人生は赤と緑のポストの如く
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:増田美由起(ライティング・ゼミ12月コース)
「かわいい~!」という声とともに写真を撮る女性二人がいた。
私は、やっぱりそうだよね、と思いながらその対象物を眺めていた。
ここは台湾第二の都市高雄の中心街、どこにでもありそうな朝食屋の外テーブルでのひと時、さっき私たちもスマートフォンに同じものを数枚収めたばかりだった。
台湾では全国どこでも見かける公共物なのだが、ここのはちょっと違っていた。
そう、他のよりかわいいのである。
「あのポスト曲がっているよ。なんで直さないんだろ」
「そうだな、なんでだろう。台風でも来たんかな」と
今度は男性たちの声が聞こえてきた。
たまたまとはいえ、日本語で飛び交うその公共物への感想がこうにも違うのかと思わず笑ってしまった。もちろん男性陣は写真を撮ろうともしない。興味関心のポイントが女性陣とずれているのだ。いや悪いとは言っていない。事実曲がっているのが変なのである。
台湾のポストは四角いボックス型で赤と緑の二つが並んでいることが多い。
緑色が国内専用で赤色が航空便と速達専用に分かれている。色の違うポストが使われている理由は、日本統治時代は赤いポストだったが、戦後中国大陸から国民党が台湾に来て以降、緑色(現在も中国大陸のポストは緑)のものが使われたそうだ。
そんな複雑な歴史背景をおそらく考えもせず、「かわいい~!」と言って写真を撮り、
「なんで直さないんだろう」とありのままを分析しているのだった。
私たちがたまたま見たのは、高雄市だったが、台北市にも曲がったものがあるらしい。やはり台風で建物の屋根が飛んできて曲がってしまったらしい。首をかしげているようなかわいらしさに、どうやらそのまま使用することにしたそうなのだ。
その記事の写真を見ると赤と緑のポストが仲良く一方方向に傾いている。ポストとしての役目は果たせそうなので直さないのだろう。
他にもあるのかと記事を追ってみると、なんとこのポストには名前があるではないか。
その名も「歪腰郵筒」、うー-ん、漢字だけだとズバリそのままでかえっておもしろい。
とある「歪腰郵筒」の足元には、中国語、英語、日本語で書かれた説明があるそうだ。
「2015年8月8日台風15号で落ちてきた看板がぶつかってしまい、腰が曲がってしまった。でも曲がってしまっても大丈夫、曲がっていた方が芸術的じゃない?
「人生何があっても大丈夫!」ってこと忘れないよう一緒に写真を撮りましょう」←説明引用
アクシデントで「歪腰郵筒」になってしまったポストたちはこうして観光名所としても活躍することになったのだ。
ちなみに、高雄バージョンは、二つが同じ方向に曲がっていない。まっすぐな緑色のポストに赤色がちょっと寄りかかっているような感じに曲がっている。
台北市の「歪腰郵筒」からすると、「人生何があっても大丈夫!」という意気込みからは程遠く、歪腰ではなく「傾首」くらいな感じであろうか。
このちょっとした傾き具合が、女の子たちには「かわいい~!」と言わせ、
男性陣には、「なんで直さないんだろう」という疑問になったのだろう。
この傾いたポストたちに対するギャップが、数年経った今でも、私たちにとって当時のよき旅の思い出話として時々語られている。
実は台湾には、台風で傾いてしまい直さずそのままになっているポストは各地にあるという。それもたまたま見つけた人がSNSに乗せた記事が拡散されて、「歪腰」や「傾首」郵筒は観光名物になっていったと思われる。
災害による負のシンボルでなく、多少曲がっていても役目は果たしているぞとばかりに、今日も町中に立ち続けているに違いない。
これが日本だったらどうだろう。行政が早々に修復してしまうか、「なんで直さないんだ」コールでまっすぐにする可能性大と思うが、いかがでしょうか。
何度も訪れている台北市の「歪腰郵筒」も残念ながら実際見たことはない。
当然、高雄市で宿泊した施設の近くにあった朝食屋さんに行かなければ「傾首郵筒」(こんな名前は付いてないが)も見ることはなかった。しかもこの時の宿泊施設は当初泊まる予定でなく、通常のホテル施設でない、偶然見つけた個人が貸しているようなマンションタイプの部屋だった(高層階で眺めがよく広い部屋で、なによりトイレとお風呂が別なのがよかった)。
さらに、私たち以外の日本人の相反する反応を楽しむこともなかっただろうと思うと、旅のアクシデントはおもしろいと思う。
人生は旅。
生きていれば災害やアクシデントは避けられないこともあるだろう。この台湾のポストのようにアクシデントをプラスに転じて福となすことができれば、旅もまた楽しい。
次回台湾に行った時は、
「人生何があっても大丈夫!」と言いながら、一緒に写真を撮ろうと思っている。
高雄市の「傾首郵筒」はまだあるだろうか。
場所も定かでないが、探してみよう。
その時、冒頭の会話が再び聞けるだろうか。
まさかそんな奇跡があったら、緑のポストも傾いてしまうだろうな。
その時は、赤いポスト側に倒れてくれるかな。
***
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