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メディアグランプリ

友人が食道癌で亡くなった。お葬式の日に灰皿を隠したのは、私です


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:やまの とこ (ライティング・ゼミ 12月コース)
 
 
「塚本、死んだって。葬式に行ってくるわ」
夫がそう言って、喪服を引っ張り出してきた。
 
塚本君から電話がきたのは1年前だった。
「とこちゃん オレ、がんかも知れない。病院どこがいい?」
某研究室付き秘書の私の情報網を頼って連絡してきたのだ。最近、胸やけがひどくなり、近所のクリニックで診てもらったら、大きい病院でがんの精密検査を受けるようにすすめられたとのこと。私は、一番近い「地域がん診療連携拠点病院」の一つを教えた。全国に配置されている厚労省の指定を受けた病院だ。専門医がそろっていて、医学学会のガイドラインにそった治療が受けられる。残念ながら、彼は、すでに緩和ケアの段階だったそうだ。40代のがんの進行は早かった。
 
塚本君と私たちは高校からの付き合いだ。タフで、病院とは無縁なタイプ。タバコはたくさん吸うし、強いお酒をショットでグイグイ飲むし、グツグツに煮えた激辛ラーメンが大好きだった。どこか愛嬌のある目をしていて、よく笑う優しい人だった。
 
そんな彼が、仕事も、年老いた両親も、いろいろとあった彼女とのことも、猫も、ギターも、車もおいて、逝ってしまった。
 
お葬式の帰り、いつものお店にみんなで集まった。
「逝っちまったのかよ。つまんねーなー」
「斎場でおふくろさん、かわいそうだったなぁ」
「半年前に集まれてよかったよ。あの時、あいつ楽しそうだった。ギターは相変わらずだったけど」
昔話を繰り返しながら、誰もが気が抜けたまま、タバコの煙をくゆらせる。まるで、さっきの葬儀のお焼香みたいだ。
 
高校の時から、ずっと、みんなはこんな感じで、学校近くのライブハウスに入り浸っていた。変わったのは、チャリンコが車になり、学校に行く代わりに仕事に行き、実家に帰る代わりに自分の家庭をもった。塚本君は、もう来ないけど。
 
この夜、私は「おひさしぶり」と、挨拶を装ってテーブルをわたり歩き、こっそりと灰皿を回収して、お店の外の階段下に隠した。今夜だけは、だれにもタバコを吸ってほしくなかった。それぞれの人生や生き方はリスペクトしているけれども、今晩のタバコの煙を我慢することはできなかった。
 
「がんにならない方法はありません……ですが、がんになる方法は、あります」
 
仕事で医療関連の講演会を企画した際、ゲストの消化器系がんの研究者は、そう語った。
実験室では、がん細胞がなければ、研究が始まらない。時には、意図的に実験動物やノーマルな細胞をがん化させるそうだ。長年の研究の蓄積から、がんの原因となる物質、遺伝子、生活習慣が、いくつもあきらかになってきているそうだ。
(興味のある方は検索を。ネット上のがん情報は、玉石混交のカオスなので、まずは信頼性が高い情報源の正式サイトをあたってください)
 
「平たく言えば、『生きていれば、いつかは、がんになる』そう考えてください」とおっしゃっていた。
 
しかし、希望はある。うまく共存していける方法があるそうだ。ありきたりだが、それは、早期発見、早期治療。生活習慣の見直し。すべてのがんが対象というわけではないが、早い段階でみつけて、治療をすれば、結構な確率で直せるらしい。
 
職場の健康診断に、オプションでがん検診が付いていることはないだろうか。乳がん・子宮がん・胃がん・肺がん・大腸がん、発症のリスクが高まる年代では、保険組合や、市町村から何かしらの案内が届くはずだ。それは、早期発見のチャンスだ。
 
日本のがん検診は任意だ。それ自体に強制力はない。たとえがん検診を一度も受けていないからといって、医療保険に入れなかったり、保険料が別料金だったりはしないはずだ。生活習慣にいたっては、見直し云々言われても、日々のスタイルそのものだから、どのように暮らすかは、喫煙しかり、食生活しかり、それぞれの価値観によるところだ。つまり、がんのリスクを取るも取らないも任意なのだ。
 
ここで、一旦立ち止まって考えたい。
人生で、やりっぱなしのこと、これからの計画、あとに残すものの大きさ。それを踏まえて、それらと、検診を受けない理由や、習慣を変えない信条とを天秤にかけてみる。周りのことも、少し考えに入れながら。
 
夫がタバコをやめた。私が何度言ってもはぶらかしていたのに、子供たちの「やめたら」の一言で、吸わなくなった。夫なりに自分の命の重さを再確認したのだという。
 
例えば、がん検診を定期的に受け、早期治療や習慣の見直しで、自分の人生に、健康な期間が10年追加されるとする。10年の持つ意義は計り知れない。だったら、チャンスを無視して、あえてリスクを取らなくても良いのではないか。
 
生前、塚本君に聞いたことがある。
「塚本君、タバコやめたら?」
「わりぃ、わりぃ、そっちに煙がいったか」
ケムくて、聞いたんじゃないのに。自分のことはさておいて、吐き出した煙のゆくえだけを気にしてたんだなぁ……
 
「あれ、灰皿ねーぞ」
そろそろ耐えられなくなった友人たちが、灰皿を探し始めた。
「吸いたかったら、お店の外にいったら」
しらばっくれて、私が答える。誰が隠したのかは、察しているはずだが、だれからも文句は出なかった。
 
なぜ今日は灰皿がないのか、みんなは、わかってくれていると思う。言葉にはださないが、それぞれがタバコの煙のゆくえをしばし考えているはずだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-12-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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