メディアグランプリ

3日坊主から抜け出すために


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:南雲小夜花(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
2021年夏、1年遅れでようやく開催された東京オリンピック。国を代表する実力を持った選手たちのみの、最高峰の大会が幕を開けた。ドローンでの演出やダンスなどが披露された後は、各国の選手団が独自のファッションで入場してくる。赤いパンツに白いジャケット、ドラクエのBGMで入場してきた日本選手団の姿を覚えている人は多いだろう。正真正銘、「継続は力なり」を体現している選手たちは、清々しい表情で手を振っている。
 
ああ、すごいなあ。きっとみんな、これから始まる試合への興奮とこれまでの努力が実った達成感でいっぱいなんだろう。選手たちはキラキラしている。
 
さて、アスリートに対して、こんなクエスチョンが浮かんだことはないだろうか。
なんでそんなにがんばれるんだろう……?
苦しい、辛い、大変なことを継続してきた選手たちには、どんな原動力があるんだろうか。
わかる。私も何度も疑問に思ってきた。なぜなら、自分にあだ名をつけるとしたら「3日坊主大魔王」が一番ふさわしいと思えるほど、頑張り続けることが何より苦手だったからだ。
これまでチャレンジして心が折れたことといえば、
・食べたものを全て記録するレコーディングダイエット
・朝のラジオ体操
・寝る前のキッチン掃除
・腹筋50回
・15分以上本を読むこと
などなど。お恥ずかしいが、数えきれない! やろうやろうと決意しても、目標を壁に貼ったとしても、人の習慣は簡単に変えられないのが、人間という生き物なのだと思う。
 
私は子供の頃から3日坊主だったが、それでも一番続いたのは陸上の自主練習だったと思う。原動力となったのは、憧れの存在がいたこと。陸上・長距離種目の新谷 仁美選手だ。
 
新谷選手のことを知ったのは中学1年生のころ、芸能人が本気でアスリートに挑むバラエティ番組に出演していた。新谷選手は陸上界期待の新星として、芸能人チームと1人でバトル。起伏のあるクロスカントリーコースを颯爽と駆け抜けていった。芸能人チームのためにかなりのハンデを設けられていたが、それをものともせず余裕の笑顔で勝利していた。
 
すらり、というよりも細長いと表現した方が合っているかもしれないくらいスタイルが良かった新谷選手。野山をビュンビュンと風のように走り去る彼女の姿は、最高にかっこよかった。がっしり体型の私は自分の足の太さと見比べて落ち込んだことを覚えている。新谷選手のように強く、そしてかっこいい選手になりたい、全国で活躍したい! 本気でそう思った私は、部活が終わった後や帰宅後も走り込みをするようになった。
 
それなりにタイムは延びたが、新谷選手ほどのスタイルには近づけなかった。相当量の練習量はもちろん、量や質に配慮した食事を合わせて続けなければ、アスリート体型にはなれないからだ。
 
日本の長距離選手は昔からひょろっとしている人が多い。例えば、Qちゃんの愛称をもち、シドニーオリンピックの女子マラソンで金メダルを獲得した高橋尚子選手。現役時代、体脂肪率は4%程度しかなかったという。新谷選手も「一桁台です」と発言していた。
 
一方で、ある程度の体脂肪がないと体の機能がストップしていく。女性で言えば、生理機能への影響は大きく、体脂肪率15%で約半分が、10%以下でほとんどの人が無月経になると言われている。生理機能はホルモンバランスとの関係が深く、無月経になるとホルモンが減り、結果的に骨が脆くなったり、怪我が治りにくくなってしまったりする。
 
太る恐怖と食べる勇気。そのギリギリに居続けるのがアスリート。
「相当なメンタルがないと競技生活は続けられない」というテレビ番組の謳い文句は嘘ではない。
 
ここまで読んだ方は、2つのことを考えるはず。
「筆者はさっさと陸上を辞めただろう」
「新谷選手はきっと陸上界で活躍し続けだろう」
前者はYes、圧倒的Yesだ。後者は、意外かもしれないがNoなのである。
 
彼女は努力の人。だからこそ、2014年に現役を引退した。無月経によるホルモンバランスの崩れ、治らないけが、精神的ストレスなどが原因だったらしい。今後の進退を明かすこともなく、まだ20代半ばでひっそりと、陸上界から姿を消したのだ……。
 
――それから4年後。新谷選手は陸上界に戻ってきた!
「OLやってたんですけど、お給料低くて」
「バーキンが欲しいんですよ! じゃあ走るしかないかなって!」
 
バーキンとは、高級ブランド「エルメス」のバッグのこと。聞いているこちらが拍子抜けするくらい、復帰会見でそう言い放ったのだ。
 
もしかしたら「バーキンのためです宣言」は1つのパフォーマンスかもしれないけれど、無月経で、空腹のまま走って、怪我をして……そんなある種の地獄に生半可な気持ちで戻れるほど、競技は甘くない。
 
復帰後、彼女は圧巻の成績を出し続けた。5000メートル、1万メートル、ハーフマラソンで自己ベストを更新。彼女の表情は、復帰する前のギリギリで追い詰められていた時期よりも、とっても生き生きと自信に満ちているように見えた。
 
「タイムを出すことだけが目標ではなく、目標を達成した後の自分を考えた方がいい」。
そんな彼女の言葉に、何事も継続できない自分が恥ずかしくなった。
目標の先には何があるのか。どんな自分がいるのか。
目標とする姿を具体的に描くことでよりモチベーティブになることができ、結果的に物事は継続させることができる。「バーキンが欲しい」と話す新谷選手の頭の中には、バーキンを持ったいつもとは違う“自分”が描かれていたのだろう。
 
新谷選手の原動力を知ってからというもの、目標を立てるときにはより具体的な自分を描くようになった。すると、より目標が自分ごとになり、「3日坊主大魔王」が「1週間坊主大魔王」に、「1ヶ月坊主大魔王」に……というように少しずつ、少しずつ日々の努力を継続できるようになったのだ。
 
ちなみに、新谷選手は東京オリンピック代表にまで上り詰めたが、結局バーキンを買わなかったそう。「いいモチベーションになりました!」と話す彼女の笑顔もまた、彼女らしい。東京オリンピックを経た今、次の目標に向けて、何を描いているのだろうか。私も「目標に向かって頑張り続けられることが強みです」と胸を張って言えるようになりたいと密かに思っている。
 
 
 
 
***
 
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2022-12-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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