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背中のラクダに必要なのは、週2回のオアシスなのかもしれない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大村沙織(ライティング実践教室)
 
 
12月の足音が聞こえ始める頃、唐突にラクダがやってくる。
「冬にラクダ?」と思われることだろう。
しかし彼は文字通り背後から襲撃し、本格的な冬の訪れを告げ、勝負を挑んでくる。
毎年思うのだ、「今年こそは負けてなるものか!」と。
残念なことに、ラクダにはまだ一度たりとも勝てたことはない。
でも今年は違う。
勝利の方程式をこの手に掴みかけている手応えが、確かにある―。
 
「……これはひどいですね」
私のかさついた背中を指先で軽く撫でながら、彼女は言った。うつ伏せだから表情は分からないが、きっと今、彼女は困った顔をしているだろう。次に続く言葉も予想できた。
「この状態だと、今日のお手入れは難しそうです」
予期していたとはいえ、面と向かって言われるとやはりショックだった。しかし自業自得なので仕方ない。
「そうですか……じゃあ肌状態の悪い部分は避けていただけますか?」
「かしこまりました。背中上以外の部分にはライトをあてていきますね」
女性―脱毛サロンのスタッフとの間で、冬の施術時に繰り返されているやり取りだ。
光脱毛のライトは毛根のメラニン色素に反応する。傷だらけの肌にライトを照射しようものなら、傷の色に反応して却って肌を傷つけてしまうかもしれない。お客に対してリスクを取るくらいなら、最初から肌にライトをあてない。店としては正しい判断だと思う。しかし胸の中は「この冬も背中だけお手入れしてもらえなかった」という悔しい思いでいっぱいだった。
 
水泳で肌を露出する機会も多いし、せっかくなのでやっておこうと、全身脱毛を始めて3年弱。長いこと通っているおかげで、広告の「つるスベ肌」にかなり近づいている方だと思う。サロンに行くと肌の状態確認から施術が始まるのだが、9割方「肌きれいですね!」と褒められる。
だが冬だけは別だ。家、会社、電車―様々な場所で暖房という文明の利器が、体から水分を奪いにかかってくるからだ。その威力には高保湿クリームでも太刀打ちできず、冬の肌は一気に砂漠化が進む。
 
プールに行けば乾燥とは無縁に思われがちだが、プールも味方とは言えない。プールの水に含まれる塩素などの消毒成分が刺激となって、砂漠化した肌を逆に痛めてしまう場合もある。そのため冬場のプール後の入浴では、体にプールの水を残さないようにしっかり落とさなければならない。洗い落としが甘いと、肌が痒くなってくる。
 
特にケアが難しいのが背中の上側だ。保湿クリームがあっても、一人暮らしだと誰かに塗ってもらうこともできない。そのため一番傷みやすい場所になり、痒みに耐え切れずかいた結果傷だらけ、がさがさになってしまうことも珍しくはない。あまりに過酷な環境なので、自分の背中にはラクダが住み着いてもおかしくないと思っている。ラクダに背中で越冬させないために、冬ごとに様々なアイテムを導入してきた。入浴剤、スポンジ、ボディーソープ……ただどれも効果が薄く、背中のラクダ撃退には至っていなかった。
 
 
だが今年の冬は一味違う。ラクダは出現しているが、旗色は極めて良い。
 
大事なのは「湯船にお湯をはってしっかり浸かる」こと。
 
簡単なことで、思わず拍子抜けした方もいるかもしれない。だが今のところ効果は抜群だ。
これまで私は家でのお風呂はシャワーで済ませていた。プールに行った日は家のお風呂には入らないし、家で入ることはあっても「自分のためだけにお風呂を入れるのは贅沢」と湯船にお湯を溜めることを怠ってきた。
しかし12月初旬のある夜。たまには良いかと、湯船にお湯をはった。ゆっくり浸かっていたとき、ふと気づいた。
昼間の仕事中にピリピリしていた背中の痒みが、あまり気にならなくなっていたことに。集中力を削ぐほどの痒みが収まっていたことに、軽い衝撃を受けた。
その後お風呂から出て、いつもの保湿クリームと背中向けの美容液を届く範囲で塗っている最中にも痒くならなかった。シャワーだけの日は寝るまでの間に複数回は背中が痒くてかいてしまうが、この日は寝るまでに痒みが出なかった。
 
「入浴中に刺激成分が洗い流されて、痒みがなくなるのかな?」
 
そう仮説を立てて、以降週2回は家で湯船にお湯をはり、入浴する日を作ってみた。
そうすると痒みの出るときはあるものの、去年の同じ時期と比べてはるかに背中の砂漠化は落ち着いている。がさがさにもなっていないし、粉も吹いていない。
更にお風呂に浸かることで芯から温まって眠りも深くなるし、デジタルデトックスにもなって良いことづくめだ。
 
何より、自分の体と向き合う時間が増えた。
背中の肌の調子だけではない。
立ちっぱなしで仕事をした日には足をもんだり、だるい日には湯船の中でリンパを流すマッサージをしてあげる。
体が求めているケアをすることで、自身を大切にできていると実感できて、満足感が増す。自己肯定感も上がって、精神も安定する。実際、何かとバタバタしがちな年末だが、落ち着いて仕事をこなせている気がしている。
 
 
ラクダは砂漠という厳しい環境でも生き抜けるよう、コブの脂肪をはじめとした独自の特徴を有している。しかしラクダには、やはりオアシスが必要なのだ。週2回のオアシスの有効性の検証は、春まで続くことになる。しかしオアシスがもたらしてくれるものの大きさを考えると、きっと有効であると信じて疑わない。
 
 
何かとせわしない年末年始。だからこそ、あなたの背中にラクダが住んでいようといまいと、ゆったりオアシスという名のお風呂に浸かってみてはいかがだろうか? 思いもしない収穫が得られるかもしれませんよ……。
 
 
 
 
***
 
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2022-12-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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