柿の器ごとかじろうとしているのが目に入った。
「え? 社長、たぶんその柿、食べる用じゃなくて器だと思います!!」
と慌てて止めたのだが遅かった。見事な歯型がくっきりとついていた。
「なに言ってんの。これは、旬の柿を丸ごと食べるようにできているんだよ。ほら、みんなも食べてみて」
少しの間をおいて、シャリッ。カリッ。ポリッ。
あちこちで小気味よい音が聞こえてくる。
私はなんだか腑に落ちないまま、グルメな社長が断言するならと半信半疑で、柿の器の端っこをかじろうとした瞬間、ガラリと女将が入ってきた。
そして、一様に柿をくわえている私たちを見て、目を見開いて絶句した。
「アラッ! マアーッ……!!」
しばし、静寂の時間が流れた。
我に返った女将は、次のお料理をササッと置き料理の説明なしに逃げるように去って行った。
 
「ほらー! やっぱりこれ食べちゃダメだったんですって!」
「もう。女将、逃げちゃったじゃないですか!」
「えー、美味しかったけどなぁ」
やっぱり社長はマイペースだ。
 
その後、料理はお品書き無視でめちゃくちゃな順番で提供され、早々にシメが出てきた。
「もう、早く帰れってことじゃない?」
私たちは出てきた料理をゆっくり味わう時間もなく、そそくさとそのお店を後にした。
柿の白和えのせいか、悲しいかな、途中で出てきた料理を私は全く覚えていない。
15,000円も出したのに……(私じゃなくて、社長がね……)
 
それ以来、百貨店や料理番組で柿や祇園の料亭が出てくるたびに、あの甘かった柿の苦くて渋い思い出が蘇ってくる。
あの会社はもう辞めてしまったけれど、あれから「自称」グルメ社長が、柿の器ごとかじっていないことを心から祈るばかりである。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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