「大嫌いだった経理に配属されたら、そこは天国だった」
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記事:鈴木かずこ(ライティング・ゼミ8月コース)
「鈴木さん、育児休業復帰後は、財務部へ異動となります」
私は、びっくりして自分の耳を疑った。
私は、元々運動系専門学校の教員として働いていた。
同期より誰よりも早く結婚し、子どもも生まれた。1年間の育児休業を経て、復帰にあたり会社へ趣き、言い渡されたのが、先のセリフだ。
私は、財務部が怖くてしょうがなかった。
一度、手痛い失敗をしたことがある。
専門学校では、職業実習がある。実際の現場に学生を派遣し、実習させてもらうという過程だ。
実習には、交通費がかかる。この交通費は、学校から支給する方法が取られていた。
まずは、学生から交通費申請書を提出させる。
そして、その申請ルートや金額が、正しいかチェックする。1学年180名、それが2学年分だ。
そして、支給日に窓口にて学生に金額を支払う。
この日は、金種を計算して、小銭を用意しなければならない。
このように、学校教員でありながら、事務仕事まして、慣れていないお金を扱うという仕事に、私は大きなプレッシャーを受けていたのだ。
さて、金種計算して両替を事務の方にお願いしたところ、銀行窓口から電話がかかってきた。
「一人で持って帰れないから、誰か来て!」
総重量優に20キロを超える小銭を抱えて帰ることになり、私は事務の先輩にこぴっどく叱られたのである。
まあ、今思えば、銀行に両替する前に、サクっと計算すれば、金種が細かすぎることに気がつくはずだ。しかし、ここはノーチェックだったため、責任は私にあることになってしまった。
私は、このように、お金に纏わる仕事が大の苦手だった。
そんな私が、苦手の総本山である「財務部」に配属するなんて、狂気の沙汰なのである。
さて、配属初日を迎えた朝。とても緊張して、財務部に一番に出勤した。
机の上に無機質に並べられたパソコンとモニター。大掛かりなドットプリンター、そして灰色の書庫に囲まれた部屋。入った瞬間、私はいつまで持つか不安でしょうがなかった。
しばらくすると、財務部長が出勤したので、挨拶をした。無口な人で、多くを語らないため、話を続ける事もできず、気まずい空気が流れた。おそらく、歓迎されていないのだろう。でも、後から出勤してきた同僚となる人たちは、とても明るく優しい人たちだった。
「鈴木さん。現場から配属されて心配でしょ?でも、大丈夫。誰もができるようになっているし、何でも教えてあげるから、大丈夫。何でも聞いて」
この言葉に少し安堵する気持ちが生まれ、これなら1日は持つかもしれないと、心に余裕を持つことができた。
こうして始まった財務部での仕事は、6年まで続いたのである。
なぜ、お金勘定が苦手だった私が、ここまで長く務めることができるようになったのだろうか。そして、その後の職業選択に、経理・税務に関わる仕事をするようになったのだろうか。理由は一つ。「経理や簿記って、ものすごく面白い」と気づいたからである。
こんなことがあった。財務部にある固定資産台帳には、各部署が購入した固定資産が記載されている。この組織は、多種他業な仕事をしているので、その台帳にはいろんな備品が掲載されている。
専門学校の机や椅子、ホテルのロビーにかかっている絵画、野外キャンプ場にある厨房関連の設備、スポーツクラブにある筋トレ用マシーンなど。
一覧に書かれた備品名を見ただけでは、何が何だかよくわからないのである。
しかし、私にはその備品名がどれを指しているのか、よく理解できたのだ。
スポーツクラブにあるとされる、このマシーンたちは、とっくに廃棄処分されており、今ではリース契約した機材が置かれているのだ。
そこで、私は、その固定資産台帳を片手に、現場調査にでかけ、除却資産(台帳から外す資産のこと)を洗い出した。この作業を続けているうちに、財務部ではなく、現場でもない、この中途半端な立場が、とても心地よい感情を味わうようになった。
これが、その後、会計の世界に身を投じるきっかけになっていったのである。
お金は、世の中のすべてのものを図りうるものさしである。
経済動向もしかり、株の為替相場も先物取引もすべてそうだ。集団生活をする人間の欲や感情がすべてお金に反映されているのだ。そして、それらを上手く集計して、一目でわかるように表にしたのが、簿記によって積み上げられた財務諸表である。
その会社の状況を知る、有効とされる手段が、その会社の決算書だ。そして、財務部は、現場の情報を吸い上げて、外部のステークホルダーつまり、利害関係者に報告する仕事をしているのだ。
こうして、仕事をすればするほど、物事がきれいに整っていく過程に携われることに、私は天職のように感じた。そして、運命の悪戯で、財務部に配属されたことに、今では大いに感謝している。
人生、何が起こるかわからない。自分では絶対に向かないと思い込んでいたお金を扱う仕事が、こんなに魅力的だったとは、自分でもびっくりしている。
お金のことに、苦手意識を持っている人がいたら、ぜひ、このように伝えたい。
現金や数字だけ追ってしまうから、訳わからなくなるのだ。数字のからくりを、まるでパズルのように解く方法をしることができれば、これほど面白いゲームはない。
どんな形でもいい。家計簿でもいい。ぜひ、毛嫌いせず、自分なりの勘定の数え方を身に着けてほしい。
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