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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:もじゃりーまん(ライティングゼミ12月コース)
 
 
人生の出来事にすべて意味があるとすれば、これはどんな意味があるのだろうか?
 
3年前、妻の父親が倒れて入院した。 その時にこんなことを考えたことを振り返ってみる。
 
当時ですでに80歳を超えていたので、ある程度いろいろあるのは想定の範囲内なのだろう。それまで大きな病気などはなかったので、突然のことであり、病院へ入院した後ほどなくして意識は戻ったが、どうにも様子はおかしいまま。
時折記憶障害のために会話がかみ合わなかったり、空間などの認識ができない状態となり、常に介助が必要な生活に支障をきたす状態となる。
診断としては脳の血管が細くなっていて、そのために脳機能に障害が出ているため、それからくる認知症の症状が出ているということだった。
 
 
認知症、いわゆる「ボケ」 という症状なのだが、長寿の人の終末期には当たり前のように訪れる事柄でもあり、その家族には介護のために大きな負担がかかることも多い。
何のためにそのような苦労を強いられるのか?何かしらの意味を見出したいとその時に考えた。
 
それぞれの生活を営んでいる兄弟、親族が、再び集まる(リユニオン)の機会を与えてくれているのではないかと……
 
 
家族の努力の甲斐あって、この3年間義父は幸せな日々を送れたのではないか? 妻や義母にとっても、介護を通じてこれまで以上の時間を共有し人生を総括するための十分な時間を得られたのではないかと思う。
 
 
 
 
倒れたときも、幸いなことに命に別状はなく、しかしながら日常生活に困難をきたすためしばらくは入院生活が続く。 肉体的には元気なこともあり、状況が認知できずに不機嫌になり、うろうろしてしまうことがあるほか、点滴なども勝手に抜いてしまうため、普段はベッドから離れないように拘束されてしまうことになった。
看護師さんも手を焼いていたと思われるので仕方のないことだが、家族が付き添っていれば意思の疎通もできるし、拘束も解いてあげられるので病院の面会時間の間は、義母と妻兄姉とで交代で付き添うことになる。
 
 
最初に入ったのが大学病院であったので、しばらくすると近所の病院に転院することになり、またそのころ新型コロナウイルス感染症の流行も始まり、面会もままならなくなってきた。
 
そんな中、一日中ベッドに縛り付けられているようでは義父どんどん認知症が悪化してしまうし、何よりかわいそうだということで、義姉の提案で在宅介護に踏み切る。
当時自分は一旦は反対したのを覚えている。自分の祖母も在宅で介護していたのだが、すでに現役を引退している両親や親戚が交替で対応していて何とかなっている印象だったため、義母と仕事を持ちながらの子供たちでは、無理なのではないかと考えたためだ。
 
 
「(自分たちの手で介護するのは)もって半年だと思う」
「やるだけやってみて、ダメだったら入院してもらうしかない、その時には二度と人間らしくは扱ってもらえないと覚悟するしかない」
介護を専門職としている義姉もその覚悟をもって臨んでいた。今振り返っても英断だったと思う。
 
 
こうして、コロナ真っただ中に始まった妻とその家族の介護生活は、悲壮感でいっぱいになるかと思いきや、不思議とそうはならなかった。もちろん、最初はいろいろと苦労もあったし、うまくいかないこともあったようだが、都合よくデイサービスの受け入れ先もあり浴してもらえたのはありがたかった。
 
 
毎週末、実家に泊まりに行くので、帰ってくると疲れて機嫌も悪くなっているのだろうと気にかけて、
「たいへんじゃないの? 大丈夫?」
と問いかけても
「いろいろ話ができて楽しいよ。今日はどんな話を引き出してみようかと思って毎回行っているよ」
と、あっけらかんと返してくる
 
 
元々口数が少ないが、穏やかな性格だった義父なので、
多少混濁しながらも、むかしの話を今のことのように楽しそうに話してくれるらしい、
そうして、傍目には噛み合わない会話や、面倒な身の回りの世話も、本人たちにとっては日常の時間を超えて新たな発見、理解につながるかけがえのない時間だったのだろう。
 
 
人生のゴールを迎える義父には、最後に愛する家族に囲まれて過ごせる時間を、
その家族には、最後まで穏やかににこにこ笑いながら話している義父の姿を、
お互いにプレゼントしてあげられたのだとしたら、ちょっとくらい、もしかしたらそんなに簡単ではないかもしれないけど、苦労したことも意味のあることだったに違いない。
義父の笑顔を取り戻すために、かつての家族が力を合わせて過ごした、素敵な時間だったのだろうと思う。
 
 
半年が限界……といっていたころから3年、いまだにコロナは終息したとはいえず、あのまま入院していたらここまで持ってはいなかっただろう。
そんな義父も、また体調を崩し、いまは入院している。
もし何かあった時は、延命措置はせずに、静かに看取ると家族で決めたそうだ。
 
 
 
 
介護は大変というのは、世の中の通説であるし実際楽なことではないのだろうが、その中でも少しでも意味を見出せるのであれば、決して苦悩にあふれる時間ではなく、笑顔で送り出してあげられるために必要な手続なのではないかと、いまは思っている。
 
自分も最後にはそうやって送ってもらいたいし、まだ健全な両親にも同じように接してみたい。そんな素敵な家族のあり方を見せてもらったことに感謝している。
 
 
 
 
***
 
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2023-02-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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