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20代女子がおじさんだらけの都市対抗野球に通い詰めるワケ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:南雲小夜花(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
「あ、決めた。大学卒業したら私、◯◯◯◯◯になりたい」。
東京ドームの三塁側は、ちょうど応援歌が爆音で流れていた。就職活動を半年後に控えた私がなりたいものを見つけたのは、都市対抗野球大会2回戦のことだった。
 
都市対抗野球大会とは「大人の甲子園」だ。全国各地の予選を勝ち抜いた社会人野球チームが日本一を決める。出場する多くのチームは企業が持っている野球部で、社員として選手を雇用している。例えば東芝、HONDA、日立製作所なんかは聞いたことのある社名だと思う。こうしたチームが年に一度東京ドームに会し、日本一を決めるのが都市対抗野球大会だ。
 
私はこの大会を人におすすめする時、「野球経験や観戦したことがなくても足を運びやすいよ」と言っている。プロ野球と遜色ない白熱した展開ばかりだし、今後プロ野球選手になる可能性を秘めている、いわゆる金の卵もわんさかだ。それをプロ野球よりもお財布に優しい価格でじっくり見れちゃう。どう? この待遇を聞いたあなたもちょっとだけ気になってきたのではないだろうか。
 
そして何より、応援が楽しい。別に応援歌を歌えなくたっていいし、むしろ都市対抗の応援は、“観る・聴く”方がメインと言っても過言じゃない。各企業チームの応援団はそれぞれ特色のある応援で盛り上げていて、例えばJR系列では「勝利への進行確認〜!」と、駅のホームでよく見る確認ポーズを盛り込んでいる。また、オーロラビジョンで流れる応援動画も注目だ。作業服のおっちゃんとか、同じ部署であろうワイシャツの集団たちが手作りの横断幕を持って「◯◯君、がんばれ〜〜!」と叫ぶのだ。
 
こういう応援を観ていると、ふと気付く。この球場にいる人はみんな特別な存在じゃないということに。甲子園で優勝してようが、社名を背負ってプレーしてようが、目一杯声を張り上げていようが、選手たちも応援団もみんな、平日は普通の社会人なんだなって。応援を通じて気づけば会場にいるみんなが身近な存在になっていて、思わず「がんばれ!」と口に出している。知らず知らずのうちに、共感のマジックにかかっているのだ。前後左右、観客のほとんどが見知らぬおじさんだけど、点が入れば誰彼構わずみんながハイタッチしあうし、売り子のお姉ちゃんからビールを買えば乾杯をする。いや、したくなる。グラウンドとスタンドとを緩やかにつなげる応援という名の共感マジックこそ、都市対抗野球の大きな魅力なのだ。
 
このマジックにどっぷり浸かりまくっていた私は、この日も就活とか大学の単位そっちのけで東京ドームへ足を運んでいた。この頃、もはやスタンドで応援を“観る・聴く”だけじゃ物足りなくなっていた私は、応援を作り出す側になれないか必死に考えていた。グラウンドに立つことができたなら、わあっと盛り上がる声援を目一杯楽しむことができるんじゃないか。欲まみれの私はそんな考えに行き着いた。グラウンドを見渡し必死に頭を巡らす。どのポジションなら、今からでも狙えるのだろうか?と。
選手、監督。これは無理だ。だって野球やってないもん。
球団スタッフ。どの球団も男性だし未経験は厳しそう。
リハビリスタッフ。う〜ん専門学校に行けばギリ?
 
あとは……、マスコット。
……マスコット。そうだ、マスコットなら可能性がある!
 
この大会には、大会期間中、選手とともにベンチ内から声援を送ることが許されている「マスコット」という超特殊な存在がいる。ぴょこんとお辞儀。かわいい。スタンドからの声援に応えるように手をふりふり。かわいい。その愛くるしさと一挙手一投足で声援を浴び、大会を盛り上げる様子にうっとりしていたら、思わず「私、大学卒業したらマスコットになりたい」と心の声が溢れてしまった。就活を控えた大学生が何考えてるんだと思うかもしれないが、この時の私は大真面目にマスコットになる方法を考えていたのだ。
 
「え〜〜〜〜??? なんだって???」
私の口から漏れた願望に、隣に座るおじさんが耳を寄せてくる。塩むすびを擬人化したような、色白でほんわかした雰囲気のこのおじさんに向け、言い直す。
「わたし、マスコットになりたいんですー!」爆音の応援に負けないようにと、一音一音はっきりと声に出した。
おじさんはハハッと笑って言った。「そりゃあいい。マスコットになりたいなんて、なんだか線香花火みたいなこと言うなあ」。
 
……はあ? カチンときた。こちとら全力でなりたいと思ってるのに、なんだ線香花火って。無性に腹が立ち、グラウンドへ向き直してビールをグビリと飲み干した。応援していたチームは勝ったし、いい試合だった。楽しい観戦だったのに、正直あの一言のせいで応援を楽しめなかったのだ。
 
総武線に揺られながら窓の外を眺めながらふと考えた。線香花火みたいってどういう意味? 儚いものの例えとして用いられがちだけど、マスコットってそんな命からがらやるもんじゃない。あえて線香花火と表現したのはどうしてなんだろう。
 
ここで1つ、種明かしをしておきたい。読者の大多数は、「マスコット」と聞いてゆるキャラとか着ぐるみを思い浮かべてはいなかっただろうか。実は、都市対抗でいう「マスコット」は生身の女性。チームが所属する企業で働く特定の女性社員が、マネージャーとは別に任命される存在だ。だから、私がマスコットになるにはまずその会社に就職し、自分で立候補したり社内の人とのコネクションをバリバリ作ったりしてアピールし、選ばれる必要がある。まずもって野球部を持っている企業は大体が名の知れた大企業だから就職するという第一関門がめちゃくちゃ難しいし、なんなら顔面偏差値の問題もある。
総じて考えると、塩むすびおじさんの「線香花火みたい」という言葉は「あんな風に輝くなんて夢のまた夢じゃない? 現実見ようぜ?」ってことだったようだ。そのことに気づいた瞬間、つり革を掴む力が失せた。その一言はとても重かった。実際、その後の就活は難航した。野球の応援に関わる仕事ってだいぶ角度の高いことだったと、就活になってようやく理解したのだ。
 
 
社会人になって3年目。私は今も大会に通っている。そして、最近になって「線香花火」の例えの解釈を間違えていたことに気づいた。あれは「なれたとしても、一瞬じゃないか」という意味だったのではないか、と。
 
なりたい仕事に就くことはもちろん素晴らしいことだし、自分の信念を貫き通すことは本当にすごい。でも、職業は就いて終わりではない。なってからどうするのか、どんな結果を求めるかの方が社会においては大事なのだと、社会人になってから身に染みて分かるようになった。任期も短く、社会人生活で一度しかなれないマスコットを目指すのは安直じゃないか。大会中は綺麗に輝いたとしても、終わった後に君はどうするの。多分、おじさんなりの不器用でわかりにくい“エール”だったのではと今は思えるのだ。
 
応援を楽しみながら、知らないおじさんから“エール”をもらえる。それが、都市対抗野球。
今の私の誘い文句はこれだ。来年も再来年も私は都市対抗に通うつもりだ。もう一度東京ドームであのおじさんに会えたなら、ビールを乾杯しながらあの日の分まで応援を楽しむと決めている。
 
 
 
 
***
 
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2023-02-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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