メディアグランプリ

『からっぽのクリスマスプレゼント』


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:のもちゃん(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
今朝、新聞を開くと 『ぼけますから、よろしくお願いします。』 のドキュメンタリー映画の原作者である信友直子さんのエッセイが目に留まった。
エッセイの内容はサイン会に来た認知症の母親の介護をし見送られた70代の女性から、
「信友さん、私は親のみとりを経験して思ったのだけど、介護というものは親が命懸けでしてくれる最後の子育てなんですよね」 と話しかけられたことに対する信友さんの想いが綴られていた。
親の介護を 『親がしてくれる最後の子育て』。 この女性の深い心情に感銘を覚えずにはいられなかった。
 
私の両親は十数年前にそれぞれ病気で他界した。
父も母も亡くなったときは80歳を過ぎていたから天寿を全うしたと言っていいと思う。
 
父は末期の胃がんだった。
病気がわかってから4ヶ月間入院の末、息を引き取った。
母の時は、朝はいつもと変わらず元気だったのに、近くの整骨院に行く道すがら急に意識をなくして倒れた。
病名はくも膜下出血ですぐに病院に搬送されたが、もう意識が戻る可能性はなく電気ショックを与えて何とか心臓を動かしていた。
慌てて病院に駆け付けた私に医師は 「どうされますか?」 と聞いた。
もう意識の戻ることのない母の延命を続けるか、とのことだった。
 
私は姉の到着を待たず答えた。
「……いえ、もういいです」
その一言で母の人生は閉じることになった。
母だけど母の顔とは異なってしまった表情に私は呼びかけた。
「ありがとうね……」
 
親子の関係は難しいものだと思う。
幼いころはみんなの家は普通で、うちの家だけが変わっているのだ、と思っていた。
ほかのみんなにはきちんとした親がいて毎日しあわせに暮らしているのだと。
だんだん成長して周囲の話やニュースなどで、世の中には子どもを虐待したりする親がいることを知った。
一方、ものすごく親と仲の良い友人もいて親友のようになんでも話したりするという、うちではありえない親密な関係に驚いたりもした。
 
今は 「毒親」 という言葉があるけど、私の幼いころには 「毒親」 という言葉はなかった。
親は子どものことを愛しているのだから、という絶対的な親子愛前提で語られることが多かった気がする。
私の両親は虐待ではなかったけど、一緒にいると子どもの心をすり減らしていくような人だった。
幼いころのクリスマスの時期の出来事をずっと忘れられない。
小学校低学年の頃、町内会のクリスマス会が行われた。
クリスマス会でプレゼント交換があるので、プレゼントをひとつ用意する必要があった。
クリスマス会が行われる数日前に、箪笥の引き出しの中に見慣れないきれいに包まれた箱があるのを見つけた。
キラキラの紫色のストライプの包装紙だったことをよく覚えている。
母に 「これは何?」 と聞くと 「いいから」 と言われ、黙ってもとあった場所に片づけた。
 
クリスマス会の当日、母からそのきれいな箱をプレゼントとして持っていくように手渡された。
小学校の体育館でクリスマス会は行われ、同じ町内の子たちとゲームなどして遊んだ後にプレゼント交換をした。
みんなで輪になって歌いながらプレゼントを回していき、最後に歌が止まったところで両手にあったプレゼントを早速開けてみた。
(あぁ、あんまり嬉しくないなあ……) 何をもらったのかよく覚えていないけれど、欲しかったものではなかったことは覚えている。
みんなが自分のプレゼントを開けて確認していると、突然 「ぎゃー!」 と大きな泣き声が体育館に響き渡った。
(なんだろう?) そう思って泣き声がする方を見ると同級生の女の子が泣いていた。
しばらくしてから役員のお母さんに、
「○○さん(私の旧姓)のプレゼント、中に何も入っていなかったよ」 と告げられた。
あまりのことに何も返事ができなかった。
母が用意してくれたプレゼントの箱の中身は空っぽだった……。
真っ白になった頭の中で、同級生の女の子が羨ましいと感じた。
悲しい時、大きな声で泣いたら周囲の人が必ず助けてくれると信じているから泣けるのだと思った。
私は泣くことができない子どもだった。この時も黙って下を向いて耐えていた。
その日の出来事は町内会の役員の方がうまく取りはかってくれたのだろう。
他の子からそのことで責められたりからかわれることはなかった。
数日後にからっぽのプレゼントをもらった女の子が 「○○さんのお母さん(私の母)から色鉛筆もらったよ」 と教えてくれた。
その子も私を責めなかった。むしろ同情しているような口調だった。
母はその出来事について、一切何も言わなかった。私も何も言わなかった、……言えなかった。
 
私はあの当時の母の年齢になった。
母のしたことがどれだけ思慮の浅い愚かな行為だったのかと、今でも思う。
からっぽのプレゼントをもらった子どもがどういう気持ちになるのか、そしてからっぽのプレゼントを持たされた私がどんな思いをするのか……。
 
一方、今の年齢になって理解できたこともある。
母がからっぽのプレゼントを持たせてまで、なぜ私をクリスマス会に参加させたのか。
ずっとうちには経済的余裕がなく、生活保護を受けていた時期もあった。
今みたいに百円均一で子どもが喜びそうなものを安く買える時代でもなかった。
プレゼントを買う余裕はないけれど、クリスマス会には参加させたかったのではないか……。
 
不器用で浅はかな考えに心底うんざりしつつも、あの時の母の心情を考えると全否定はできない。
どん底の暮らしとはどういうものなのか、それでも何が何でも子どもを育てていかなければならないとはどんなものなのか……
あのからっぽの箱の中に詰め込まれていたものは、母からの全身全霊のメッセージだったのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2022-12-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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