メディアグランプリ

めんどくさい対話、めんどくさい平穏


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:T.AYUMI(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
対話が大事だ。
対話こそ、争いに対抗できる、友好的で効果的な方法だ。
 
TVのコメンテーターはよくそんなことを言うし、わたしも言う。
平和学習の講師の立場で、言う。
だけど、会社で、学校で、近所で、時には家庭で、考え方のまるで違う人と「相入れない…」と途方に暮れる経験をしたことは、誰にでもあるのではないだろうか。
 
対話を通じて意思の疎通をするのは、それはそれは面倒で骨が折れる。苦しい。自分の思いを届けて相手に意見を変えてもらうような討論ではなく、対話というものは、目を背けた方がラクだったりする。
 
では、対話が成り立たなかった時、どうするのか。
 
「いかに平和を作り出すのか」
常々そんなことを考えているわたしは、対話が行き詰まったらどうするのかという答えが出なかった。ずっと答えが出なかったのに、それに直面する事態に見舞われてしまった。
 
今年7月、あるプロジェクトで、物語の台本を書く依頼を受けた。思い入れのあるテーマだったので、その依頼を受けた時には嬉しくて心躍った。難しいのは覚悟の上。
8月には4案を提出し、そこから1案が選ばれた。その後、本格的な制作に入り、いろんな人に協力をしてもらいながら物語を育てた。
登場するのはどんな人物なのか、どんな背景があり、ここではどんな役割なのか。細かく設定した。クライアントには逐一進捗を報告し、いただいた意見に一つ一つ向き合い検討し、順調に進んだ。
 
予定では10月には完成するはずだったが、テーマに関係する組織にも内容を精査してもらい、事実確認をするのに時間がかかってしまった。クライアントの担当者は、「その組織さえOkなら、問題ありませんね!」と言われていて、みんなで一つの目標に向かっているような気持ちだった。
 
最後の最後、予定から1ヶ月おした11月、クライアントのトップから、物語の重要な場面を変更するようにと指示が入った。物語の肝の部分なので変更するとなるとまた時間がかかるが、「変更します」と電話で返答をして、時間をもらうことになった。
 
そこで予測していない展開になった。
 
電話を切って2時間後、担当者から修正案が届いた。
「わたしが物語を修正しました!これも選定の一案にしましょう!」
とノリノリのテンションで。
 
4ヶ月かけて育ててきた内容から、振り出しに戻ったような精度だった。トップからの指示以外にも、あらゆる場面が修正されていた。作者であるわたしが内心「こうはしまい」と気を付けていたことが、ことごとく採用されていた。
 
「めちゃくちゃになった……」
 
それが正直な思いだった。腹立たしさもあった。
 
「これでは伝わらないから、選定のテーブルに載せるのは控えてほしい」と担当者に伝えても、相手はクライアント(側の人間)。「発注者が伝えたいのはこれですから!」と強く言われると、どうしようもなかった。担当者も物語制作への思い入れがあり、伝えたい気持ちが強かったようだ。
「いや、それなら自分の作品を一から作ってくださいよー!」と言いたい気持ちをぐっと堪えた。
 
担当者は、それから都合の悪いことはメールで返事してくれなくなった。わたしのピリついたオーラが届いてしまったかもしれないし、担当者の思い通りにならないわたしが、目の上のコブのように見えてきたのかもしれない。わたしも、4ヶ月間の話し合いはなんだったのかと担当者への信用が崩れ、関係に亀裂が入った。
 
それでも、わたしは依頼を受けた責任として、伝わらないものを作るわけにはいかない。納期までもう時間がない。
 
担当者が編集した物語の意図を、詳しく理解しないといけないと思い直し、顔を突き合わせて話をする場を設けて欲しいと願い出た。
 
しかし、却下。
 
「それは意味がないからあなたの案を出すように。それをこちらで検討します」
だそうだ。
わたしの心のシャッターは何度も閉まっていたが、そこで頑丈な鍵がかけられた。
 
もしも、私がではなく村上春樹が相手だったら、この担当者は同じことをするだろうか。
制作物が物語でなく、映像なら、担当者には技術的にいじることができない。そうしたらもっと話し合う姿勢を持とうとしたのではないか。
 
そんな考えが頭を巡る。
 
 
「次でダメならもう降りよう」
 
そう決意して
「良いものを作りたいという、最後の願いです」
ともう一押しした。シャッターの鍵を、自分でどうにか開けて出た言葉だった。
 
対話が大事だと人に言っている自分が、どうこの事態を収めていくか、
なんだか試されているような気がしたのだ。
 
担当者は、しぶしぶ席を設けてくれた。
 
 
気持ちとしては決戦だったけれど、「武装はしない」と決めて臨んだその日。
 
「この一文に込めた、あなたの思いを詳しく教えてください」
インタビューするように尋ねると、担当者はどんどん話した。
 
すると、担当者の思いが私の思いと近いことが見えてくる。
 
「わたしも同じ思いです。それを伝えるには、この言葉は抽象的でうまく伝わらないので、こうすると分かりやすいと思うんですがどうでしょう?」
とこんな姿勢て進めると、すんなりと話がまとまっていった。
 
結果として、担当者の言葉はほとんど入らず、わたしが制作していた内容から、さらにブラッシュアップされたものに仕上がった。
 
 
「勝った」
 
そう思った。
担当者に、ではない。この状況に、だ。
 
もし、話し合いの場を設けずに諦めていたら、わたしは役目をまっとうできず、関係者全員が困ることになる。わたしにも一緒に制作していた人にも、一円も入らないうえに モヤモヤはやたら大きく残る。
 
それを避けるための苦肉の策の「対話」だった。言い替えると、対話する価値があったから、苦しみながらも対話した。
対話というのは、話術ではないようだ。話術ではなく、姿勢。
 
「あなたのことを分かりたいですよ、敵じゃないですよ」
 
その姿勢が、対話なのかもしれない。その姿勢でやってきた人に対し、はじめは警戒はしても憎む気持ちは起こらないのではないだろうか。
対話ができると、見えていなかったことも見えてくる。
「ここを重要だと言う人もいるのか。そうならこうしよう」と新たな視点も持てるようになる。
それは間違いなく自分の引き出しになる。
 
 
「相入れない相手とどうするのか」という、ずっと持ち続けていた問いに、今のわたしが答えを出せるとしたらこうだ。
 
「それでも対話を諦めない」。
 
争いも平穏もエネルギーがいる。せっかくならば平穏のためにエネルギーを注ぎたい。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-12-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事