泥水を美味しく啜る方法
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:千々岩 康治(ライティング・ライブ福岡会場)
「今の状態じゃ100回受けても落ちますよ。お金と時間と努力の無駄だから試験は受けない方がいいですね」
私はこの一言にカチンときた。
社会人5年目の頃、国家資格に挑戦していた。上級資格に挑戦中だった。中級の方は2年前に合格している。
中級資格は正直勉強をほとんどしていなかった。ただ何となく受験しなんとなく合格していた。
この分なら上級も楽勝だろうと高を括っていたが………。
合格できない。
かすりもしなかった。渾身の勉強でもとても太刀打ちできなかった。
さすがエリート志向で考えの合わない上司が自慢げに振り回すだけの事はある。
私は非常に焦った。この程度の人間と思われるのは非常に癪に障る。
そして何よりタイムリミットが迫っている。
それは先に試験に合格した先輩たちはみな口を揃えてこう言っていたからだ。
「この試験。3回以上受験して合格した人は見たことない。」
実際そうだった。合格した先輩はみな3回以内に合格している。同じ職場には10回近く受験して不合格の人もいた。
私は2回受験している……。そして今回が3回目。文字通り崖っぷちだった。今回不合格になれば一生合格できない。私にとって死刑宣告にも等しい。このまま安月給で一生地べたを這いずり回らなければならない。それだけは絶対に避けたかった。
だが自分が合格できるヴィジョンが見えない。
私は最終手段を使った。先輩に泣きついて研修会を紹介してもらったのだ。
所謂「試験合格」の方法を教えてくれる研修会だ。
1日6時間・計5日間の長丁場だ。
1日目、研修が終わった。帰り際講師の人に呼び止められた。
「全然笑えてないでですね。勉強楽しくないでしょう? 」
え? 何言ってるのこの人? 勉強なんて楽しくないに決まっている。
そして講師はこう言ったのだ。
「今の状態じゃ100回受けても落ちますよ。お金と時間と努力の無駄だから試験は受けない方がいいですね」
私はこの一言にカチンときた。
「合格したいなら嘘でもいいから笑顔で勉強した方がいいですよ。」
続けて講師はこう言った。素直に飲みこめない。
本音を言うと「自分は合格できているから偉そうに上から目線で物事が言えるのだ」
こう感じていた。
だいたい「笑顔で勉強する」こんな事で合格できるなら私はとっくの昔に合格しているはずだ。
私は憤慨していた。
後日休憩が一緒になった看護師長にこのことを愚痴っていた。
看護師長は普段はおおらかな人だ。
だが私の話を聞いて師長はすこし厳しい顔をしてこういったのだ。
「アンタなんの為に勉強しよんね? 資格に合格するためやろ?
試験に合格してるんだから講師の言いよる事は正しいんよ。上から目線もなにも試験合格していない人よりしてる人の方が偉いに決まっとろうもん。だけん他の人より給料が優遇されてるんやろう?
プライド捨てて泥水啜る覚悟がある人にしか試験は合格できんよ。
言う事聞くかどうかはアンタの自由やろうけど………
いう事聞ききらんなら研修とかも時間の無駄やけん私も行かなくてもいいと思うわよ。」
師長の言っていることはもっともだった。講師の言わんとしていることも本当は理解していた。ただ図星を突かれて不貞腐れていた。そして結果のみを求める姿勢がなんとなく「下品」に感じたのだ。ただただこれだけだったのだ。
だが資格については試験合格が正義だ。不合格の私がどんなに下品だなんだと「ご高説」を垂れ流しても結局は負け犬の遠吠えになる。
私はプライドを捨てて講師の言われたとおりに勉強をおこなう行うことにした。
他に方法がないからだ。
だが正直「笑顔で勉強する」たったこれだけで試験に合格できるとは到底思えなかった。
時は流れ5か月後。
なんと私は
試験に合格していた。
正直信じられなかった。だが同時に試験に合格するヴィジョンが見えていた。
勉強を始めて1か月前後から本当に少しずつ「勉強」が楽しくなってきたのだ。
そして講師の言わんとしている本当の意味を理解した。
文字通り「笑顔ではない・楽しんでいない」人間には合格は決してやってこない。
なぜか? 効率が段違いだからだ。
よく考えてみたらそりゃそうだ。趣味のテレビゲームのキャラクターやスポーツ選手の成績など複雑な数値も自然に覚える事が出来る。
冷静に考えると普通はそんなことは出来ない。なぜ出来るのか? それは自分が楽しんでいるからだ。余暇時間や趣味になると学習意欲は段違いだ。
楽しむことで
「今日は5分しか時間がないからもう勉強できないな」から
「今日はあと5分あるから教科書開くくらいはできるな」に自然に変わる。
勉強できない理由を探す姿勢から勉強できる理由を探すようになっていた。
講師は精神論的な部分ではなく合理的な面から私に楽しむように指導してくれていたのだ。
物事のとらえ方もすっかり変わっていた。
3回不合格のジンクスもどうでもよくなっていた。「今回落ちても次頑張ればいい」自然とそう思えるようになっていた。
割り切って不本意な「結果のみを求める姿勢」が自分にとって好ましい「行為を楽しむ自分」を引き出してくれていた。
ここまでさんざん偉そうなことを書いてきたが今でも私は勉強が苦しい。
「楽しみ」とは胸を張って言えない。
だがその苦しさを「苦痛なのか・楽しみなのか」を決めるのは自分なのである。私はこの経験で痛感した。
結局は自分の考え方一つなのである。
自分自身が変われば苦い泥水も「楽しむこと」で栄養たっぷりに美味しく啜る事ができるのだ。
***
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