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ウルルがエアーズロックだったころの話 


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記事:ますだみゆき  (ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
「アイポート、アイポート」
それが、私がオーストラリアで初めて聞いた英語だった。のちにアイポートが「空港」を
意味するエアポートだとわかる。
 
初めての海外旅行先であったオーストラリアは、行きたいところというより条件に適った
ところだったというのが正解だ。
ツアーに参加というスタイルではなく、なるべく長期滞在が安くできる方法を探していた。
当時、ワーキングホリデー制度が初めて日本ででき、その提携先がオーストラリアだったの
だ。初渡航ということで、エージェントを通してホームスティ先を紹介してもらっていた。
そこで家の手伝いをしてお小遣いをもらい滞在費に充てるという計画だった。
 
ワーキングホリデー制度は、二国間の協定に基づいて、最長1年間滞在を楽しみながら、
その間付随的に働くことが認められている。2022年現在、日本と協定を結んでいるのは
22か国だそうだ。
 
滞在先が決まっていること、その家族が空港まで迎えに来てくれることから、大きめのスーツケースと大きめのバックを用意して長期滞在に備えた。インターネットのない時代、「地球の歩き方」という個人旅行の情報本が唯一の頼りだった。今と違い、大手旅行会社のツアーでない個人旅行の情報はあまりなかった。「地球の歩き方」は、数か月して落ち着いてから旅行するときに参考にしようと思っていた。
 
まさか、その情報本が空港到着初日から役に立つことになるとは、そのときどうして想像できただろう。
 
手配してくれた航空券はシンガポール航空で、オーストラリアまで行きつくのに、台北、香港、シンガポール、そしてシドニーを経て、最終目的地メルボルンに到着するのが翌日の昼間という長い日程のものだった。
それぞれ空港に立ち寄るだけで飛行機から降りるものの入国はできない。それでもすべてが初体験の私には楽しみだった。飛び立つたびに出てくる機内食も四回とも平らげ、ゆっくり眠りにつきながらオーストラリアの朝を迎えるはずだった。
 
突然、大きく機体が揺れ出した。雷を伴った雲の中の飛行は、ジェットコースター並みのスリルだ。ところが調子づいて四食も食べた胃袋が悲鳴を上げた。シートベルトサインを無視し、向かった先はトイレだった。
 
シドニーに着くので座席にお戻りくださいのアナウンスまでの約一時間半、トイレの中で
過ごすはめになった。四食すべてが旅立ったおかげか、トランジェットの待合室に座った
ころはだいぶ回復していた。機内に戻って最後のフライトだ、さあ、いよいよオーストラリ
ア入りだ、と気分を取り戻しつつあったとき、私の名前がアナウンスされた。
前の方に行くと、スチュワーデス(当時)が封筒を渡してくれた。飛行機内で受け取る手紙は妙な気がした。いったいだれからだろう。
 
封を開けると一枚の便せんが入っていた。
ホームステイ先の家の人からだった。
 
「申し訳ないが、今日空港には迎えに行けません。実は息子が帰ってきたので、あなたに用意していた部屋が使えなくなりました。うちに滞在できなくなりましたので、エージェント会社に問い合わせ、他のステイ先を紹介してもらってください」
 
本来、当時のワーキングホリデーの趣旨は、観光で滞在している間、ちょっと滞在費の足しにすべくアルバイトをしてもいいよ、というものだったように思う。だから滞在先が決まってないのが本筋と言える。
途方に暮れた面持ちで座席に着くと、お待たせしましたとの放送とともに飛行機は最終目的地メルボルンへと離陸した。
この知らせが、せめてトランジェットで待っているときであったら、シドニーで降りるという選択肢があった。なぜならエージェント会社はシドニーにあるからだ。事務所に駆け込み直談判した方がよいし、もともとシドニーの方が滞在先は豊富だったのを、私はあえてメルボルンにしたのだった。
 
そんな思惑も雲の上の人となり、一路メルボルンに向かうしかなかった。
空港に到着すると、何の問題もなくスムーズに入国を果たした私の両手は、気軽に動ける荷造りからは程遠い大きめのスーツケースとバックで埋まっていた。
 
「さあ、今夜はどこに泊まろう……」
「二、三日待ってくれ」というのがエージェント会社の回答だ。実際はどうなるか?
そうだ、旅は始まっているのだ。こんなときこそ「地球の歩き方」だ。
だがまずは若者の定番ユースホステルがいいとの願いもむなしく、スーツケースを抱えバスでわざわざ行ったにもかかわらず泊まれず、結局本に載っていたホテルに宿泊することになった。
 
インターネットのない時代。
今では当たり前のメールやSNSではなく、滞在先のホテルにかかってくる電話だけが頼り
だった。いつともわからない連絡を待つなら、いっそシドニーまで行って直接話して
よりより条件の滞在先を紹介してもらえばよかったかもしれない。
でも、その時はどうしてもメルボルンでなんとかしたかった。多くの日本人がいるシドニ
でなく、このガーデンシティーと呼ばれる美しい街で過ごしてみたいと思っていた。
 
だがこの先、家の手伝いをしてお小遣いをもらえるホームスティはかなりの確率で
ケースバイケースだということを理解することになる。
 
2000文字を過ぎた。この辺にしよう。
続編「お小遣い付きホームステイは運次第」という滞在記は果たして日の目を見るのか?
 
 
 
 
***
 
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2022-12-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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