メディアグランプリ

渋谷で出会った女子高生が私の母になった


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記事:小野汐里(ライティング・ゼミ京都会場)
 
 
「私があなたの東京のお母さんになってあげる!」
16歳の私にそう言い放った彼女もまた、16歳の女子高生だった。
これはそんな彼女との話。
 
小さな島出身の私は、コンビニも、ファーストフード店やファミリーレストランも、進学塾もない田舎で海と山に囲まれて育った。中学卒業後、同級生のほとんどは島内の高校へ進学するが、私は親元を離れて都内の進学校へ進むことになった。
 
その高校はなんと渋谷区神宮前にあった。泣く子も黙る日本の超一等地である。
当時は学区制度があり、主に周辺地域の子どもたちが通っていたので、自宅が世田谷・渋谷・新宿・目黒にあるという生徒たち(私のように学区外からの生徒も一部いた)。とにかく賢く、快活で、ユーモアのある人が多かったが、都会育ちを鼻にかけることもなかった。それでも、一緒にいれば品がよく、育ちの良さがわかった。
 
高校から近いアイスクリームショップはハーゲンダッツカフェ青山。外苑銀杏並木を散歩し、授業が早く終わった日はぶらぶら歩いて表参道や原宿へ。入学してすぐ同級生が企画したクラス会は、246沿いの商業ビルのイタリアンビュッフェだったように思う。
東京を目指す人の夢を現実にしたような高校生活がそこにはあった。
 
一方、同級生が私をみて呼んだニックネームは「少年」だった。
日焼けしていて、髪型はショートカット、私服はジーパンとTシャツ。出立ちが少年っぽかったのだと思う。街中で珍しいものに驚き、キョロキョロしている姿も、少年っぽかったのかもしれない。
 
私は、魚の種類や山菜の取り方には詳しかったし、ビーチグラスも集めるのが早いし、シュノーケリングやボディボードもできた。海で食べられるもの、食べられないものがわかった。離岸流に流されてもパニックにならず安全に沖から岸に戻る方法も知っていた。磯を飛ぶように移動できた。
でも、都会の生活を知らなかった。
 
カフェに入りスマートに注文する同級生に恐る恐るついていき、見よう見まねで注文した。
満員電車に乗るのも、切符を買うのも一苦労。5000円入れて券売機からお釣りをとり忘れ、慌てて駅まで戻り授業に遅刻したこともあった。
都内の高校は授業のレベルが高かった。これまでずっと地元の中学では上位だったのに、赤点をとり順位は下から数えた方がはやくなった。
下宿先に帰れば、洗濯を干し、寮の食事がない週末は慣れないファーストフードやレトルトを食べた。
せっかく親から仕送りをもらって進学しているのだから、なんでも経験してやると、張り切っていた。表面上はとてもうまく行っていた。
どの体験も新鮮でワクワクしたが、気を張っていたのかもしれない。
 
ある日、張り詰めていた気持ちが切れて、授業中に涙が止まらなくなった。
 
下宿して通っている生徒は珍しかったので、教師はよく私を気にかけてくれ、察してくれたが、クラスメイトたちは混乱していた。
「お腹が痛いの?!」
何人かの女子が声をかけてくれたが、口をパクパクするだけで声が言葉にならなかった。
「先生、泣いてます」
高校生にもなって、言葉も話せないほどボロボロ泣いている姿を見て、クラスメートたちはとても驚いたようだった。
そんな時に女子生徒の1人がこう言ったのだ。
「大丈夫? 私があなたの東京のお母さんになってあげるからね!」
「……ありがとう……」
その言葉通り、高校生活の間、ずっと彼女は私のことを気にかけてくれ、親友になった。
 
そんな彼女のニックネームの1つは「ママ」。高校生とは思えない包容力から、そのニックネームが妙にしっくりきた。
彼女を筆頭によき友人に恵まれ、心も安定したせいか、面白いほど成績が伸びた。はじめは授業を理解するのもやっとだったが、卒業前には上位に食い込めるようになった。そして、都内の大学を受験することに決めた。
 
しかし親友である「ママ」は私に進路のことを一切教えてくれなかった。
聞いてもはぐらかされていた。彼女には幼少から続けているアートスキルがあったから、そちらに進むのだろうとは予想していた。その業界について私は知らない。相談相手になれないから知らされないのだろうと考え、しつこく聞くこともしなかった。
 
そして、卒業を目前にした春。私が第一志望の大学に合格し、報告すると心から嬉しそうに彼女は祝ってくれた。
「私は、◯◯の大学に行くの」
海外だった。日本から、かなり遠い。彼女が遠くに行くなんて、思ってもないことだった。
「相談したら、あなたは寂しくなって勉強に集中できなくなると思って」
 
自分も16歳で上京したから少しはわかる。さらに海外である。高校生の彼女がひとりで海外に行く決断をするのは、どれだけ勇気のいることか。
それでも相談せず、私の受験に向けたメンタルを重視していた。彼女は、最後まで私の「東京の母」だった。
 
今月、彼女と東京で会う予定。あの春から約20年、私は今や4人の母になった。彼女の包容力に近づいているかは、なんとも言えない。
 
 
 
 
***
 
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2023-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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