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やることすべてが裏目に出て、嫌われた話


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田盛稚佳子(ライティング実践教室)
 
 
九州生まれ、九州育ちの私は冬が超苦手だ。すこぶる寒さに弱い。
会社に行く時も、どちらにお住まいですか? というくらい着込んで出かける。
ヒートテックを着て、貼るカイロを腰や背中にベタベタ貼る。
足元は110デニールのタイツを履いて、さらにハイソックスまで履く。
タートルネックを着て、隙間から風が入らないようなぴったりとしたレギンスパンツに足を入れる。上にはダウンジャケットを羽織り、マフラーをぐるぐる巻き、ニット帽で耳まで隠す。手袋をはめたら完成だ。ぱっと見、スキー場のスタッフと言っても過言でない。
「完璧だわ」
鏡の前でニヤリとしてから会社へ向かうのが日常だ。
おそらく寒さに強い方や雪国生まれの人から見たら、なんなんだあれは!? と指をさされて笑われても仕方ないほどの完全フル装備である。
 
しかし、そんな私でも冬にほぼ丸腰になる時間がある。
それは……、猫と同じ布団で寝る時間である。
飼い猫が布団にもぐり込んでくる時間は、たまらなく愛おしい。
猫を飼った経験のある方であれば、あのとんでもない幸福感を誰でも一度は味わったことがあるはずであろう。
ふかっふかで、ほわっほわで、お腹の辺りでくるんと丸まって寝る姿は、まさに「アンモニャイト」と言ってよい。
ぐるぐるとノドを鳴らしながら、気持ちよさそうに寝てくれる姿を見ると、
「あぁ、かわいい子だね。おお、よしよし」
と自分が産んだわけでもないのに、つい母親気どりをしてしまうから不思議である。
 
彼らの体温は我々人間よりも高い。
平熱で38~39℃前後と言われている。だから布団の中に入ってくると、一晩中、冷めない湯たんぽがいる感覚である。
その温かい身体にそっと触れ、優しく撫でているとさらに嬉しそうにノドを鳴らす。
お互いに暖を取ることができるWin-Winな関係なのである。
 
しかし、今年は思わぬ出来事が起きた。
6歳になったわが家の猫がまったく布団に入ってくれなくなったのだ。
母親の布団にはしょっちゅう「入れてくれ~」と甘えながら入って行くというのに、私のところは素通りである。
なんてことだ! 猫が来てくれないなんて!
もしや、私の足が臭いのか? 脇の辺りが匂うのか? それとも頭のニオイが気に入らないのか? 気になって自分を匂いまくってみた。
いやいや、ちゃんと毎日お風呂に入っているし、髪も洗っている。嫌われることはないはず……だった。
原因が見つからないまま、今年一番の寒波を迎えようとしていた。
よし、いろいろ試してみるか! 一緒に寝たいがために、ない知恵を精一杯しぼり出す。
まずは、とびきり美味しいおやつを買って布団の周りにおびき寄せてみた。
ちょっと目を離した隙に、サッとおやつだけ取って逃げて行った。
 
今度は彼女の好きそうな鳥の「けりぐるみ」を買ってみた。
「けりぐるみ」とは、布製の魚や鳥の形をしたおもちゃで、猫が前足でつかんで後ろ足を使い全力で蹴って遊ぶおもちゃである。本来、狩猟本能の高い猫には人気である。
しかし「この鳥、ワタシの好みじゃない」と一回だけ遊んで放置された。
おまけに、なぜか私の右手が「けりぐるみ」代わりになってしまい、毎日生傷が絶えずに血だらけで出社するはめになった。
全力で蹴られるのは、右手のちょうど手首の部分。知らない人が見るとリストカット繰り返しているようにも見える。
「病気でもないし、自殺願望があるわけでもありません」と何度弁明したことやら。
 
次に思いついたのは、同化することだった。猫のようにふかふかしたニットを着ていたら、仲間だと思って寄って来てくれるかもしれない。
今年流行のふんわりニットを着たものの、初日に爪を引っ掛けられ、本来は出ないはずの裏糸が出てきてしまった。うーむ、新品をどうしてくれよう。
 
最後に考えたのは、ジェラシーでおびき寄せる作戦だった。
私がふかふかしたものを抱いて寝ていたら、「誰かが私の寝床に入ってる。悔しい!」とヤキモチを焼いて入ってきてくれるのではないかと思ったのだ。
そこで買ってきたのが、ハシビロコウのぬいぐるみだった。
ちなみにハシビロコウとは、ペリカンの仲間であり、つぶらな瞳と大きなくちばしが特徴的な近年人気のある鳥である。動物園では「なかなか動かない鳥」とも言われ、「絶滅危惧種」にも指定されている。
実は以前からそのぬいぐるみを見かけて、その滑らかな肌ざわりとかわいらしい見た目にキュンとしていた私。
これを抱いている姿を見たら、猫もちょっとヤキモチを焼いて「ちょっと! 私の寝床に入らないでよ!」と来てくれるはずだ。
意気揚々とハシビロコウのぬいぐるみを抱えて、「ただいまー!」と猫に声をかけた。
「アンタ、誰!?」
と言わんばかりに目を見開いて、猫が睨みつけている。しばらく睨みつけてプイッとそっぽを向いた。おっ!? ヤキモチ焼いてくれてんじゃないの?
私は期待を胸にその日はいつもより早く風呂に入り、念入りに寝る準備をした。
いつでも猫が入れるほどのスペースを空け、ふかふかのハシビロコウを抱いて布団に入った。猫はチラッとこちらを見たが、入る気配がない。結局、私だけが早々に寝てしまった。
 
真夜中にチリンと鈴の音がした。ついに来たわね。待ってたよ、と構えた瞬間。
「ウニャァァーン!!(先客がいるじゃないのよ! 何なのよ、この鳥!)」と激怒した彼女は部屋からダッシュで出て行ってしまい、とうとう朝まで部屋に帰ってきてくれなかった。
作戦はすべて失敗に終わった。
わが家の猫が私の布団に入ってくれる道のりは……遠い。
 
 
 
 
***
 
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