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心躍るのは、南国の夜の星空の輝きか、それとも都会の夜のネオンの輝きか

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記事:沖ノ島大輔 (ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
南国の夜の星空の輝きと、都会の夜のネオンの輝き。
 
同じ輝きであるが、今のあなたはどちらに心躍る気持ちになるだろうか。
 
私は間違いなく、都会の夜のネオンの輝きに心が躍る。
 
その理由は、約30年前の昔話にある。
 
私は学生時代、ヨット部に所属し、このまま海のそばでずっと暮らしていきたい、と真剣にリゾート就職を視野に入れていた。しかし、大学まで出してくれた両親を安心させたい思いと、新卒の就活は一生に一度というチャンスであることから、諦めて卒業後はサラリーマンになった。
 
仕事もそつなくこなし、上司や同僚にも可愛がられ、特に不満もない日々。毎日スーツを着て、毎日満員電車にゆられ、毎日飲み会で終電という単調に過ごしていたある日、私の目に飛び込んできたダイビング雑誌の求人広告。
 
「最後の楽園!タヒチで黒真珠養殖スタッフを急募! 」
 
なんと!
 
憧れの南の島=タヒチと言っても過言ではないほどの南国リゾートの代表格。
海好きな私は、ハワイ、グアム、セブ島、バリ島などのリゾートを旅していたが、それを上回る最上級の場所で暮らせる夢のような話。
 
ノリと軽い気持ちで応募したら、トントン拍子に話は進み、私の人生はジェットコースターのように変わっていった。
 
応募したのが、1月。
採用が決まったのが2月。
慌てて辞表を出して、退職したのが3月。
フランス大使館からの就労ビザの発行を待って、4月末にはタヒチの地へ。
 
今でも忘れることはできない。
 
初めて見たタヒチの夜空の美しさ!
 
満天に輝く星空、水面に揺れる月明かり、心地よく吹く風、椰子の木の葉が揺れる音。
 
ゴーギャンが愛する島、最後の楽園という言葉がぴったりの光景。
 
想像を遥かに超えた光景に、何もかもが解き放たれ、心も体も経験したことない震えるほどの感動だった。この環境に身を置ける喜び、幸せを噛み締めていた。
 
ところがだ。
 
この感動は長続きしなかったのだ。
 
ここでの仕事もそつなくこなし、上司や同僚にも可愛がられ、報酬も高く、不満はなかった。毎朝輝く朝日を浴びて、毎日黒蝶貝に核入れをし、毎週色鮮やかな海に潜って、毎晩美しい夜空を眺める幸せを手に入れた。なのに、何かが満たされない。
 
そう、足りていなかったもの。
 
それは、大切な人の温もり。
 
私の働く養殖場は、空港から飛行機を乗り継ぎさらにボートで30分のところにあるいわゆる無人島。
 
そこには、私のように住み込みで働く技術者数人しかおらず、現地スタッフはボートでその養殖場に毎日通勤しているため、本当に数人のコミュニティしかない。
 
インターネットも、スマホもない時代。
唯一の通信手段は、電話とFAXと手紙。
 
当時の国際電話は通信料が高かったため、友人、家族、恋人とのやり取りは、週に一便しかない飛行機に乗って毎週水曜日に運ばれてくる手紙のみ。
 
はじめのうちは、書くことも読むことも楽しかった手紙も、そのうちネタもなくなり、数も減っていき。
もちろん、娯楽はない。店すらもない。
 
タヒチでの暮らしは、食事、生活物資、住居は支給されるので、生活の心配はない。
出かける必要というより、出かける場所がないので、おしゃれをする必要もない。
バリカンで坊主頭にすれば洗髪も簡単だし、水着にTシャツ、ビーチサンダルなので、お金を使う必要がない、というより使い道がない。
 
年に2度、1か月と2か月の有給休暇には、全く手つかずに振り込まれる給料の総額に唖然とした。
 
給料日前になると、調整をしなくてはいけないサラリーマン時代では考えられないほどに増えている口座残高。それに比例して、休暇の度に感じるお金が使えることの喜び、人と会えることの喜び、触れ合うことの喜び、喜びを分かち合える喜びが増えていく。
 
そして喜びに満ち溢れた休暇を終え、口座残高は減り、またタヒチへと向かう。
 
その繰り返しをしていくうちに、私はタヒチに行くことが刑務所へ行くかのような感覚になってきた。
 
そこで、知った。
外に出て気づいた。
 
日々当たり前と思うことが、当たり前ではないということを。
 
一年半でタヒチでの仕事はやめた。
 
結局、ないものねだりをしても満たされないということを体感した。
 
そんな気持ちで帰国した私は、その反動もあり、大恋愛をし、子供にも恵まれ、当たり前の日常をとっておきの日常に変える術を身につけた。おかげで今は、不満もなく心穏やかに暮らしている。
 
この経験がなければ、いまだに南の島への憧れが消えなかったり、何かに満たされない日々がずっと続いていただろう。
 
タヒチの夜空の星の輝きより、新宿の夜のネオンの輝きの方が、飽きずに心躍ることにも気がつかなかっただろう。
 
そして人との関わりは苦しいこともあるが、人との関わりがないことの方が苦しいということにも気がつかなかっただろう。
 
最後に、あらためて。
 
南国の夜の星空の輝きと、都会の夜のネオンの輝き。
 
同じ輝きであるが、今のあなたはどちらに心躍る気持ちになるだろうか。
 
 
 
 
***
 
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2022-12-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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